中堅中小企業(SMB:Small Medium Business)から大企業まで7,000件以上のオフィスデザインを手がけてきたヴィスの執行役員でワークデザインテクノロジーズの事業責任者も務める小川慧氏と、ワークデザインテクノロジーズCIOの島田祐二氏に、現代のオフィスのあり方そして次の時代のオフィス像について話を伺います。(聞き手は、シスコシステムズ 執行役員 SMB・デジタル事業統括 石黒圭祐)
デザイナーズオフィスの実現からワークデザインへと使命が変化
石黒 まずは、ヴィスとワークデザインテクノロジーズの事業、そして小川さんと島田さんの役割について教えてください。
小川氏 ヴィスは「はたらく人々を幸せに。」をパーパスに掲げ、オフィスの移転や改装プロジェクトをワンストップで支援しています。「オフィス空間をデザインすれば企業価値が高まる」という価値観を、それが世の中にまだ意識されていない時代から提唱し広げてきました。今はオフィス移転時にはデザインについても必ず考える時代になりましたし、働き方改革やコロナ禍によってハイブリッドワークが広がり、オフィスのあり方を企業ごとに見出すものになってきました。そこで我々は使命を「デザイナーズオフィスの実現」から「ワークデザイン」へ変えてリブランディングしました。オフィスを人中心に考えながら、モノだけでなくコトのデザインまで手がけるように事業領域を広げています。
その一環として、コンサルティングと「WORK DESIGN PLATFORM」開発を専業とするワークデザインテクノロジーズを2022年4月に設立しました。私は事業責任者として参画しています。
島田氏 私はもともと音響エンジニアで、クラウドPBXなど音声周りの技術開発やネットワーク構築などを手がけてきました。ヴィスが社内と社外向けサービスの双方でITを強化すると聞き、2年前に入社しました。今はITコンサルティングやネットワーク構築、新規事業である「WORK DESIGN PLATFORM」の開発などに携わっています。
石黒 「オフィスデザインということは、大企業向けサービスなのだろうか」という印象を持っていたのですが、実際にはどのようなお客さまに提供しているのですか。
小川氏 我々の手がけている「ワークデザイン」の必要性に共感してくださる方なら、どのような事業規模でもお客さまだと考えています。オフィスを移転しなくてもイス1脚から提案してお届けします。Cisco Merakiについても導入規模に関係なく気軽にご相談いただきたいですね。
オフィス移転のご依頼が多いのは100名から300名ぐらいの規模のお客さまです。スタートアップ企業が成長し、採用ブランディングや人財投資を行ってさらなる成長を目指そうとオフィスを大きくするのがこのくらいの規模が多い、というのが大きな理由です。もちろんエンタープライズの大規模な会社からもお声がけいただくのですが、こちらは「今までのやり方では通用しないだろう」という課題感からのご相談が多いですね。
小川氏 働き方改革関連法案に際して働き方をどう変えるかはコロナ前もテーマになっていましたが、その頃オフィスのあり方を考えていたのは総務部門や経営者です。ところがコロナ禍を経て、働くとは何なのか、オフィスとは何なのかを働く人の誰もが考えるようになりました。以前ならトップダウンで決めていたことが、社員みんなの関心事になり、総務はボトムアップで声を集めつつ期待に応えなければならなくなったのです。
島田氏 ITの観点で言えば、Wi-Fiに求められる要件が大きく変わりました。以前はウェブサイトの閲覧やメールと添付ファイルの送信さえできればよいネットワーク環境が珍しくなかったです。しかしコロナ禍となり、オフィスでもビデオ会議を行う必要が出てきます。Wi-Fi環境が悪いオフィスだと業務に支障が出て、「うまくつながらない」「映像が止まる」と不満の声が噴出します。とはいえ対策しようにもオフィス設計から見直す必要があり、それで困っている会社は多いです。
ヴィス自身がCisco Merakiの効果を実感
石黒 今伺った課題感はどの会社にも共通するものだと思います。ヴィスグループではどのように工夫しましたか。
小川氏 働き方を変えていきました。環境を固定するのではなくて、社員それぞれが自分のそのときの業務に適した場所を選べるようにしました。
島田氏 ヴィスグループのネットワーク環境は継ぎはぎ状態だったので、昨年Cisco Merakiに全拠点統一しました。それまでは「つながらない」「家のほうが速い」といった不満の声が多かったですが、入れ替えた後はそういった声を聞かなくなりました。
それから、社内ITの担当者が2、3カ月に一度は名古屋と大阪の拠点に出張してメンテナンスする手間がかかっていたのですが、その必要が全くなくなりました。社員の大切な時間を守り、負担も減らせるわけですから、ネットワークの見直しは大切なことだと思います。
新しい理想的なオフィスづくりのプロセス
石黒 これまでのオフィス移転は総務が中心となって決めていたのが、働き方が変わったことで社員の期待に応えなければならなくなった、という話がありました。この変化に合わせた新しいプロセスはどのようなものですか。
小川氏 これまでの移転理由として多かったのは、このまま社員が増えるとオフィスに入りきらないから、という社員数起因のものでした。オフィス移転の予算は一般的に1人あたり3坪、坪単価20万円から30万円だと言われていて、それを基準に移転計画を立てます。そして広さをもとに物件を決め、什器メーカーや我々のようなデザイン会社に声をかけて、デザインやレイアウトを決定し、工事、引っ越し、という順序でした。
これが今、というより少し先の未来ではどうなるでしょうか。物件を決める前に必要なオフィスの広さを決めるわけですが、社員数ではなく、働き方や業務の特徴に合わせて適正な広さを検討しなければなりません。以前もフリーアドレス化を前提に広さを算出する会社はありましたが、コスト削減が目的であって、前向きな移転のケースは多くなかった印象です。
これからのハイブリッドワークに合わせて移転するのなら、まず現在のオフィスがどれぐらい適切に使われているかを計測する必要があります。
小川氏 ヴィスでは2004年から本格的にデザイナーズオフィス事業を開始し、2022年までに実績7,000件を達成しました。たくさんのお客さまにオフィスのデザインを提案してきたわけですが、その提案の根拠は経験則です。はたしてそうした提案が本当に最適なのか。たとえ快適だとしても、最適かどうかまではわかりません。お客さまもよくわからないまま、デザイン各社の経験則に基づいた提案の中から「感覚」で決めているのが実態です。
「これで本当にいいのかな?」と、6年ぐらい前から強く思うようになりました。それまでの仕事で蓄積したデータやお客さまが持つデータを活用して、できるだけ数字を出し、それを元に提案しようという考えに変わってきたのです。
そこで始めたのが、「WORK DESIGN PLATFORM」の開発でした。実稼働のデータを取得して、出社率や稼働率などを計測、さらに空間の構成も改めて数値化します。現状のオフィスや働き方などを全て数字にして、それに基づいて適正な面積を導き出し、予算立ても考え直します。
例えば、人が増えたのでオフィスを1,000坪から1,500坪にしようと考えていた会社が、稼働分析や計測によって実は1,300坪で足りることがわかったとします。そうすると賃料を抑えられるので、浮いた資金を別の予算に割り当てられますよね。今までのプロセスとは全然違う考え方です。
これまで我々がお客さまと関われるのはオフィス移転時だけでした。しかし、市場や世情の変化が激しい現代だと企業もアップデートを続けていく必要があり、その際にも我々がサポートしていく考えです。
我々も自社で分析してみました。東京オフィスでは2フロア約400坪を借りていて、社員数が増えたと感じていたものの、当面は拡大する必要はないことが判明しました。
石黒 このプラットフォームは、コロナの後に課題意識が生まれて開発した、というわけではないのですね。
小川氏 はい、数値化できるソリューションを作ろうと前々から取り組んでいたら、結果的にこの4月からというベストタイミングで提供を開始できました。ハイブリッドワークが定着してきた今なら、このコンセプトは多くの方々に納得していただけると思っています。
プラットフォームの開発では、現状の社会課題と、今後出てくるだろう課題の解決に役立つものにしようと意識しました。また、蓄積したデータに横串を通して分析し、得られた知見を世の中に発信していきたいとも考えています。例えば、東京都港区の平均出社率を出せれば、それに基づいた説得力のある提案ができるようになります。
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データドリブンというキーワードが流行する中、ヴィスではそれをオフィス設計に取り入れるユニークな取り組みが行われていました。後編では「WORK DESIGN PLATFORM」によって分析された傾向や、数値化によって得られる価値について、シスコのエコシステムパートナー企業の観点からも オフィス設計とネットワーク設計の一体化でどんなことができるのかなどを具体的にご紹介いただきます。
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