Cisco Japan Blog
Share

2020 年の米国総選挙で予期される事態:選挙管理委員会が取り得るデマ対策


2020年11月13日


Talos スタッフが選挙のセキュリティ対策に関連してパートナーと共同作業を進める上で最も頭を悩ませたのは、「デマ情報に対してどのような対策を取り得るのか」という疑問でした。実のところ、この問題はセキュリティテクノロジーそのものに関わる事柄ではないため、Talos の専門外と言わざるを得ません。しかし、シスコで働くことの大きな利点の 1 つは、驚くほど幅広い知識と経験を持つ同僚やパートナーから有益な助言を得られることです。そこで Talos では、この問題をコミュニケーションの問題として正しく捉え直し、シスコのコミュニケーション専門家や外部のコミュニケーション パートナーの協力を得ながら、デマ攻撃に頭を悩ませている選挙管理委員会に向けたコミュニケーション計画を作成しました。

Talos がこうした提言を行っている理由を読者の皆様が簡単に理解できるように、選挙のセキュリティ対策とデマ情報に関する Talos の過去のレポートで明らかになったことを改めておさらいします。これまでのデマ情報キャンペーンや選挙妨害活動を見てみると、国外の攻撃者にとって最大の目的は、特定の候補者を有利に導くことより、既存の社会的、文化的、政治的分裂をさらに深め、西欧民主主義の公正さや健全性に対する疑念を人々に植え付けることにあると考えられます。そして、その先にある最終目標は、米国をはじめとする世界の民主主義勢力を弱体化させることにより、非民主勢力の地政学的目標を達成しやすくすることです。Talos が有権者向けにまとめた提言は、こちらからご覧いただけます。

攻撃者たちの目的をよくわかっていながら、私たちはあえて選挙管理委員会の皆さんに過酷な注文を突き付けなければなりません。国内外の攻撃者が大量のデマ情報をまき散らし、コロナ禍に配慮して投票方法を見直す必要にも迫られ、米国中でかつてないほど議論が紛糾する中での選挙運営がどれほど困難なことかは容易に想像できますが、それでもなお、選挙管理委員会の使命は私たちの民主主義を守ることにほかなりません。つまり、自由で公正な選挙を実施するだけにとどまらず、深刻な分裂と不信に陥った米国民に対して、現在の選挙制度が国民の意思を反映したものであり、今後も揺るぎないものであるというメッセージを発することが選挙管理委員会に課された使命なのです。

主要提言

Talos が以下の主要提言をまとめた目的は、効果的かつ恒久的なコミュニケーション プログラムを構築できるように選挙管理委員会を導くことです。このプログラムには、公式コミュニケーションチャネルの構築、一般市民との積極的な交流、公式情報の入手先の周知、一般市民に対するデマ情報対策の啓発などが含まれます。本稿に掲載されている提言の概要は、こちらpopup_iconからご覧いただけます。

主要提言 1:自らの価値観を積極的に発信する

この戦いは理念を巡る戦いであるため、選挙管理委員会は自らの価値観を積極的に発信していく必要があります。攻撃者の目的は、米国の民主主義が正常に機能しておらず、いずれの候補者が勝利しても何らかの不正が働かれているという不信感を有権者に植え付けることです。州および地方自治体の選挙管理委員会は民主制度の顔とも言うべき存在であり、米国民主主義の理念に対する自らの献身を人々に絶えず訴えてかけていかなければなりません。
有権者の意思が正しく反映される自由で公明正大な選挙を守ろうと日夜奮闘していることは日頃の行動によって十分に示されていると思っていても、絶えずそのことをアピールしていくことが大切です。
米国の選挙制度に対する不信感を人々に植え付けることが攻撃者の目的であるとすれば、選挙管理委員会は国民の信頼を取り戻すべく、積極的にメッセージを発信していかなければなりません。

たとえば、選挙制度の欠点を言い立てるデマ情報についてメディアから問い合わせを受けた場合、単に否定するだけでは不十分です。まず、現在の状況に対する自らの考えをしっかりと述べ、そうしたデマ情報がどのように間違っているかを説明するようにしましょう。コミュニケーションにおいては自らの考えを繰り返し述べることが重要です。倫理観に基づいて誠実に職務に取り組んでいることを折に触れて有権者に伝えていきましょう。

主要提言 2:事前に複数のコミュニケーションチャネルを準備する

選挙管理委員会がデマ情報との戦いにおいて有している数少ない強みの 1 つは、選挙の枠組みを超えて有権者に情報を発信できることです。たとえば、公式情報の入手先などを有権者に周知することができます。具体的な方法としては、ソーシャルメディア企業の公認を受けた公式アカウントを開設したり、公式 Web サイトを通じてタイムリーかつ正確な投票情報を提供したりすることによって、信頼できる最新情報の入手先を有権者に積極的に伝えていくことが重要です。

そうすることで、攻撃者が偽装しにくい「公式」な情報チャネルを確立できるだけでなく、有権者が公式情報を信頼しやすくなるからです。たとえば、選挙用の公式 Web サイトでは .gov ドメインを使用することが重要です。そうすることで、攻撃者が取得しにくい .gov ドメインのサイトから有権者が公式情報を入手する習慣を身に付けていくことになるからです。また、公式 Web サイトでは SSL/TLS を使用する必要があります。有権者は日頃から鍵のアイコンを確認するよう教育を受けているからです。また一部の Web ブラウザでは、SSL/TLS を使用していない Web サイトにアクセスしようとすると警告が表示されるため、そのようなサイトに対してはユーザが警戒心を抱くことになります。

公式のソーシャル メディア アカウントを開設する際は、ソーシャルメディア企業の公認を受け、二要素認証で保護する必要があります。アカウントの開設、更新、確認は、信頼できるスタッフのみが定期的に行うようにして、メッセージの内容や表現スタイルに一貫性を持たせるようにしましょう。選挙用の公式 Web サイトや、信頼できるパートナーのソーシャル メディア アカウントなど、有権者に役立つリソースを紹介するのも効果的です。

また、デマ情報を発見した場合の連絡先も有権者に周知しましょう。選挙管理委員会への連絡方法や、受け取った情報についての問い合わせ先も告知する必要があります。質問先のメールアドレスや電話番号も周知しましょう。また、有権者からの質問に答える担当者の間で回答の一貫性が保たれるように、スタッフ向けの Q&A 集を作成して随時更新しましょうさらに、デマ情報を見かけたら積極的に通報するよう有権者に呼びかけましょう。そうすることで、人々に特定のデマ情報への注意を呼びかける必要があるかどうかや、どのように対応すべきかを検討できるようになるからです。

そして、メディア、公職者、広報機関とのあらゆるコミュニケーションを通じて、公式ソーシャルメディアのハンドルネームを共有するようにしましょう。

主要提言 3:有権者にどのようにメッセージを発信するかを考える

この戦いは、選挙管理委員会と外国の攻撃者のどちらが有権者の信用を勝ち取れるかを巡る競争です。選挙管理委員会は、個々のデマ情報に対応するだけでなく、対抗キャンペーンを積極的に展開する必要があります。そのためには、同僚、支援団体、パートナーの理解を得ながらコミュニケーション計画を立てる必要があります。有権者にアプローチするさまざまな方法を十分に理解することが大切です。まだ着手していない場合は、メディアや主要関係者との関係作りを開始して、現在どのような作業が進められているのかを伝え、正確な最新情報の入手先を周知しましょう。

さまざまな運営手法や技術的対策によって投票プロセスの健全性がどのように確保されているのかについては、間接的にではなく、直接発信するようにしましょう。地元メディアとの関係を早めに構築して、投票を守るためにどのようなセキュリティ対策が進められているのかを説明し、対処が必要な質問がソーシャルメディアや掲示板に繰り返し投稿されていないかを確認することも重要です。そして、投票方法や、安全な投票環境を構築するために選挙管理委員会が行っている作業を有権者に周知する計画を立てましょう。

主要提言 4:完全な事実のみを述べる

攻撃者は、選挙管理委員会の発言内容や言い回しを常に注視しています。発言は慎重に行い、完全かつ明らかな事実だけを述べるよう心がけましょう。意図的かどうかを問わず失言があれば、攻撃者が即座に利用してデマ情報をまき散らし、選挙管理委員会の公正性、誠実性、公平性に対する不信感を焚きつけます。事実に反する情報を流してしまうことほど選挙管理委員会を直ちに窮地に追い込む行為はありません。

特に、危機時のコミュニケーションでは緊張のため的確に質問に答えられなかったり、事態に対する聞き手の理解が急速に進んで、質問が矢継ぎ早に繰り出されたりすることが多いため、事実にしっかりと基づいて発言することが難しくなります。質問に答える際に、証拠を示せる自信がない場合は、時間をかけて裏付けとなる証拠を集めてから速やかに情報を提供するのが責任ある行動と言えます。また、以下で説明するように、選挙管理委員会が事実関係の把握に全力で取り組んでいることをメディア、公職者、有権者、関係者に伝えることも大切です。デマ情報は水面下で広まっていく可能性があります。選挙管理委員会は最も信頼できる情報収集の専門家だということ有権者にアピールしましょう。

主要提言 5:中立性を保つ

多くの選挙管理委員会は政党の代表として選出されますが、中立的なレフリーの役割を果たすことが求められます。支持政党を問わず、米国民は選挙管理委員会に対して中立的な態度を期待しており、またそうあって然るべきです。選挙管理委員会は、(特に選挙に関わる)党派的な言動を控えるよう、あらゆる努力を払わなければなりません。また、選挙管理委員会のあらゆる言動は、自由で公平な選挙の実施に全力で取り組んでいることを示すものでなければなりません。攻撃者は党派的と受け止められる発言や決定を殊更に取り上げることで、選挙の根底にある公平性への不信感を煽り立てようとするに違いないからです。

主要提言 6:メディア調査ツールを利用する

デマ情報はすぐに広まることがあるため、どこから情報が出回っているのかを追跡することが重要です。伝統的なメディアだけでなくソーシャルメディアやニュースサイトを通じて現在どのような情報が出回っているかを追跡するツールは、選挙管理委員会の強い味方となります。そうしたツールの 1 つに、TweetDeckpopup_icon があります。TweetDeck はすでに選挙コミュニティの間で選挙関連キーワードをモニターする目的に利用されており、コミュニティの雰囲気や誤報、デマ情報の追跡に役立てられています。選挙管理委員会は、これらのアプリケーションを使用することで、どの情報に対して組織的なコミュニケーション対策を打つ必要があるかを判断し、新たなデマ情報キャンペーンを未然に防ぐことができます。

主要提言 7:あらかじめ有権者に変化を伝えておく

2020 年の選挙における投票方法や集計方法は、これまでに有権者が経験してきたものから大きく変わる可能性があります。攻撃者はあらゆる変化が悪意の現れであるかのように吹聴すると考えられます。また、従来と異なる部分を殊更に強調することで、投票が不正に操作されているような印象を人々に植え付けようとするはずです。選挙管理委員会は、メディアキャンペーンやコミュニケーション キャンペーンを積極的に展開して、今年の選挙が過去の選挙とどのように異なるかをあらかじめ有権者に周知しておかなければなりません。こうしたキャンペーンは、支援団体やメディアに加え、選挙管理委員会が準備したすべてのコミュニケーションチャネルを通じて一斉に展開する必要があります。その目的は、今回の選挙に関する正確な情報をあらかじめ有権者に提供することで、攻撃者が今年の変化をデマ情報キャンペーンの材料として利用できないようにすることにあります。

危機時のコミュニケーション

組織が危機的な状況に追い込まれたときに人々の信頼を取り戻せるかどうかは、その後の対応とコミュニケーションにかかっています。特に、攻撃者が危機的状況を意図的に作り出し、その後の対応の誤りを待ち構えている状況においては、危機時のコミュニケーションが極めて重要になります。大半の一般市民は、問題が起きたときに選挙管理委員会が開く記者会見の模様やニュース記事での引用にしか目を向けません。こうした状況に正しく対処できれば、選挙運営に対する国民の信頼を維持することができます。以下の提言は、選挙管理委員会が事実に基づく正確な情報をタイムリーに提供できるようにするとともに、攻撃者に新たなデマ情報キャンペーンの材料を与えないようにすることを目的としています。

危機時のコミュニケーションに関する提言 1:じっくり時間をかけて事実関係を調べる

予期しない出来事が発生すると、出来事の範囲、規模、内容を選挙管理委員会が完全に把握する前に、市民やメディアから質問が寄せられる可能性があります。選挙管理委員会は、直ちに回答しようとはせず、事実関係をしっかりと確認して発言の内容を正確にまとめてから回答する必要があります。真相を把握し切れていない段階で誤った発言をしてしまうと、たとえ意図的な間違いではなかったとしても、選挙管理委員会の適性や誠実さを批判する材料として攻撃者に利用されかねません。まず事実関係をしっかりと把握してから回答するようにしましょう。

正確に回答することはコミュニケーション戦略における最も重要な要素ですが、タイムリーに回答することもそれと同じくらいに重要です。前述のように、専門家が沈黙を続けるとデマ情報の拡散に勢いを付ける可能性があります。メディアからの問い合わせには即座に対応し、事実関係の把握に努めていることを伝えましょう。それと同時に、自らの価値観も積極的に発信し、自由で公明正大な選挙の実施に向けて、正確な情報の提供に努め、有権者の意思が選挙結果に正しく反映されるよう全力で取り組んでいることをアピールしましょう。

危機時のコミュニケーションに関する提言 2:デマ情報の出所を直接示さない

デマ情報の出所を直接示してしまうと、かえってデマ情報の主張を広める結果になる可能性があります。デマ情報の間違いを正す場合は、デマ情報の出所やリンクを直接示さないようにしましょう。その代わりに、正しい情報が提供されている場所をできるだけ多く周知するようにして、人々がデマ情報の出所にアクセスしないようにすることが大切です。

危機時のコミュニケーションに関する提言 3:必ずポジティブな側面も示す

状況が悪い方向に向かいかけているときは、改善に向けて着実に前進していることを人々に伝えましょう。また、実際にどこがどのように改善されているのかを伝えることも大切です。メディアは物事をネガティブに伝えることが多く、関係組織を不当に悪く言う場合があります。折に触れ、あらゆるチャネルを通じて、ポジティブな側面もネガティブな側面も含めて事実をすべて伝えるようにしましょう。単にメディアからの質問に答えるだけでは、ポジティブな側面が十分に伝わらない場合があります。質問に回答する際には、出来事の背後関係が一般市民にすべて伝わるように発言を組み立てることが大切です。また、発言内容をできるだけ多くの有権者に完全な形で発信できるよう、回答の全文を公式のソーシャルメディアチャネルに投稿するのも効果的です。

危機時のコミュニケーションに関する提言 4:メディアとの関係を構築する

選挙の準備活動の状況を一般市民に向けて正しく伝えるには、メディアの協力が不可欠です。また、メディアの報道に誤りがある場合は、訂正を求めましょう。まだ誰も知らない情報を入手した場合は、メディアやその他のコミュニケーションチャネルを通じて、できるだけ多くの人々に発信することが大切です。メディアは事実を知らないために不適切な質問をする場合があるため、新たな情報や、一般市民に正しく伝える必要がある情報を入手した場合は、幅広く発信するようにしましょう。また、追加情報を入手したときにできるだけ多くの人々に発信できるよう、メディアの連絡先のリストを作成しておくようにしましょう。

危機時のコミュニケーションに関する提言 5:自らの専門知識に頼る

結局のところ、選挙のことを最もよく理解しているのは、州や地方自治体の選挙管理委員会です。一般の人々は思い込みに基づいて意見を述べることが少なくありません。選挙管理委員会は選挙制度の専門家であることを積極的にアピールして、選挙の健全性を確保するためにどのような対策を行っているのか周知することに努めましょう。選挙制度の細部は極めて複雑です。選挙のあらゆる要素について説明し、それらがどのように組み合わさることで自由かつ公平な選挙が実現して、選挙の健全性が守られるのかを人々に伝えることが重要です。

結論

突き詰めていくと、デマ情報キャンペーンに対抗するには事前の準備が不可能です。上記の提言はすでに多くの選挙コミュニティで実践されており、優れたコミュニケーションチャネル、教育キャンペーン、事実に基づく情報が、一般の人々に対して提供されています。Talos の願いは、これらすべての提言を 1 つにまとめ上げることで、コミュニケーション専門家チームの全面的な支援を得られない選挙管理委員会たちでも、デマ情報キャンペーンの影響を防げるようにすることです。

公式情報の入手先を周知し、選挙管理委員会が自由で公平な選挙の実現に全力で取り組んでいることを発信し、デマ情報に適切に対処することは、極めて骨の折れる仕事ですが、現在の状況を考えると、選挙管理委員会にとって最も重要な仕事の 1 つであると言えるでしょう。実際、米国中の選挙管理委員会は、選挙の勝者が誰になるか国内外の人々が固唾を飲んで見守る中、選挙の健全性と公平性を維持するために日夜全力で取り組んでいます。結局のところ、その事実こそが、全米中に伝えるべき最も大切な事実と言えるのです。

 

本稿は 2020 年 10 月 15 日に Talos Grouppopup_icon のブログに投稿された「What to expect when you’re electing: How election officials can counter disinformationpopup_icon」の抄訳です。

 

Tags:
コメントを書く