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エンジニアが「市場を作る」人脈作りと知識向上の近道はIETFへの参加

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2023 年 3 月 25 日~ 31 日にかけて、横浜で第 116 回 IETF 会合が開催されます。日本での開催は 2015 年 11 月に開催された IETF 94 以来、7 年と 4 ヶ月ぶりです。Cisco Japan Blog では、全 3 回にわたって Cisco Japan で IETF に関わるメンバーに、IETF の意義や歴史などを聞き、そのあらましをお伝えします。第 2 回は、そのキャリアの中、長く IETF に関わり、IoT のネットワークのスペシャリストである坂根昌一さんに IETF への関わり方、そしてエンジニアが IETF に参加する意義について聞きました。インタビューと文はマーケティング本部の池田です。

 

IETF に関わるきっかけ

 

池田: 坂根さんの現在のシスコでの立ち位置をお聞かせください。

坂根: 私は 2010 年にシスコへ入社し、当時シスコが新規分野として手がけようとしていた IoT に関する技術の調査や製品開発に関わってきました。現在はイノベーションセンターに所属しており、日本のお客様に対して技術や製品の普及活動を行っています。

 

池田: 坂根さんが IETF に参画するきっかけはなんだったのでしょうか。

坂根: 初めて IETF に関わったのは 1995 年のことです。ちょうどその頃、IPsec が登場しました。当時勤務していた会社でファイアウォールに IPsec を実装してみようという話になり、いくつかの RFC を読んで、基本部分の実装を終わらせました。ところが、その仕様が変わることがわかったのです。

 

池田: 仕様として固まっていると思っていたものが、知らぬ間に変更されていたということですね。

坂根: そのとおりです。当時は「 RFC に仕様として書かれていることが、そんなに急に変わるものなのか!?」と不思議に思ったものです。いま考えれば当然のことなのですが「 RFC は改定される」ということを知らなかったのです。

それまでの私は「仕様」は誰かが作ってくれるものだと思っていました。しかし、いちエンジニアとして、仕様は自分の手で作って世に広めて行かなければならないものなのだ、と強く感じたのです。

この経験をきっかけに、1996 年に IETF のメーリングリストに参加して、議論に加わることにしたのです。

 

自分が関わった技術の標準化に向けて積極的に活動

 

池田: IETF では、どのような活動をしてきたのでしょうか。

坂根: 私は 1995 年から WIDE プロジェクトに参加していました。WIDE プロジェクトは日本国内にインターネットを広めるために、多くの大学や企業と連携してさまざまな技術の開発や導入を進めていました。その活動の中で、IPv6 と IPsec のスタックを実装して世界に向けて無料で普及させることを目的とした「 KAME プロジェクト」という共同研究プロジェクトが立ち上がることになり、発足当初から私も参加することになりました。

そして、私を含むプロジェクトのメンバーは IETF に直接参加することになります。ミーティングに参加して議論を行い、都度発行されるドラフトを読んでフィードバックして、実装して相互接続テストにも参加し、また問題についてフィードバックするといった活動を 2 年間ほど行っていました。

 

池田: 取り組んでいた技術の標準化のためにIETFに直接参加したのですね。

坂根: KAME プロジェクトは 8 年間ほど続いたのですが、IPsec と IPv6 の技術策定と標準化活動を行い、仕様の検証のために書いたコードが参照実装として世に広まっていくことになりました。

 

池田: 素晴らしいご経験ですね。その後、シスコへの入社タイミングとなりますね。

坂根: 標準化に関する活動は実はもう少しあります。2004 年ぐらいに IoT についての規格「 6LoWPAN(シックスローパン)」ワーキンググループが IETF に立ち上がります。同ワーキンググループでは「 IEEE802.15.4 」と呼ばれる無線技術の上に IPv6 を動かすための規格を検討していました。私も KAME プロジェクトでの経験を生かしながら仕様の検討と実装、評価をして標準化に貢献しました。

その少し後に、「 ISA100.11a 」と呼ばれる工業無線の標準化に関わることになります。ここでは、セキュリティに関する技術検討サブワーキンググループに参加して、工業無線機器が安全にネットワークに参加するための技術の標準化を行いました。このワーキンググループにはシスコのメンバーが参加していまして、こんなところにもシスコが関係していると驚いたことを覚えています。

そして、その後に IETF や ISA100 等の標準化団体での活動でできたご縁で、シスコへ入社することになりました。

 

池田: シスコへの入社も IETF で築かれた関係性などがきっかけになっているのですね。

坂根: そうですね。シスコ入社後。2012 年以降は「 Wi-SUN( Wireless Smart Utility Network ) Alliance 」の発足とその規格の普及に携わっています。日本のレギュレーションに従って Wi-SUN Alliance へ情報をフィードバックし、仕様に盛り込む活動をしてきましたが、それと同時に、Wi-SUN を日本中に広める活動もしています。

 

池田: Wi-SUN というと、次世代の電力量計である「スマートメーター」に関わる規格ですね。

坂根: はい。その一方で、IoT に関わる通信技術である LPWA に含まれる「 LoRaWAN 」についての規格を標準化するとともに、LoRa Alliance のメンバーとして啓蒙活動を行っています。同時にシスコの社員として、パートナー様とともに LoRaWAN 製品を日本に普及させる活動も行っています。

 

池田: IoT、工業無線といったジャンルで標準化に携わるとともに普及に尽力されてきたのですね。

坂根: はい、そのとおりです。設計と実装ができるエンジニアとして長く関わってきました。

 

エンジニアが IETF に参加する価値、意味とは

 

池田: なぜ、坂根さんは IETF に参画し続けていらっしゃるのでしょうか。その理由や参加する意義を教えてください。

坂根: 私が IETF に参加して標準化を推進している理由は、どんなに素晴らしいものを作っても、エコシステムがなければ世の中に広がっていかないと考えているからです。標準化はエコシステムを作るための道具になりえます。IETF はインターネット技術の標準化の場であり、インターネットに関わるエコシステムを作る最もよい場所と考えています。

 

池田: IETF では、どのような方法で標準化の基準を決めているのか教えていただけますか。

坂根: IETF は少し特殊な団体と言えます。一般的な標準化団体だとボーティングメンバーがいて、投票したうえで決めた事項を下部グループに指示していく、いわゆるトップダウン方式で標準化作業が進むことが多いです。しかし IETF では、ある技術に関心のあるメンバーが集まり 1 つのグループができます。そのメンバーが自発的に議論を行い仕様を決めて世の中に送り出していきます。この自発的に活動することは、インターネットの発展には重要だと思っています。

 

池田: 現場をよく知るエンジニアの皆さんが主導となって仕様を決めているのですね。坂根さんは、IETF 以外にも活動の場を広げているとうかがいました。その活動についても教えてください。

坂根: IETF の活動を普及させるために ISOC-JP でも 5 年ほど活動しています。最近では、ISOC-JP が開催した「 IETF の歩き方」という初参加者のための勉強会において、「 IETF の道しるべ」と題して講演を担当しました。

ISOC はインターネットを世界中に普及させることを目指したボランティア団体で、インターネットにおける政治的、調整的な役割を担っています。技術的なことには直接関わりません。その日本支部が ISOC-JP です。一方、技術に関わる役割を担っているのが IETF で、両者は発足当時から関係があります。

ISOC は、必ずしも特定の技術スペシャリストでなくても、熱意や思いがあれば企業や所属団体の垣根を越えて参加して活動できるのが特徴です。たとえばジェンダーの問題をインターネットの世界でニュートラルにしようという取り組みをしているのですが、私はそういった海外の取り組みを日本語訳して紹介する活動も行っています。

 

池田: 今後活躍が期待される若手エンジニアたちにとって、IETF や ISOC に関わることで得られるメリットや価値を教えていただけますか。

坂根: そもそも、IETF や ISOC について良く知らないエンジニアも多いのではないでしょうか。そういったコミュニティに参加し、優れた技術を自発的に探しに行くことはすごく大事ですし、自分で得た技術を人に伝えるということも非常に重要です。エンジニア同士での仲間作りという意味でも、私がこれまで長くしてきたような IETF や ISOC での活動は大切だと思っています。エンジニアとして、自分が関わった製品やサービスを世に広めるためには、セールスという視点だけで考えるのではなく、ちょっと視点をずらして「市場を作る」というところから考えてみるのも良いでしょう。その市場を作る1つの方法が、IETF や ISOC での活動への参加と言えます。

幸いなことに今年は、8年ぶりに日本でIETFが開催されるタイミングです。IETFは興味さえあれば、誰でも気軽に参加できる団体ですので、視聴のみの参加でも良いので、まずは参加してみることをお勧めします。

 

池田: 貴重なお話、ありがとうございました。

 

Cisco エンジニアが語る IETF の魅力(全3回)

 

(3/22Update)

3月26日(日)のレセプションにおいて、Cisco ブースではOpen Roamingの展示を行います。ぜひお立ち寄りください。
詳細はこちら >> https://ietf116.jp/demos/

 

Authors

Shoichi Sakane

Software Engineering Technical Leader

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