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IETF との様々な関わり方 IETF 会場 のネットワークを支える NOC の役割とは


2023年3月21日


2015年に開催されて以来、実に 7 年 4 ヶ月ぶりの日本開催となる第 116 回 IETF 会合。NOC メンバーとシスコは、その IETF で使用されるネットワークの構築をかねてから担っていました。IETF コラムシリーズ第3回となる本稿では、IETF 本部のレギュラー NOC ボランティア唯一の日本人メンバーであり、今回の IETF116 のホストである WIDE プロジェクトメンバーの株式会社 Preferred Networks シニアリサーチャー・インフラ戦略担当 VP 浅井大史氏をゲストに、シスコのサービスプロバイダー事業部でシステムズアーキテクトとして活躍する鎌田徹平に、これまでどのようなネットワークを構築してきたのか伺うとともに、IETF と関わることでどのような価値を得られるのかについて話を聞きました。文はマーケティング本部の池田です。

 

IETF 会場におけるネットワーク設備全般の整備を担う NOC

 

鎌田: 約 8 年ぶりの日本開催ですね。今回の会場ネットワークはどのような規模ですか?

浅井(敬称略): IETF の会場では、会議参加者へインターネットサービスの提供が行われます。100 台規模のアクセスポイントを用意し、1000 ユーザー以上の同時接続を可能にする無線 LAN サービスのほか、一部の部屋での有線 LAN サービス、オンライン参加のためのネットワーク設備など、その内容は多岐にわたります。

8 年前の日本開催の時も会場のネットワークに関連する機器や設備、ルーターやアクセスポイントなどについては、シスコジャパンを含めたベンダーに提供していただいています。当時はまだ普及していなかった IPv6 の運用や、時には実験的な取り組みなどもあるため、シスコのネットワーク機器のことを正しく理解している方のサポートを機器と一緒にお願いしました。そして紹介いただいたのが鎌田さんでしたね。

 

IETF 116 Yokohama - Asai

鎌田: はい。それが私が IETF に関わるきっかけでした。2015 年に横浜で開催された IETF 94 ですね。アクセスポイントの提供とともに、エンジニアもボランティアとして参加することになり、先輩方にすすめられ、参加させていただくことにしました。

そこで、AP の設定から会場のケーブルチェック、IPv6 の運用などさまざまな作業を行いました。不調のルーターを交換するのに、会場の横浜から会社のある六本木まで往復するなんていうこともあったり、私の IETF 初回参加はかなりバタバタしたものでした。現在はもっと安定したオペレーションになっていると思いますが、当時はかなり臨機応変な対応を求められました。浅井さんとは、その会場で初めてお会いしてから、8 年来の付き合いになります。

 

浅井: 過去に日本では 4 回 IETF が開催されており、WIDE プロジェクトはそのすべての回でホストして関わっています。( IETF 54 は Fujitsu との共同ホスト)私自身は 2008 年から WIDE プロジェクトに参加しており 2009 年が IETF76 広島でした。私はまだ修士の学生でしたので、そこまで深く関わりませんでしたが、2015 年の IETF94 横浜で、NOC のリーダーをさせていただきました。NOC 以外にも、産学連携コンソーシアムとして、日本のスポンサーのご協力を募り、一丸となって IETF の日本開催に臨むことなどもホストである WIDE プロジェクトの重要な役割です。

鎌田: 浅井さんは 2015 年以降日本だけではなく、IETF 本部のレギュラー NOC での役割を担い続けているのですね。

浅井: はい。IETF の NOC メンバーは基本的には継続的なボランティアなのですが、日本は少し特殊で、継続的なボランティアの助けを借りながらも、WIDE プロジェクトがネットワークの設営や運用などをすべて担う形で実施してきました。

IETFの会場ネットワークについては、基本的に会場やホテルのネットワークをすべてテイクオーバーするユニークな構成となっているため、日本以外で開催されたIETF会場におけるネットワーク運用を知っておかないと対応することができません。

知見を深めるために、IETF 90 トロント以来 WIDE プロジェクトのメンバーとともに現地に向かったり、NOC ボランティアとして参加したりすることもありました。

 

浅井: 鎌田さんの IETF との関わりについて教えてください。

鎌田: 私は普段はシスコジャパンでサービスプロバイダーをお客さまとした営業組織でシステムズアーキテクトとして働いていて、通常であれば IETF のような標準化活動や、コミュニティへの参加などにはほとんど関わりがありません。

ただシスコとしては、IETF をはじめ色々な標準化団体やワーキンググループに積極的に関わっていますので、8 年前の横浜開催の IETF に参加したように、営業組織にいる SE もサポートとして参加することは少なくありません。私の場合は、そういった活動に積極的に参加をしており、IETF 以外にも、たとえば Interop の ShowNet でも NOC として活動していますが、そこでの成果を IETF のドラフトとして提出するような活動もしています。浅井さんとの出会いもそうですが、そのような活動から生まれる人脈や、知識は通常業務への大きなモチベーションになります。

 

IETF 116 Yokohama - Kamata

プロトコル開発にふさわしい安定したネットワーク環境の整備がミッション

鎌田: 色々なイベントネットワークが存在しますが、IETF の特徴はありますか?

浅井: IETF の大きな目的は標準化会議ですから、会議の成功が大きな目標であり、NOC としてはそれを支えるネットワークを作るというところが大きなミッションです。

一方で、メインの標準化会議が開始する週の直前の土日に、毎回ハッカソンが開催されていて、非常に盛り上がっています。ハッカソンイベントには多くの人が参加して、標準化を進めているプロトコルの実装や、インターオペラビリティーのテストなどを行っています。

ハッカソンの会場となるホテルにおけるネットワークの整備と提供も NOC として重要なミッションと言えます。

 

 

若手エンジニアの参加を促す仕掛け作りと大規模接続にも耐え得るネットワーク構築を担当

 

浅井: 今回の IETF 116 横浜は、新型コロナウイルスのパンデミック以来、初のアジア開催となります。コロナ禍の IETF は基本的にオンライン開催と現地でのハイブリッド形式で開催されてきました。そのため、メイン会場、ハッカソン会場、さらにもう1つ、オンライン開催のサポートも行うことが NOC の使命でもあります。

今回もオンライン開催をサポートするため、IETF 115 と同じネットワークを運用する予定です。本来であれば、前回の日本開催である IETF 94 横浜のように、日本のエンジニアコミュニティと優秀なオペレーターコミュニティの力を借りて、さらには若手の育成のためにも刷新したネットワークの整備を行うプランもあったのですが今回は見送ることになりそうです。

一方で、日本のエンジニアコミュニティ、オペレーターコミュニティの皆さんにも積極的に IETF 116 横浜に参加していただきたいので、なにか上手くつなげられるような仕掛け作りを検討しています。IETF では時折、ハッカソンで新しいプロトコルを開発したり、新技術を導入したりといった新たな試みが実行されますので、それらに関わっていただけるような計画を進めています。

鎌田: シスコジャパン側では、初日のレセプションでの OpenRoaming の実証実験などを検討中ですが、ほかに新しいものは導入されるのでしょうか。

 

浅井: 前回のロンドン IETF 115 ロンドンでは Wi-Fi 6 のアクセスポイント導入が進みました。これは、フィラデルフィアで開催された IETF 114 フィラデルフィアで NOCに限定導入した Wi-Fi 6 のアクセスポイントが上手く運用できたことを受けてのことです。ただし IPv6 周りのバグがまだ少しあるということで、修正しながら運用しました。そういう生のネットワーク運用、整備というのもの NOC の醍醐味ですよね。

鎌田: 私が最後に IETF に現地参加したのは 2019 年の IETF 106 シンガポールでした。その後オンライン開催になり、ようやくハイブリッドになったのが、IETF 113 ウィーンですが、現地に足を運んでネットワークを使う人は戻ってきていますか?

 

浅井: IETF 113 ウィーンのときは現地でのネットワーク利用は半分程度、IETF 114 フィラデルフィアではまだ若干少ない程度、IETF 115 ロンドンのときはほとんどフィジカルに戻っている印象でした。今回の IETF 116 横浜では、ほとんど人がフィジカルに回帰すると予想し、IETF 115 における無線の同時接続が約800台だったのを考慮し、約1300台の同時接続でも耐えられるネットワーク設備を整備しようとしています。

鎌田: IETF 116 横浜では、結構な参加人数が見込まれているのですね。開催が楽しみです。

浅井: はい、ものすごく楽しみです。ここ数回は停滞気味だったディスカッションが活発になるのではないかと、ホストとしてもコミュニケーションが活性化するようないろいろなイベントを計画しているところです。

 

 

IETF への参加で“次に”つながるを人的ネットワークを構築

 

鎌田: まだ IETF に参加したことがないエンジニアの方々に向けてなにかメッセージをいただけますか?

 

浅井: 日本では、ネットワーク技術に関わるエンジニアやリサーチャー、オペレーターが非常に近いところで協業できていると思います。海外ではそれらの仕事はかなり分業化されていますが、日本ならではの協業体制を活かしながら、産学連携で新しい取り組みに挑戦していただきたいです。

ハッカソンなどはまさにそういう場だと思うのですが、コミュニティに参加することで、運用や実装、標準化といったプロセスを知ることができます。多くの人たちと新たな人脈を作れたら、将来的なキャリアパスにも役立つことでしょう。

 

コロナ禍でそのつながりが弱くなってしまいましたが、せっかく日本で 8 年ぶりに開催される IETF です。コミュニティに参加することで、自分の知らない運用方法や、コードと標準化の関連性を知る、絶好の機会になるはずです。参加ハードルも低いので、若手エンジニアの皆さんには積極的に参加いただきたいですね。

鎌田: 私も 8 年前にひょんなことから参加した IETF ですが、そのきっかけがあったおかげで、間違いなく自分の活躍の場が広がったと思っています。実際に参加して、IETF の議論に加わるのはそんなにハードルの高いことではないと若手のエンジニアに知ってもらえればと思います。また、IETF への参加を機に、組織や役職を超えたつながりを作っていっていただけたらうれしいです。

 

Cisco エンジニアが語る IETF の魅力(全3回)

 

(3/22Update)

3月26日(日)のレセプションにおいて、Cisco ブースではOpen Roamingの展示を行います。ぜひお立ち寄りください。
詳細はこちら >> https://ietf116.jp/demos/

 

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