この記事は Dave Evans によるブログ「Ushering in the New Era of Healthcare」(2013/2/26)を翻訳したものです。
私は身の周りの世界を観察することが好きで、健康には特に関心を持っています。
最近感じているのは、医療機関を取り巻くさまざまな問題により、医療従事者が仕事に対するやりがいを見出しにくくなっているのではないかということです。新しい規制、増加する医療訴訟、上昇するコストや業務量などの問題が、患者の生活の質を高めることを目指してきた医師や看護師、病院の関係者の大きな負担となっているように感じられます。
このような現状はあらゆる人にとって大きな問題となります。多くの国で人口が増加し、高齢化が進んでいる今、もっと多くの医療従事者が必要です。決して減らしてはなりません。医師や看護師がもっと快適に働けるようになり、生産性が高まれば、患者ケアの質も自然と高まります。人生を医療に捧げる人々が快適な環境で働けるようにするべきなのです。
しかし、医療従事者にとっても、それ以外の人々にとってもよいニュースがあります。私たちは今、大きな転換期「医療ルネサンス」を迎えています。Internet of Everything(IoE)、ロボット工学、3D印刷、ウェアラブルテクノロジー(身に着けられる技術)、クラウド、モビリティなどの革新的な技術が、医療業界を新時代へと導きます。医療分野での技テクノロジーの進化はこれから本格化します。
わかりやすくするために、今後10年の医療業界で予想される変革の例をいくつか挙げてみましょう。
1)専門知識を拡散し、良質な医療を広範囲に提供:現在の医療機関が抱える問題のひとつは、専門知識や技術が特定の施設や人物に留まってしまうということです。たとえば、困難な手術を執刀できる外科医がひとりしかいなければ、手術は 1 ヵ所でしかできません。将来は、ビデオやロボット工学、センサー、ジェスチャー認識、IoE などを組み合わせた特別な設備を用意することで、外科医が離れた場所から手術できるようになるでしょう。
Intuitive Surgical の超精密な手術ロボットが成果を上げていますが、リモート手術の実現の障壁となっているのが、手術ロボットでは触覚的な感覚をつかめないという点です。圧力や温度などを感じられない指で複雑な手術を行うことを想像してみてください。しかし先日、米国の食品医薬品局(FDA)が、手を失った人が感覚を得ることができる初の義手を認可しました。たとえば、これと同じテクノロジーを外科医の手袋に応用すれば、離れた場所にいても、患者の傍で執刀しているかのような感覚を得ることができるでしょう。
2)患者を助ける多彩な技術:3D印刷技術の進化により、解剖学的に正確で、見た目も機能も本物そっくりの人口耳を作れるようになりました。この耳は、成形された型に、生体細胞をインクジェットプリンタのように注入して作成されます。たった 3 ヵ月で、軟骨細胞が増殖し、型に合わせて成形されます。医療研究者や外科医によれば、この人口耳が、先天性奇形を持つ子供への移植や、事故で損傷した耳の再建に実際に使用される日が間もなく来るということです。
視覚に関する技術も進化しています。網膜色素変性症によって視力が低下した患者の視覚をある程度回復する世界初の人口網膜デバイス Argus II が、最近 FDA に認可されました。また、デューク大学の研究チームは、センサーを埋め込んだ実験用ラットに、通常は人間にも齧歯動物にも見ることができない赤外光を視覚的に認識させ、反応させることに成功しています。このテクノロジーは、目の不自由な人々に役立つことでしょう。
テクノロジーが実現する医療の変革として、病院や診療所などの医療機関の役割の変化もあります。インターネットによって、従来限られた人しか入手できなかった情報に誰もがアクセスできるようになったように、ここで紹介したさまざまなテクノロジーが医療にも平等をもたらします。
テクノロジーの進化による治療の変化に応じて、医療システム(病院、診療所など)も変革を起こさなくてはなりません。たとえば、医療が地域に行きわたれば、総合病院が優れた医療システムの中心となって、最良の治療を患者に提供できるよう、医療サービスの質や安全性を監督する役割を担うことができるでしょう。特定の場所ではなく、どこでも医療サービスを受けられる時代がやってくるでしょう。
もうひとつの重要な変化があります。医療が、必要なときにだけ受診する一時的な出来事ではなく、日常生活の一部として継続的に行われるようになります。たとえば、鏡に向かって歯磨きしながらちょっとした健康診断を受けられたらいいと思いませんか? バーチャルリアリティ、スマート サーフェス、クラウド コンピューティング、ジェスチャー認識のほか、Eulerian Video Magnification のような新しいセンサー技術を使えば、心拍数などのバイタルサインを測定することも可能になります。この測定値は、あなたの健康に関する情報と一緒に、かかりつけの医師に送信されます。受け取った医師は、最新の分析機器や IBM の Watson などのリソースをクラウドで使って、対処すべき問題があればすぐに気付くことができます。
テクノロジーは医療の変革で重要な役割を果たしますが、真の変化を生み出すのは、現状を変えようとする人々の情熱です。中世のルネサンスがそうであったように、変革に必要な要素(この場合は、科学、テクノロジー、物理学、ネットワーク、通信)はすでにこの世に存在します。これらのパーツを集めて、医療の新時代を切り開けるかどうかは、私たちの肩にかかっているのです。