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Cisco Jabber: 誕生から現在、未来

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前回まで、3 回の連載でシスコのコラボレーション製品の最新機能(Cisco Jabber GuestCisco Collaboration EdgeCisco Intelligent Proximity)をご説明しました。今回は、コラボレーション製品の基本となる Cisco Jabber  の背景と直近のリリースを紹介します。

通常、 Cisco Jabber は企業向けの音声、ビデオ、インスタント メッセージ(チャット)、ボイスメールの「全部入り」コラボレーション ツールとしてご紹介しています。『シスコによろしく』では、「相手や自分がどこにいてもさまざまなデバイス環境で簡単につながり、チャット、ビデオ会議などで自由かつ安全にビジネスコミュニケーションが取れる革新のシステム」と表現されています。

とくに Cisco Jabber とインスタントメッセージは切っても切れない関係です。まずは、その歴史をひも解いてみましょう。

インスタントメッセージの夜明け

話は 1990年代に遡ります。

インターネットの新しいツールとして出始めたばかりのインスタント メッセージ(以降、IM)が、パブリック IM サービス、例えば Mirabilis 社の ICQ 、AOL社の AOL Instant Messenger (AIM)、Microsoft 社の MSN Messenger が登場し、コンシューマ ユーザを取り込んでいました。

やがてパブリック IM サービスは、コンシューマ ユーザに留まらず、企業内コミュニケーションにも利用されるまでに拡がっていきました。IM は社員間のリアルタイム コミュニケーション ツールとして便利でした。電子メールのように気軽に、電話のようにリアルタイムで話ができる IM は、「ランチいかない?」とか「今電話しても大丈夫?」といった会話にちょうど良いツールだったのです。

昨今、スマートフォンなどでコンシューマライゼーションが叫ばれていますが、 IM サービスはその先駆けと言えるかもしれません。スマートフォンを使ったコミュニケーション サービスを仕事にも使うことに賛否あるように、当時の IM についてもビジネス利用が議論されていました。企業側からすると、社内外のコミュニケーションにコントロール不能なツールを利用する状況は好ましくありません。しかし、便利さはそれに勝ります。

そこで、個人向けのパブリック IM サービスを利用することなく企業内で閉じたコミュニケーションができるようにと、IBM 社の Sametime、 Microsoft 社の Live Communications Server(現在のLync)、 そしてシスコの Cisco Unified Presence Server(現在はCisco Unified Communications Manager に統合)などのビジネス向けオンプレミス IM サーバが提供されるようになりました。

ただし、各社が独自に IM 実装を進めた結果、サービス間でメッセージを送り合えるような互換性がありませんでした。

“Jabber” の誕生

話は 1990年代後半に戻ります。  IM の一つの実装として、Jeremie Miller 氏によって サーバ、クライアント、そしてそのプロトコルが開発されました。それは“Jabber”(おしゃべり)と名付けられました。  Jabber はオープンソースで、開発段階から詳細が公開されており、「互換性が確保される設計」となっていました。そのため、第三者が Jabber 互換サービスを作ることは簡単でした。前述したパブリック IM サービスやオンプレミスの IM サーバとは対極です。

Jabber が利用する IM のためのプロトコルは、Extensible Messaging and Presence Protocol(XMPP)popup_iconと言う名称で後に IETF で標準化されます。同じく IETF 標準の IM プロトコルに SIP/SIMPLE があります。当初は SIP/SIMPLE のほうが実装が多く優勢でしたが、Google Talk が XMPP を採用するなど形勢が逆転します。とくに XMPP は 「相互接続性」に優れている点が評価されています。実際、SIP/SIMPLE  を利用する製品でも、外部との接続については XMPP へプロトコル変換する実装になっているものも少なくありません。

Mac OS に付属する「メッセージ」アプリでアカウントを追加する際、「その他のメッセージアカウント」から「Jabber」が選択できます。この「Jabber」 は XMPP が“Jabber プロトコル”と呼ばれていた名残です。

シスコと Jabber

2008年にシスコは XMPP 実装をリードしていた Jabber, Inc. を買収します。この技術を取り込んだシスコは、クラウド、オンプレミスのサーバ、クライアントなど、 IM の実装を旧来の SIP/SIMPLE から XMPP ベースに変更しました。これによりシスコの IM 製品は、パブリック IM サービスや他社 IM 製品、そして企業間の IM 相互接続を簡単に行えるようになったのです。

例えば前述したApple 社の「メッセージ」は、シスコの IM 製品に接続可能です。

Cisco Jabber の誕生

シスコに統合された“Jabber”は、その後、別の意味を持つようになります。それがクライアント製品としての Cisco Jabber  です。

IM から話は離れますが、2010年、シスコはビデオ会議のシェア No.1 であった TANDBERG 社を買収しました。これによってシスコは、ビデオ会議で実績のある H.264 AVC ビデオのエンジン「Precision Video Engine(Cisco PVE)」を手にします。そして旧 Jabber 社の XMPP 実装と PVE のエンジンを 1 つのクライアントに統合したのが、IM およびビデオのコラボレーションクライアント製品「 Cisco Jabber 」になります。

私は Cisco Jabber の技術的な特徴を聞かれたとき、下記の点を挙げています。

  • Windows 、 Mac OS 、Apple iPad/Apple iPhone、 Android そして Web と、さまざまなデバイスに対応
  • IM として、クラウド IM(WebEx Messenger)とオンプレミス IM(Cisco Unified Communications Manager)の両方に XMPP で対応し、外部とも連携可能
  • 企業内電話機の呼制御サーバとして広く利用される Cisco Unified Communications Manager に SIP ベースで対応し、電話との音声コミュニケーションが可能
  • メディア エンジンに TANDBERG 社が利用していた実績のある Cisco PVE を採用し、さまざまなビデオ会議端末とのビデオコミュニケーションが可能

外部との連携の例ですが、私の Cisco Jabber for Mac には社外である弊社のパートナー様のエンジニアの方々がコンタクトリストに登録されており、社外の方とも IM を送受信することができます。各社、オンプレミスあるいはクラウドで Cisco Jabber (あるいは競合製品?!)を利用していますが、 XMPP により簡単に“つながる”ことができます。

Cisco Jabber の今

さて Cisco Jabber は、前述した“標準”をベースに企業向けのコラボレーション クライアントとしてバージョンアップを続けています。3 月から 4 月にかけて、下記の 4 製品をリリースしました。

  • Cisco Jabber for Windows 9.7
  • Cisco Jabber for Mac 9.6
  • Cisco Jabber for iPhone and iPad 9.6.1
  • Cisco Jabber for Android 9.6

どのクライアント製品にも共通する新機能には、社外から社内へ IM や内線番号を持ち運ぶ Collaboration Edgeがあります(第 2 回ブログ参照)。各クライアントについて、その特長を紹介します。

Cisco Jabber for Windows 9.7
Windows 8.1 に対応しました。Windows XP から Windows 8.1 への移行をご検討の方には大変お待たせしました。
Cisco Jabber for Mac 9.6
1つ前のバージョンである 9.2.2 から日本語メニュー表示に対応しています。  
Cisco Jabber for iPhone and iPad 9.6.1
iOS 7 のガイドラインに合わせたユーザインターフェイスに変更しました。見た目が以前のバージョンと違うと感じるかもしれませんが、メニュー構成などは同じです。 Cisco Jabber for iPhone 9.6.1
Cisco Jabber for Android 9.6
Android 向けの Jabber は以前までは IM と音声のソフトは別アプリケーションでした。今回のリリースではこれが統合されて、ビデオも標準ベースで実装されています。ある意味、今回のリリースの中では一番大きな機能拡張となります。また、Cisco Jabber for iPhone and iPad と同じメニュー構成で、 Android から iPhone、iPhone から Android に端末が変わっても、違和感なく移行でき、かつそれぞれの OS のユーザ インターフェイス ガイドラインに従う実装になっています。Cisco Jabber for Android のサポート デバイスは、これまでの Galaxy S3、Galaxy S4 に加え、Xperia A、Xperia Z1、Google Nexus 5 などのスマートフォンが追加されています。詳しくはリリースノートの Device Supportの項目popup_iconをご参照ください。 Cisco Jabber for Android 9.6

Cisco Jabber の今後

次の Cisco Jabber リリースの「テーマ」はすでに決まっています。それはシングルサインオンの共通実装です。現在でもクラウド サービスである WebEx Messenger では SAML を使ったシングルサインオンが可能ですが、それをさらに進めます。シスコのコラボレーション製品すべての認証基盤が共通化され、さまざまなクライアントから利用可能になります。この新機能については、今後のブログで取り上げたいと思います。

まとめ

Cisco Jabber は IM のオープンソース実装“Jabber”から名前を受け継ぎました。プロトコルとしての“Jabber”は XMPP へと名前を変え、現在でも Cisco Jabber の中核技術になっています。シスコはそれにビデオを加えることでより、一歩前に進んだコラボレーション クライアントにしました。

“Jabber”と Cisco Jabber に共通して言えることは、他のサービスやクライアントとの相互接続性を大切にしていることです。そのユーザ エクスペリエンスを「いつでもどこでもどのようなクライアント」でも体験できるように、これからも新しい Jabber の提供を続けていきます。

参考サイト:

Authors

岩岸 優希

テクニカル ソリューションズ アーキテクト

コラボレーションアーキテクチャ事業

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