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ネットワーク アーキテクチャ考 (33) 分散クラウドとエッジコンピューティング


2021年11月10日


「分散クラウド」と「エッジ コンピューティング」という言葉、皆様は使い分けていらっしゃるでしょうか。私は同じような意味で使っていました。分散クラウドまたはエッジ コンピューティングにより、データをユーザの近くに偏在させ、または、データを生成元の近傍で処理することにより、遅延を縮減し、プライバシー保護やデータの地産地消を実現します。この「データの偏在」は、”Data Intensive Architecture” の重要な構成要素でもあります。

 

分散クラウド・エッジコンピューティングと、「インターネットの次の構造」

インターネットの構造は、かつての  Tier1 キャリア中心のネットワークから、CDN や Cloud の台頭により、大きく変化しています。2016 年に OTT トラフィックがキャリアのトラフィックを上回り [1]、主要海底ケーブルのほとんどのトラフィックが  CDN, Cloud などのコンテントプロバイダーにより占められるようになりました [2]。そして今後、分散クラウド・エッジ コンピューティングの普及により、インターネットの構造はさらに変遷すると考えられます。

そこで先日、「エッジ コンピューティング – インターネットの次の構造」と題して、ラウンドテーブル会議を実施しました。

シスコでは、日本社会のディジタル変革を支援すべく「CDA(Country Digital Acceleration)プログラム」を実施しており、その取り組みの一環として、ディジタル化をめぐる各分野の第一人者の方々をお招きし、産官学の協力による課題解決の方向を探るために、ラウンドテーブルという議論の場を持たせて戴いています。今回は、慶應義塾大学 中村 修先生、総務省 高村 信さま、トヨタ自動車 村田 賢一さま、NTT East 山本 晋さま、NTT Data 古賀 篤さま、KDDI 大谷 朋広さまにご登壇いただき、闊達に意見交換しました.

そこでは、新たなデータ送受信・集配信モデルの必要性、データのプライバシー保護やエンド to エンドでの QoE、エッジコンピューティングシステムの実装・展開に向けたエコシステムづくりの必要性などが議論されました。その議論の様子はブックレットにまとめていますので、ぜひご一読戴きたいと思います。CDA ラウンドテーブル 「エッジ コンピューティング – インターネットの次の構造」

 

“Cloud First”と”Mobile First”が噛み合っていない

さて、分散クラウド・エッジ コンピューティングについてサーベイしたところ、いくつかのギャップが浮き彫りになりました。まず、「分散クラウド」と「エッジ コンピューティング」は、実は、人やコミュニティによって若干ニュアンスが違うようでした。言わば、分散クラウドは”Cloud First”、エッジコンピューティングは”Mobile First”というところでしょうか。通信業界で「エッジ コンピューティング」というと MEC を意味することが多いようです。元々 ETSI が MEC ISG (Industrial Specification Group) を創設したときは、MEC は Mobile Edge Computing の略でした(現在は、Multi-access Edge Computing に変更されています)。

“Cloud First”の見地からすると、Public Cloud/Hyper Scaler の躍進が顕著です。通信事業者と協業し、通信事業者のサイトに分散クラウドを張り出すことを積極的に推進しています。ただこちらは、つながっていることが前提で、ネットワークのことはかなり捨象されています。一方、”Mobile First”な ETSI MEC や 3GPP によるエッジコンピューティング仕様は、とにかくコネクション中心です。コネクション中心アーキテクチャ は、そもそも分散コンピューティングには適していないという側面があるので、できるだけコネクションには捉われずにアーキテクティングしたいです。分散コンピューティング を実現するためにモバイルアンカーを分散する必要がありますが、そうするとアンカーが移動する際にコネクションが再確立され、IP アドレスも変わります。であれば、そこまでコネクションにこだわる必要はないはずです。さらに、3GPP の「エッジコンピューティングを実現するためのアーキテクチャ」[3]では、ユーザが移動するときに、接続先の分散サーバーを変更するための決定や探索、そしてサーバー側で持っていたアプリケーションコンテクスト情報の転送なども規定されています 。しかし、どこまでの分散が必要なのか、どのような QoS/QoE 特性が必要なのかはアプリケーションに依存し、その想定も見えないまま仕様を規定するのは、過度な複雑化にもつながります。

先ほど「いくつかのギャップ」と言いましたが、それを一言で表すと、“Cloud First”と”Mobile First”が噛み合ってない、ということだと思います。この辺は、先日開催された ONIC(Open Networking Conference) Japan 2021 で発表したので、ご覧いただけたら嬉しいです。ONIC 2021 「Data Intensive Architecrture へ – エッジコンピューティングとマルチアクセスの問題」

この状況を打開するためにはどうしたら良いか。コネクション偏重から脱却して、ネットワークをシンプル化・共通化し、QoE を向上する仕組みをプラットフォームとして提供する必要があると思います。そのためには、アプリケーションとの連携を考慮し、フルスタックでアーキテクチャを見直したい。今の技術領域毎の垣根や標準化団体のサイロを崩したい。

そんなことは言うが易しで、実際に実現するのは難しいことはわかっています。でも、やらなくては!

 

[1] https://www.researchgate.net/publication/321533609_Universal_Basic_Internet_as_a_Freemium_Business_Model_
to_Connect_the_Next_Billion

[2] https://blog.telegeography.com/trends-in-cloud-infrastructure-and-global-networks

[3] 3GPP TS 23.558

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2 コメント

  1. この仕組みとその上の仕組みがないとがないと日本の製造業のIoT・AI活用、そしてDXは進みませんね。

    • Miya Kohno

      コメントありがとうございます。これだけではないですが、同意です!!