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ネットワーク アーキテクチャ考 (32) NaaS – Cloud Native 時代のネットワークシステムのあり方

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Cloud Native 時代、マイクロサービスアーキテクチャ、イミュータブル インフラストラクチャ、宣言型 API、などが中心的原理になり、システム構成や設計方法論が大きく変化しています。それに伴い、ネットワークシステムのあり方はどう変化するでしょうか。ネットワークも、宣言的 (declarative) に、そして as a Service として、必要なときに必要なだけ、迅速性をもって提供されることが求められると思います。そのような中、登場したのが  “NaaS” という概念です。

最初に  “NaaS” という言葉を聞いたときは、いやいや as a Service って言うけれど、ネットワークって元々サービスではなかったっけ、と若干違和感を感じました。そう言えば、“Network Virtualization(ネットワーク仮想化)” という言葉が流行したときにも同じような違和感を感じました。ネットワークは、ある物理メディアにいかに通信を論理多重するか、ということが基本原理の一つなので、元来仮想的です。Virtual Private Network、Virtual LAN、Pseudo Wire など、関連用語も仮想的なものばかり。しかし、ある言葉が流行する、ということは、たとえそれがバズワードだったとしても、それなりの背景と意味があります。「ネットワーク仮想化」の時は、それまでハードウェア中心に構成されていたネットワークをソフトウェア中心に見直そう、という意味がありました。(少し話が逸れますが、かつて筆者は、バズワードと格闘しておりました。ネットワーク アーキテクチャ考 (19) 「Buzzword とイノベーションと」。遠い目。)

では、NaaS は、どのような意味や意義を持つでしょうか。その再定義を試みるために、今週行われる JANOG48 で、「NaaS – Cloud Native時代のネットワークのあり方」というセッションを持たせて戴くことになりました。Volterra/F5 の中嶋大輔さんと、同僚の佐々木俊輔さんとの共同発表です。JANOGer の皆様とどんな議論になるか、とても楽しみです。

一言で NaaS と言っても、コンテクストによっていろいろな意味を持つため、多角的な検討が必要です。今回の JANOG48 でのセッションを皮切りに、検討を深めて行きたいと思います。

ここでは、セッションの補足として、いくつかのポイントをメモしておきます。

NaaS の定義に関して

なるべく客観的なソースを参照したいと思っていろいろ調べましたが、Wikipediaの解説popup_iconがなかなか本質を捉えていると思いました。「SDN、Programmable Networking、API ベースの運用を、クラウド間ネットワークなどのあらゆるネットワーク運用にもたらす。」「ネットワークとコンピューティングのリソースを統合的な全体として捉え、リソース割当の最適化などを行う。」

しかし何と、この Wikipedia 解説の第一文目は、出典を見ると、長年の私の師(Guru)であり、現 Packet Fabric 社 CEO の David Ward の記事  “What is NaaS? & Why NaaS Now?”popup_icon  から引用されたものでした。世界は狭い! 実際我々は、David Ward 率いる Packet Fabric 社と、NaaS の分野においても協業を行っています  [記事] popup_icon

NaaS をめぐる諸論点

JANOG48 セッションでは、1) ビジネスモデル、2) 法的側面、3) Managed Service との関連、4) 抽象化、5) 新技術チャレンジの隠蔽という側面、について触れようと思っています。ここでは 3) Managed Service との関連について少し補足したいと思います。

NaaS を考える場合、それって所謂 Managed Service と違うんですか?という疑問が湧きませんか。私は湧きました。Managed Service とは、またまた Wikipediapopup_icon によると「業務改善や経費削減を目的として、様々なプロセスや機能の維持や必要性を予測する責任をアウトソーシングすること」ということなので、まさに NaaS も Managed Service と言えると思います。ただ、Cloud Native 時代、Managed Service は、IaaS, PaaS, FaaS, SaaS など、Managed Service の度合いが細分化されました。IaaS を利用し OS やデータベースなどを自前で選択運用するのと、PaaS として、OS は意識せず、データベースなどもプラットフォームとしてサービス提供を受けるのでは、“Managed” の度合いが大きく異なります。

NaaS は、Network のサービスとしての提供ということですが、その形態には、ハードウェア(の一部)はオンプレにあり運用管理を Provider Managed とするとか、データプレーンはオンプレにあるがコントロールプレーンは Provider 側にあるとか、様々なものが考えられると思います。この Managed 度合いの多様化・細分化は、Cloud Native 時代の一つの特徴と考えられます。

NaaS をめぐる論点 - 3) Managed Service との関連(JANOG48 資料より)

図:NaaS をめぐる論点 – 3) Managed Service との関連(JANOG48 資料より)

 

NaaS を実現する技術要素と今後の展望

NaaS を実現するにあたり、SDN Platform、抽象化、自動化、可観測性などが、重要な技術要素になります。そして、ネットワーク技術者は、NaaS を提供する立場になっても、利用する側になっても、もうこれで楽になる、ということにはならず、新たな価値を問われることになると思います。提供する側としては、ネットワークシステムの何を抽象化し、どう表現して価値を提供できるか。何をモニターし今後に結びつけるか、を常に考える必要があります。ユーザの立場であったとしても、NaaS の選定や自システムとの組み合わせ、サービスポートフォリオ、使い分けを常に考える必要があります。つまり技術者の自主性と創造力は、これまで以上に重要になると思います。

また、新たな技術を導入するチャンスにもなるし、今後の Edge Cloud などのプラットフォームサービスや、新たなマネージドサービスのあり方を考えるきっかけにもなります。既存のレイヤや領域・ドメインに捉われず、発想力豊かに、より良いシステムを実現して行きたいと思います。

 

Authors

Miya Kohno

Distinguished Systems Engineer, CTO for GSP Japan

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