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5G がもたらすネットワーク革新とシスコの取組み


2021年11月29日


2021年10月に開催された「5G/IoT通信展」にて「5G がもたらすネットワーク革新とシスコの取組み」と題して特別講演をさせていただきましたので、その内容を簡単にご紹介します。

Withコロナ、Afterコロナにおけるデジタル変革が加速する中、5Gへの期待はさらに高まっています。本講演では、日本における5Gの現状と普及に向けたシスコのソリューションについて、さらに Beyond 5G と、昨今課題となっている持続的成長に向けシスコが取り組む技術革新についてご紹介しました。

日本における5Gの現状と普及に向けたシスコのソリューション

ご存じのように、日本国内の 5G は 2020年3月から都市部を中心としたエリアでサービスが開始されています。5G の特徴といえば、高速大容量、超低遅延、多数同時接続が挙げられますが、単純に「速いネットワーク」というだけではありません。サービスプロバイダーにも、企業ネットワークにも、大きな変革をもたらすと考えられています。

現在のモバイル通信サービスの売上は、一般消費者が84%を占めています。しかし 2025年には、企業および IoT における売り上げが52%を占めると予想されています。ここには 5G によってもたらされる多くのポテンシャルが反映されています。

ローカル 5G とパブリック 5G を活用した IT インフラとソフトウェア、サービス支出などITシステムに対する支出額の予測をご覧ください。2027年には 2,000億円を突破すると予測。これらは CAGR 80%の予測であり、5G 関連市場はこれから益々成長していくでしょう。

5G の市場予測

あらゆる産業のビジネスモデルを一変する可能性がある 5G に対して、シスコは「5Gコンバージドコア」「IoTプラットフォーム」「Open RAN」の3つの要素技術と、ソリューションにフォーカスし、エンタープライズネットワークとの融合を重要視しています。エンタープライズネットワークとサービスプロバイダーの両方に長年貢献してきたシスコだからこそ、提供できるソリューションがあります。

Cisco 5G Strategy

5Gがエンタープライズネットワークと融合していく上で、以下の3つの観点が重要と考えています。

  1. すべてを無理やり5Gに移行ではなく、ユースケースにあわせローカル5G、WiFi6などを相互補完して利用すること
  2. いずれのアクセス技術を利用する場合でも、統一した認証やアクセスポリシー、セキュリティポリシーの適用が大切
  3. アクセスが多様化し、アプリケーションがさまざまな場所に置かれる中では、フルスタックでの可視化(Full Stack Observability)も重要な課題

こちらは3つのアクセス技術を融合しマルチアクセスを実現した製造業での事例です。屋外を中心により広範囲にカバレッジの用途で5G・ローカル5G、高信頼、低遅延、固定バックホール回線には超高信頼ワイヤレスバックホール(Cisco Ultra Reliable Wireless Backhaul, 旧Fluidmesh)、さらにすでにエンタープライズでの利用が定着している部分にはWi-Fi 6と、それぞれの特徴を活かし、同じ工場拠点をマルチアクセス環境の棲み分けにより構成しています。5G時代においては、このようなマルチアクセスの実現が全体の最適化の観点で非常に重要になります。

製造業におけるマルチアクセスの例

(右上)Wi-Fi 6経由で個人デバイスをゲスト用セグメントに、業務端末を企業LANセグメントに接続
(右下)5G回線経由で、協働ロボットを接続
(真ん中+左下)CURWB を用いて遅延にシビアで信頼性を必要とする無人搬送者との接続、あるいは5G RANノード向けに無線バックホール回線を提供

このように企業のネットワークは、5G・インターネット利活用、リモートワーク、マルチクラウド、SaaS利用が当たり前になり、環境はますます複雑化していきます。そのため、今までとは異なるセキュリティ要件が発生するようになります。シスコでは、セキュリティ機能を設計段階から組み込み、エンドポイントからネットワークのさまざまなレイヤーに渡って多層防御の考え方を採用し、マルチアクセス時代における包括的なセキュリティを提供しています。

包括的なセキュリティ

また、無線ネットワークを含む多様なアクセス、アプリケーションパフォーマンスをエンドツーエンドで可視化し、適切に対処することが、ビジネスの生産性の担保と顧客満足度の向上に必要不可欠となってきます。ここで忘れてはならないのが、フルスタック オブザーバビリティによる可視化です。シスコでは、LANからWAN、インターネットまで可視化・分析する機能を備えたThousandEyesという製品を提供しています。世界中に配置されたエージェントで通信品質の変化や障害発生などをモニタリングすることで、通常は見えない“社内ネットワークの外側”も可視化し、障害時の原因特定や復旧の迅速化を図ることができます。

フルスタックオブザーバビリティ

シスコの考える Beyond 5G

ここまで5G普及に向けたシスコの戦略をブレイクダウンしてお話ししてきました。では、エンタープライズにおいて5Gが普及した時、ネットワークには「次」に何が求められるのでしょうか?ここからは、シスコが考えるBeyond 5Gについてお伝えしたいと思います。

今日のネットワークは、コネクションに依存したネットワークアーキテクチャになっています。PPPoE/L2TP や GTP(GPRS Tunneling Protocol)といったトンネルプロトコルを使用してユーザー毎にコネクションを張り、認証を行い、サービスを提供するというものです。しかしながら、今後の5Gを活用したサービスでは、分散化が進むにつれ、このコネクションがボトルネックになる可能性があります。

5Gがより成熟し、企業向けサービスを提供するプラットフォームとなるためには、データに必要情報を持たせることによって、コネクションに依存しない、データ中心のネットワークアーキテクチャに変遷していく必要があると考えています。

データ中心アーキテクチャ

そのデータ中心アーキテクチャを実現するための技術要素として、「マルチクラウド」「分散アプリケーション」「ゼロトラストセキュリティ」「マルチパス」「アプリケーションドリブンQoE」があると考えています。

このなかの1つである「マルチパス」を簡単に説明したいと思います。

タクシーや電車で移動しながらWeb会議に参加している場合、複数のアクセス方式を切り替えながら接続を維持するため、途中で画像や音声が途切れることがあります。こういったエクスペリエンスを改善するには、A or Bで複数のアクセス方式を使い分けるマルチアクセスではなく、同時に複数の方式を利用できるマルチパスが鍵となります。

このマルチパスを実現する手法の 1 つとしてご紹介したいのが、hICN(hybrid Information Centric Networking)です。ICNとは、IPアドレスのような宛先でなく、コンテントネームに基づいてルーティングを行う、全く新しい転送方式です。これにIP Routingとの共存を可能にするためにIP forwardingの仕組みと両立させたものがhICNとなります。hICNはインタレストというユーザーが投げるリクストに対し最も近いサーバからデータが返される、プルモデルを採用しています。

hICNによりデータの分散、モビリティ、コンテントベースのセキュリティを実現することができ、また、サーバ側にコンテクストを保持する必要がないので、容易にマルチパスを実現することが可能になります。

hICN によるマルチパスの実現

さらにもう1つ、「アプリケーションドリブンQoE」にも触れておきます。

現在のネットワークは、アプリケーションとは独立して動作しています。別の言い方をすると、アプリケーションがどのような動作をしても問題がないようにネットワークをつくってきたと言えます。そのため、非効率やアプリケーションにとって最適ではないネットワークになっている可能性もあります。

アプリケーションとネットワークを連携させて、アプリケーション毎のQoE要件や、ポリシーに基づいたネットワーク選択とモニタリングを行えるようにするのが「アプリケーションドリブン QoE」です。現在はまだ研究段階であり、アプリケーション、ネットワーク、デバイスの相互連携を実現して、QoEやポリシーの分析、コントロールを実現することを目指して開発が続けられています。

アプリケーション・ドリブン QoE

技術革新による持続的成長

シスコは5Gサービスの価値を最大化するため、データ中心アーキテクチャを実現し、移行するための技術開発を進めています。その一方で、IT 業界をリードする企業として、ESG(Environmental, Social, & Governance)を重要課題の 1 つと位置付けています。2021年9月には「Net Zero Commitment」という、バリューチェーン全体の炭素排出量を大幅に削減するためのシスコの取り組みを発表しました。CO2排出量の削減、廃棄物の削減、エネルギー効率の高い製品の開発など、持続可能な未来に向けたシスコのコミットメントです。

Net Zeroに含まれる項目の1つに「革新的な製品設計による製品のエネルギー効率の継続的な向上」があります。皆様に認識されているように、ネットワークトラフィック量が増えればネットワーク機器の増設に伴い、ICT インフラの消費電力も増大します。

持続可能な成長に向けて、ネットワークの消費電力は実は無視できないものとなっています。とくに通信事業者は一国のエネルギー消費量の2〜3%を占めると言われています。

シスコが提供するルーティングおよびスイッチングのためのアーキテクチャ「Cisco Silicon One」は、大容量、低消費電力のチップにより、サービスプロバイダーは増え続けるトラフィック需要に対応しながらも消費電力を抑えたネットワークを構築することができます。

その効果は、飛躍的な改善を実現しています。チップの数が大幅に減ったために輸送量も削減されました。電力使用量も、1家庭の年間冷暖房使用と同レベルだったものが、コーヒー1杯だけで済みます。例えばスイスコムでは、シスコのインフラに集約することで40%以上の電力削減が可能になる、と試算しています。

製品開発による環境問題への取り組み

もう 1 つ、「アーキテクチャ変革による環境問題への取り組み」として、Routed Optical Networkingを紹介します。これは、従来の光波長多重を司るDWDM、OTN、そして IP ルーティングという階層構造をフラットな構造へと移行するものです。これにより、コストのかかる DWDMとIP機器の間で行われる Optical back-to-backを排除し、部品点数を減らすだけでなく、ネットワークの自動化を可能にしてオペレーションを効率化します。実際の効果として、TCO 46%の削減が可能と言われています。

アーキテクチャ変革による環境問題への取り組み

もともとは高価な機器費用の削減が着目されていましたが、昨今の最大の導入モチベーションは電力削減です。このアーキテクチャシフトは一朝一夕にとはいきませんが、5G時代における高速・大容量のネットワーク構築の新たな解決策となるだけでなく、CO2削減に大きく貢献します。

シスコは、テクノロジーの革新により5Gの加速と、Beyond 5Gをリードしていきます。また信頼される企業として、個社としてだけでなく皆様のサプライチェーンの一旦を担う企業としても、持続的に成長可能な社会の実現に向けて、さらに貢献して参りたいと考えています。

これからのシスコに、ご期待ください。

 

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