前回の記事では、ヴィス 執行役員でワークデザインテクノロジーズの事業責任者も務める小川慧氏、ワークデザインテクノロジーズ CIOの島田祐二氏に、働き方の変化がオフィス空間にも変化をもたらしていることをご説明いただきました。そして、オフィスの移転やリニューアルを主導する総務部門の中でオフィスのあり方や働き方、従業員満足度に関する悩みが顕在化していること、その解決にはWi-Fi環境の見直しやデータに基づいた空間設計が有効だという話がありました。
後編では、多様化する働き方のステータスを数値で可視化する「WORK DESIGN PLATFORM」の特徴と、経営者・総務に対してこのシステムがどう貢献できるか、そしてオフィス設計とネットワーク設計を一体化させることの重要性について話を伺います。(聞き手は、シスコシステムズ 執行役員 SMB・デジタル事業統括 石黒圭祐)
経営者と総務の悩みを解決し、働く人のエンゲージも高める
石黒 御社はシスコのエコシステムパートナープログラムにもご参加くださっています。シスコ製品とのシステム連携について伺う前に、御社の「WORK DESIGN PLATFORM」にはどのような機能があるか教えていただけますか。
小川氏 現状分析、シミュレーション、レポーティングの3つの機能があり、ワークプレイスの稼働率や空間の分析、ワークプレイス構築のシミュレーション、従業員満足度サーベイを行えます。こうして働き方を可視化すれば、確かな設計根拠に基づいたワークプレイスを企業ごとにデザインできるようになります。設計根拠という地盤の元、より良い環境へと継続的にアップデートすれば、働く人のエンゲージメントを高め、企業価値をさらに向上させることが可能です。
石黒 総務の方々にとっては非常に魅力的ですね。
小川氏 最近は移転時にオフィスを大きくリニューアルするので、総務も経営層も従業員からの評価が気になります。オフィスの移転には年単位の歳月がかかることも珍しくありません。通常業務に移転業務が加わるので、非常に大変なことです。それがようやく終わったところに、環境の変化に戸惑うネガティブな意見が社内から出てくるとつらいですよね。本当にこのオフィス移転が成功だったのかを経営層も疑問に思ってしまうでしょう。
しかしプロジェクト実施前後の満足度をスコア化できれば、一部の社員からだけではなく社員全体からの正当な評価が可能です。スコアで明らかになった課題については、ファシリティの側面からだけでなく、内容に応じて委員会を組むなど組織改善に活かします。また、総務から経営層へのレポーティングにも役立ちます。
小川氏 人的資本投資の観点でも「WORK DESIGN PLATFORM」は有効です。例えばIRでの情報開示にも活用できるでしょう。
オフィスがどのように使われているかを可視化する
石黒 ワークプレイスの稼働率や空間の分析は、どのような手法で実現しているのですか。
島田氏 稼働分析では、オフィスの入退館データ、勤怠データ、Wi-Fiアクセスポイントログデータなどを使用して、オフィスの使用状況を可視化します。出社率や滞在率、座席稼働率の平均値・最大値・最小値がわかり、チームや職種ごとにどのような席種が必要かを考えるのに役立ちます。
小川氏 このオフィスはもう人数がいっぱいだと思っていたのに、データで可視化してみると実は余裕があった、という話は弊社だけでなくお客さまでも同様にありました。
島田氏 空間分析では、どのような業種業界のオフィスかを踏まえつつ、オフィスの住所や家具付き平面図を用います。現在のオフィス空間をエリアの種類や席種で分類して可視化し、他社のベンチマークを参考に最適な空間構成を検討します。
小川氏 固定席を減らしてフリーのエリアを増やしたほうが良さそうだ、といったことがこの分析で見えてきます。
小川氏 シミュレーションは空間、コスト、エリアの3種類があります。空間シミュレーションはコストに応じた実現可能なオフィスの空間構成を提案します。コストシミュレーションは一人あたり、または一席当たりの費用の改善を軸に、構築費と運営費を提案するもので、働き方に対する投資額を広範囲な視点から評価可能です。エリアシミュレーションは、従業員の通勤に最適なエリアを導き出す機能で、移転候補地を決定するプロセスの一つとして活用できます。
石黒 数値を測定して客観的に評価できることや、人的資本投資の観点で役立てられるという話がありました。従業員満足度サーベイについて、もう少し具体的な内容を教えてください。
小川氏 これまでのオフィスにまつわるサーベイは、そこで快適に過ごせているかどうかといった、主にファシリティを尋ねるものでした。しかし我々は、多くのオフィスデザインを手がけていく中で、従業員がどういう気持ちで働きたいかも加味しながら、「カルチャー」「ウェルビーイング」「エンゲージメント」「やりがい」なども総合的に見て考えていくべきだと思うようになりました。そこでサーベイ結果を総合的に評価できるようにしたのが、このプラットフォームで導き出すワークデザインスコアです。
サーベイは複数種類あり、プロジェクト発足時に行う「ワークデザインサーベイ」や、毎月の継続的な検証に利用する「ワークデザインサーベイパルス」などがあります。「ワークデザインサーベイパルス」は従業員の負担を抑えるために設問数を最低限にまで絞っています。また、ワークプレイス構築に活用できる「プレイススタイルサーベイ」もあり、ファシリティの利用実態や評価も合わせて深掘りできます。
稼働分析はCisco Merakiで実現
石黒 稼働分析ではWi-Fiアクセスポイントログデータを利用しているそうですが、どのように処理しているのですか。
島田氏 MerakiのAPIを使用して、アクセスポイントで発生したログを弊社のクラウド環境に送って解析しています。どこに人が滞在しているか、座席数に対してどれだけ従業員がいるのかなどの実態を時間帯別で知ることができます。
石黒 この仕組みを構築して運用するのに、問題点などはありませんでしたか。
島田氏 Cisco Merakiの機能面には満足していますし、シスコは技術的な質問でも返答が速いので助かっています。だからこそパートナーになってシスコ製品を提供していますし、さらにワークデザインの一部にも組み込もうと思えました。
オフィスの可視化でIT投資の優先度が高まり、より良い働き方へ
石黒 そこで伺いたいのが、オフィス投資におけるITの位置づけについてです。多くの企業では、まずオフィスの「箱」を決めて、什器を決めて、そして最後にITを決めているのではないでしょうか。その場合、ITの予算取りは後回しになるので、理想的な機器を購入できなかったり、空間の制約でWi-Fiがつながりづらくなったりといった問題が起きやすいです。
島田氏 お客さまにオフィスの平面図を提案する際にWi-Fiの設計図面も提案しています。設計の初期段階でそこまで踏み込んで、IT関連をどうするかを後段階でお客さまが考える負担を減らしています。また、オフィスの移転時にワンストップで任せられる範囲が広がることもお客さまとしては助かるので、他のSIベンダーに声を掛けられる前に、オフィス移転に併せてCisco Merakiも契約していただけるわけです。そしてその結果、より良いワークデザインが実現します。
小川氏 これまではオフィスの移転が完了するタイミングで弊社とお客さまのご縁は一旦切れていました。しかし、オフィスをアップデートする発想が広がるにつれて、随時ご相談を寄せていただけるようになってきました。移転直後のお客さまからも、このプラットフォームで効果を検証したいというお問い合わせがあります。
オフィスデザインを数値化して計画的に移転を進める時代になれば、ネットワークに対する不満も明確になり、ITにかける予算の優先度も必然的に上がっていくと思います。
石黒 今の話を受けて「いよいよ時代が変わってきたな」と感じました。日本の働き方を一緒に変えて、世の中を良くしていきましょう。
小川氏 ぜひ!これからもよろしくお願いします。オフィスの価値を高めてより良い働き方を実現するためなら、規模や内容を問わずお役に立ちたいと願っていますので、オフィスデザインを伴わないITだけのご相談でも、コンペのお声がけでも、「何から手をつけていいかわからない」といった話でもお気軽にご連絡ください。
石黒 本日はありがとうございました!
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