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ネットワーク アーキテクチャ考 (19) 「Buzzword とイノベーションと」

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唐突な質問ですが、みなさま、Buzzword とどう付き合ってますか。

おっとその前に、Buzzword とは何かを定義しなくてはなりません。ここではOxford、Merriam-Webster、そして Wikipedia の定義を引用してみます。

Oxford:
A word or phrase, often an item of jargon, that is fashionable at a particular time or in a particular context(ある時期やある文脈において流行している語やフレーズ、多くの場合業界隠語)」

Merriam-Webster:
An important-sounding usually technical word or phrase often of little meaning used chiefly to impress laymen(重要そうに聞こえる、多くの場合あまり意味が無い、専門外の人を感心させるような語やフレーズ)」

Wikipedia(Japanese):
「定義が曖昧でありながら、権威付けする専門用語や人目を引くキャッチフレーズとして、特定の時代や分野の人々の間で通用する言葉」

・・・という訳で、「明確な定義がないまま流行している言葉」と言えるでしょうか。これは、「まずは問題定義から始めよう」、「反証可能な仮説を立てよう」、「証拠に依拠しよう」、などということを事ある毎に叩きこまれてきた技術者にとっては、かなり気持ちの悪いものです。また、本質的な新しい要素は無いのに、新たな名前がつくだけで何だか新しく感じられる、ということもよく起こるため、尚更気持ちが悪い訳です。そのため、できれば Buzzword には惑わされたくないし、振り回されたくもない。

しかし、現実はそうもいきません!Buzzword によりマーケットが動くので、実際にビジネス チャンスが生まれます。お客様からのお問合せもびっくりする程増えます。しかもビジネス現場だけではなく、研究開発現場までもが Buzzword に左右されます。研究と Buzzword は、先の定義からすると対極のように思えますが、流行ものには予算がつきやすい、研究者が集結しやすい、などの現実的な理由により、研究現場が Buzzword と無関係でいられるとは限らないのです。よって、霞を食べて生きられない身としては、Buzzword だからと言って嘆いたり鼻であしらう訳にはいきません。ではどうするか。

1. 反発せずに受容する

「単なる Marketing Buzzword でしょ」、「それって既にある技術の焼き直しだよね」などと言って打ち捨ててはいけません。まずは「市場の期待」という現実を受容する。

2. 本質的な価値を見出し、育てる

その上で、本質的な価値可能性を見出す。価値がなければ、単なる hype(過剰期待)だったということで、時が経てば凋落するのでしょう。本質的な価値の要素があれば、それを抽出して、確固たる価値へと育てます。

ここ数年の Buzzword(悪い意味ではありません)とも言える SDN、そして SD-WAN に関しては、まさにこのプロセスを実践しました。それぞれサーベイ論文、Whitepaper も書きましたので、お時間がありましたらご覧下さい。忌憚なきフィードバック戴けましたら、さらに幸甚です。

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さて、Buzzword と格闘しているだけだと受身的なので、イノベーションについても考えてみたいと思います。

ベストセラーとなった C. Christensen の「イノベーションのジレンマ」が出版されたのは 1997 年に遡ります。そこでは、破壊的な(Disruptive)イノベーションと継続的(Sustainable)イノベーションを区別し、優良企業が継続的イノベーションに注力している間に、性能や品質はそれ程でもないけれども価格や物理的な形状などで画期的な特性を持つ、新興企業の製品の前に力を失う(破壊される!)ことが論じられました。

それ以来、多くの人の意識に、”Disrupt yourself(Or you will be disrupted)”が埋め込まれてきました。常に変化やdisruptionを受け入れる心構えがなければ存続できない、という。そのため我々は、常に現状への見直しを行い、現状維持(Status Quo)に異を唱え、常に innovative であろうとします。

その結果、従前の問題を定義し、その問題に対して、これまでとは異なる方法で解決しようとする技術が、続々と産まれています。LISP、GPE(Generic Packet Encapsulation)、 GBP(Group Based Policy)、SR(Segment Routing)、SRv6、BIER(Bit Indexed Explicit Replication)、NSH(Network Service Chaining)、AN(Autonomic Networking)、YDK(YANG Developer Kit) on Router、Telemetry Streaming、Container Hosting などなど。これらは,現状の問題を定義し解決する、という意味では継続的なインベーションかもしれないけれども、これまでとは異なる方法で解決する、つまり,これまでの方法を否定する,という意味で破壊的なイノベーションでもあるとも考えられます。

ただ、これらの技術は、問題や機能を定義してかかるので、Buzzword にはなりにくい(by definition !)。Buzzword でなければ市場トレンドにはなりにくい。市場トレンドでもない限り、現状からの方式変更を余儀なくされる技術はなかなか導入して戴けない・・・。現在強く感じているジレンマです。「イノベーションのジレンマ – 20年後版」とでも言えるでしょうか。

という訳で、Buzzword(まだまだいっぱいある!)に対する攻防を行いながらも、「Buzzword でないイノヴェーション」を育て、導入して戴けるような活動にも力を入れたいと、思いを新たにしています。

Authors

Miya Kohno

Distinguished Systems Engineer, CTO for GSP Japan

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