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5G-シスコが考えるサービスプロバイダー E2E アーキテクチャ 第2章 5G におけるトランスポートテクノロジー(2)


2019年12月11日


前回は、5G のトランスポート技術としてセグメントルーティングを紹介しました。セグメントルーティングを用いることによって、エンドツーエンドでの IP による接続性を担保することができ、ネットワークスライシングへの対応も行うことができます。

今回は、5G のトランスポートにおけるもう一つの重要な要件として、時刻同期技術に関して紹介していきます。

 

2.5 時刻同期

5G のトランスポートに対する重要な要件の 1 つに時刻同期があります。時刻同期は、主に周波数同期と時刻/位相同期に分類されますが、LTE や 5G で提供する時分割多重通信にこの時刻/位相同期が利用されており、基地局において時刻同期を実現することで周波数帯域の利用効率を向上させることができます。

特に 5G ではさらなる帯域利用効率の向上や通信品質の向上のための高度な通信方式が求められており、非常に高精度の時刻同期が要求されます。

表 2-1 に各アプリケーションにおける時刻同期精度の要件を記します。[1]

表 2-1 各アプリケーションと時刻同期精度要件

Level of Accuracy Typical Application
(for information)
Maximum Relative Time error requirement
6A Intra-band non-contiguous carrier aggregation,
with or without MIMO or TX diversity,
and
Inter-band carrier aggregation,
with or without MIMO or TX diversity
260ns
6B Intra-band contiguous carrier aggregation,
with or without MIMO or TX diversity
130 ns
6C MIMO or TX diversity transmissions, at each carrier frequency 65ns

これらの要件を満たすために、従来、Global Navigation Satellite System(GNSS; 主に GPS )から受信する時刻情報に同期することで対応してきましたが、GPS では屋内や信号が弱い場所などでは利用が困難であったり、設置するのにコストがかかるといった物理環境に由来する問題点がありました。

そこで、Precision Time Protocol(PTP)[2] を始めとしたパケットを通して同期を行う技術に注目が集まっています。PTP では、Grand Master Clock(GMC)となる装置が GNSS と時刻同期を行ったあと、配下の装置である Boundary Clock(BC)や Slave に対して PTP によりパケットを通して時刻同期を行うことで、ネットワーク全体に対して単一の GTP ソースから IP を用いて同期を行うことができます。また、表 2-1 に記した精度を達成するために各構成要素に関してもさまざまな提案がなされています。

GMC について G.8272[3] では最大時刻誤差 100ns を定義しており、高精度なレシーバを搭載することが求められます。また、GNSSと時刻同期ができなくなった際に、高精度な時刻を維持するために周波数同期を利用する手法として G.8272.1 が策定されています。

周波数同期技術としては Sync-E があり、PTP と並行して動作させるという検討も必要と考えられます。物理要件によっては GNSS 信号を受信できない、または品質を担保することができない可能性もあるため、いかに高精度な時刻情報を取得するかについては、今後も非常に重要なトピックの 1 つとして検討を重ねていく必要があります。

次に、 BC についても時刻誤差を低減するための要件があります。BC において時刻誤差を起こす要因としては主に 2 つあります。

1つ目は装置内の処理遅延です。PTP ではパケットに対してタイムスタンプを打刻して隣の装置に対して時刻情報を広告し、隣の装置も時刻情報を打刻した PTP パケットを戻すことで双方向の伝送遅延を考慮した時刻同期を行います。

このタイムスタンプを打刻する際の処理遅延は、 PTP の時刻同期精度に非常に大きな影響を与えるため、高精度なハードウェア タイムスタンプを打刻できる装置が必須となります。

また、装置内で打刻したあと PTP パケットを送信するまでの処理遅延についても検討が必要です。この処理遅延は装置の実装に依存し、標準化された方法での対処が困難であるため、あらかじめ注意が必要です。

2 つ目の要因としては装置間の伝送遅延です。特に双方向の伝送遅延が非対称となる場合には注意が必要であり、遅延変動を除去するための手法も議論されています。

上記のように時刻同期に関する要件は、ハードウェアに依存する要素が非常に大きいですが、5G のネットワーク要件としては必須要件となるため、念頭においてネットワーク設計を行う必要があります。

 

2.6 まとめ

2 章では、5G におけるトランスポートテクノロジーについて解説しました。5G のネットワークでは Edge computing への対応や遅延に敏感なトラフィックへ対応するためにエンドツーエンドでの IP による柔軟な制御が必須の要件となり、様々なサービスを重畳するケースも検討する必要があります。本章ではこの要件を満たす技術としてセグメントルーティングの紹介を行い、また、もう一つ重要な要件となる時刻同期についても解説いたしました。

 

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参考文献

[1] ITU-T Q13/15: “Network synchronization and time distribution performance Supporting 5G mobile transport and fronthaul”
[2] IEEE Std 1588-2008: “IEEE Standard for a Precision Clock Synchronization Protocol for Networked Measurement and Control Systems”
[3] ITU-T G.8272: “Timing characteristics of primary reference time clocks”

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