2019年〜2020年にかけて、商用化が予定されている第 5 世代移動通信システム「5G」が、業界内で多くの関心を集めています。ここでは、5G へのシスコの取り組みについて紹介します。なお、今回は概要編、次回以降で詳細編を予定しています。また資料は先にリリースされたホワイトペーパー「Cisco Ultra 5G Packet Core Solution」に独自の解釈を加えたものになります。
はじめに
第 5 世代移動通信システム(通称「5G」)は、3GPP(Third Generation Partnership Project)にて策定されているモバイル通信方式で、第 4 世代移動通信システム「4G / LTE」の進化型通信方式として定義されます。2018年 6月 14日に NR(フェーズ1)仕様策定が完了したリリース 15 では、5G ネットワークの要求仕様に対応するための新しい 5G 無線とパケット コアの進化が定義されています。
以下は、5G にて提供が予定される機能です。
- 超高速データ通信(1〜20 Gbps)
- 超低遅延(1ms以下)
- 単位面積あたりの帯域幅(1000倍)
- 大規模な接続性
- 高可用性
- 高密度なカバレッジ
- 低エネルギー消費と端末側電池寿命を最大10年間まで向上
4Gと比較して、大幅な性能向上を目指して設計されていることが分かります。
次の数値は、5G-PPP(EU 委員会と欧州 ICT の共同イニシアチブ)によって定義された予測の一部です。5G-PPP では、5G は無線および有線ネットワークを橋渡し(ブリッジ)し、無線アクセスからコア ネットワークへのネットワーク アーキテクチャ変更を必要とする可能性があるとしています。
- 無線容量の増加(1000倍)
- 人の接続性(70億人)
- モノの接続性(7兆デバイス)
- 90%のエネルギー節約
- 無停止(ゼロダウンタイム)の実現
既存の 4G システムを並行稼働させつつ、どのように 5G の展開を計画するか、その展開方法については議論中であり、各通信事業者が様々な移行方式を検討しています。また、高速データ通信や低遅延のように端末側の電池消費を必要とする技術と、低エネルギー消費やバッテリー寿命という、一見矛盾とも思える相反する仕様の同居は、それだけ利用例(ユースケース)を意識した議論を経た実装になると期待できます。
実際に 3GPP では、利用用途を意識した技術を取り入れたうえで汎用性を高めるため、様々な機能をオプションとして提供しています。これにより、性能の向上と使用性の向上の両立を狙っています。そのため通信機器メーカーは、仕様をきちんと考慮し、システムに実装している必要があります。さらに通信事業者は、通信インフラやプラットフォームの独自性よりも、コンテンツへの注力が必要になると考えられます。
シスコの 5G ビジョン
シスコの 5G への取り組みを紹介するうえで、過去を振り返る必要があります。第 3 世代、第 4 世代と技術を振り返りながら、進めていきたいと思います。
3G では、回線交換(Circuit Switch)とパケット交換(Packet Switch)という2つのコア ネットワークが共存しており、音声通信とデータ通信をそれぞれ異なるコア ネットワークで処理をしていました。これが 4G になると、この 2 つのコア ネットワークを EPC(Evolved Packet Core)によって統合し、すべてのトラフィックを IP 上で処理されるようになりました。3Gと4G、どちらの通信技術もモバイル デバイス上のデータ通信の基盤となり、モバイル デバイス上のビデオ、eコマース、ソーシャル ネットワーク、ゲームなどのアプリケーションの普及につながりました。
3G / 4Gのユースケースは、主に消費者/企業のためのモバイルブロードバンドを提供するためのものでした。次の段階として通信事業者では、新たに着目しているいくつかの傾向と、新しいビジネス機会があります。
このような新たなユースケースが導入されると、新たな課題と複雑さが浮き彫りになります。そのため 5G ネットワークでは、通信事業者が現在のニーズを管理するだけでなく、今後現れるであろう新しいユースケース、新しいニーズを満たすための準備もしておく必要があります。つまり、モバイル ブロードバンドを強化するための高速データ・低遅延接続だけでなく、新たなユーザ要求やニーズを元にした、新しいユースケースに対応できる新しい機能が、5G では提供されています。
シスコは、通信事業者があらゆる顧客ニーズに対応して新たな収益とビジネス機会を得られるように、既存のユースケースおよび新しいユースケースをサポートする 5G の展開を想定しています。そのために、標準化されたマルチベンダー環境におけるデータセンター、ネットワーク、モビリティのビジネスにおける大規模な変化をサービスプロバイダーが活用する機会として、5G コア機器の開発を実施しています。
そこには、ネットワークスライシングと、より細分化された機能による“パーソナライズされたネットワーク”のような新しい機会を創出するモバイルコアにとって、非常に重要な変更が定義されています。
以下は、5G が対応するユースケースの一部です。
- 運輸サービス(バスなどの自律運転システム)
- IoT
- 拡張現実/仮想現実
- スマートシティ
- 製造業
- タッチ インターネット
- 医療・ヘルスケア
- スマートグリッドおよびユーティリティ
- 社会インフラ
- スマートオフィス
以下により具体的なユースケースを記載します。
拡張モバイルブロードバンド(eMBB)
拡張モバイルブロードバンド(eMBB)は、加入者に高速かつ高密度なブロードバンドを提供します。5G はギガビットの通信速度で、従来の固定回線サービスの代替手段としての提供を目指します。また、mmWave 無線技術(ミリ波)に基づく固定無線アクセスは、5G 無線接続によるビデオなどの高帯域幅サービスをサポートします。
eMBB ユースケースをサポートするためには、モバイル コアが必要とされるパフォーマンス密度とスケーラビリティをサポートしなければなりません。
超高信頼性の低遅延通信(ロボット、ファクトリオートメーション)
超高信頼性の低遅延通信(URLLC)は、拡張現実(AR)および仮想現実(VR)などでの利用を想定しており、具体的には医療分野における遠隔手術、遠隔健康モニタリング、小売・物流分野におけるインテリジェントな輸送、製造業分野におけるファクトリー オートメーション(FA)などのミッションクリティカルなサービス提供用途に重点を置いています。
5G は上記のようなユースケースにおいて、非常に機密性の高いユースケースを既存の有線接続に相当するワイヤレス技術を提供します。さらに、URLLCでは、データ遅延要件を達成するために、制御部およびユーザデータ部分離(CUPS)アーキテクチャを用いて、エンドユーザに地理的に近い位置にモバイルコアユーザプレーン機能(UPF)を配置する必要が求められています。
大規模な IOT
5G の目的の1つである IoT の大規模展開は、さまざまなサービスと数十億のデバイス接続をサポートすることを目的として設計されています。 IOT サービスは、比較的狭い帯域幅(180kHz〜1.08MHz)を必要とするデバイス センサーから、スマートフォンなどの広帯域通信と同様のサービスを必要とするコネクテッド カーまで様々です。
ネットワーク スライシングは、サービスプロバイダーが企業に対して Network as a Service(NaaS)を有効にする方法を提供します。 5Gネットワーク上で自社のデバイスやサービスを柔軟に管理することができます。
まとめ
以下に、これらのユースケースの特徴を示します。
- 通信事業者の商用カバレッジで効率的な低コスト通信を実現
- IoT デバイスの初期化と設定をネットワークから実現(中央集中管理)
- 従来の通信プロファイルでは取り扱わない希少な通信プロトコルなども、柔軟にサポート
参考リンク
・Cisco Ultra 5G Packet Core Solution (英語)