ダイワボウ情報システム(DIS)は、シスコのクラウド管理型ネットワーク製品「Cisco Meraki」における導入後の監視、運用、保守までを一括してサポートする「Merakiマネージドサービス」を、2019年より提供開始しています。
サービス開発の背景には、SMB(Small Medium Business = 中堅中小企業)を中心とした、多くの組織で生じる複雑化したネットワークの運用管理にかかる工数やコスト負荷の増大があります。この課題を解消し、地方活性化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を後押しするべく、DISは具体的にどんな施策を展開しているのか、同社 経営戦略本部 情報戦略部 部長の谷水茂樹氏に話を伺っていきます。(聞き手は、シスコシステムズ 執行役員 SMB・デジタル事業統括 石黒圭祐)
マネージドサービスの拡充とDX人材の育成が2大テーマ
石黒 谷水さんが率いておられる経営戦略本部 情報戦略部のミッションについて教えてください。
谷水氏 情報系における中長期のビジネス戦略を描くことがメインの仕事で、その実効性を高めるために、たとえばシスコのテクノロジーを使ったさまざまなビジネスのサービス化を企画推進しています。
なかでも今一番注力しているのは、ネットワークセキュリティを含めたマネージドサービスの拡充と、DX推進を担っていく人材育成の大きく2つです。
石黒 まずマネージドサービスについて伺いたいのですが、このビジネスを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
谷水氏 マネージドサービスを始めたのは2019年で、Merakiのネットワーク製品が主な対象でした。当時はまだMeraki製品自体の認知度がそれほど高くなく、導入や運用に関するスキルを持つ技術者も少数でした。そこで最終的には各地の販売パートナー様に運営主体を移管することも見据えつつ、スキルの伝承も含めた形で新たなサポートサービスのビジネスモデルを作れないかと考え、マネージドサービスを始めたのです。
石黒 「これならいける」と手応えをつかんだのはいつ頃ですか。
谷水氏 潮目が変わったと感じたのは、やはり2020年のコロナ禍ですね。日本のSMBにおいてもリモートワークが急速に拡大し、ネットワーク環境の見直しに動いたお客様の間でマネージドサービスへの関心が高まりました。このニーズを受ける中で、販売パートナー様各社とのビジネスも一気に増えました。
有償の保守サービスへの理解がハードル
石黒 SMB市場においてマネージドサービスは、これまでと販売形態も異なるため、さまざまな障壁もあったのではないでしょうか。
谷水氏 おっしゃるとおりで、現在も苦労しているところです。数十年前と比べれば、有償の保守サービスに対する理解はかなり深まりました。しかし運用となると、特にSMBのお客様では販売店がある程度面倒を見てくれるという意識が強く、サービスに対価を支払うという文化がまだまだ根付いていません。運用プロセスが明確化されておらず、障害発生ベースで何とかすればよいという考え方が強いのです。
石黒 それはかなり高いハードルと言えますね。
谷水氏 逆に言えば、そのハードルを乗り越えなければマネージドサービスの意義はありません。したがって私たちとしても単に障害を監視するだけではなく、お客様がシステムやネットワークを利用している中で、より最適な設定をアドバイスするなど、販売パートナー様と一緒になってマネージドサービスの提供価値を高めていこうとしています。
「実践力ありき」の人材育成
石黒 先ほど情報戦略部のもう1つのミッションとしてDX人材の育成を挙げていただいていました。ITエンジニアは確かに慢性的な人手不足の状況で、特に首都圏と地方との格差が深刻な問題となっています。ですが、全国規模の営業網と膨大な販売パートナー様を擁し、地域に密着した「顔の見えるディストリビューター」であるDISならでは、そうした課題に対する何らかの解決の糸口を持っているのではないかと感じています。この人材育成もマネージドサービスの提供価値の一環として行っているのですか。
谷水氏 現実問題としてネットワーク機器を含めたインフラの運用サービスは、ITエンジニアの人数がそれなりに揃っていないとビジネスとして成立しません。そこにクラウドをうまく活用すれば、中央集中型の管理により複数のお客様をサポートすることが可能となります。まさにそれがマネージドサービスの狙いでもあり、限られたITエンジニアをインフラの運用業務から解放するなど、工数削減にもつながっていくと考えています。
石黒 なるほど。その工数削減によって生み出された時間や余力を使って、販売パートナー様やお客様におけるリスキリングや人材育成のサポートを行っていくのですね。具体的なプログラムのようなものもすでに用意しているのでしょうか。
谷水氏 はい。現在提供している人材育成プログラムは、基礎研修と実践教育の大きく2つのパートで構成されています。基礎研修はDXそのものに関する基本的な理解を深めるもので、そこで学んだ知識をもとに実践教育を通じて技能につなげていくという流れとなります。
一般的な人材育成プログラムでは、研修を受けている時点では何となくわかった気になるものの、いざ業務現場に帰ってみると、実際に何をどうすればよいのかわからなくなるというパターンがよくあります。こういったことが極力発生しないよう、私たちが提供する人材育成プログラムでは、受講者が業務現場に帰ってからも引き続き相談役となり、真の実践力が身につくまでサポートしていくことを基本としています。
石黒 実践教育では、たとえばどんなことを行うのですか。
谷水氏 今一番力入れているのは、ノーコード/ローコードツールを使ったアプリケーション開発の実習です。単にツールの使い方を習得するだけではなく、ハッカソンやアイデアソンを通じて策定した自分自身のテーマに対して、簡単なアプリケーションを作るといった課題解決のプロセスを経験していただきます。そのスキルをそれぞれの業務現場で実践することで、DX推進の担い手となる人材を育成するのです。
ディストリビューターのあり方にも変化が必要
石黒 エンドユーザーの人材育成やスキルアップを図ることは、ある意味でマネージドサービスとは逆向きのアプローチとも言えます。お客様が内製化に向かう可能性もありますので。その観点から、DISのマネージドサービスに対して、収益性も含めたどのような将来構想を描いているのか、改めて教えてください。
谷水氏 私たちDISはディストリビューターなので、最終的にはボリュームのビジネスにつなげていかないと事業の発展はありません。したがって首都圏と地方の格差解消や地域活性化を含め、いかに市場そのものを拡大していくかが重要なポイントだと考えています。
その意味で、全国の販売パートナー様の収益向上に貢献していくことが引き続き私たちの基本的なミッションであることに変わりはありませんが、同時にその先にいるエンドユーザーに対してもIT活用の幅を広げ、デジタル化を促進し、お客様の企業や産業そのものを変革していくための取り組みが重要度を増しているのです。
石黒 単に市場で需要のある製品を、扱いやすい形で供給するといった、これまでどおりのビジネスを続けていたのでは、ディストリビューターにとっても販売パートナー様にとっても発展はありえないのですね。
谷水氏 おっしゃるとおりです。デジタル化によって便利になったからそれで終わりではありません。先にも述べたように、便利になって工数が削減されたのであれば、その余力をどう次のステップにつなげていくのか。お客様や販売パートナー様から生まれたさまざまなアイデアを確実に新しいビジネスに体現していくためのサポートが、私たちのようなディストリビューターに求められています。
石黒 どのような形でサポートしていくのですか。
谷水氏 端的に言えば、サポートサービスの「メニュー化」です。高い付加価値をもったサポートはともすれば個別対応になりがちで、どうしても単価が上昇していくため、特にSMBのお客様にとってそのハードルは非常に高いものとなってしまいます。そこで販売パートナー様とも密に連携しながら、より扱いやすく、投資負担も軽くてすむ形の商材としてサポートサービスを提供していく必要があります。その1つの解答がメニュー化のアプローチであり、DIS自身のビジネスのボリューム化のエンジンにもなります。
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従来から世の中には、さまざまな商材に関するマネージドサービスが提供されていますが、谷水氏も言及するように、IT・DX人材不足に直面している多くのユーザー企業にとって、マネージドサービスは改めて重要なサービスであることがわかります。DISでは同サービスを通じてさらにどのような価値を提供しようとしているのでしょうか。詳細は後編に続きます。
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