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5G-シスコが考えるサービスプロバイダー E2E アーキテクチャ 第1章 5G時代の無線アクセス(2)


2019年11月28日


シスコが考えるサービスプロバイダー エンドツーエンドアーキテクチャ 第1章「5G時代の無線アクセス」

前回は 5G 時代におけるモバイルアクセス技術の傾向についてご説明しました。今回はモバイルについで重要な無線アクセス技術である Wi-Fi についてご紹介します。

1.2 Wi-Fi 6

「Wi-Fi」とはこれまでは IEEE802.11 で規定された無線 LAN 規格 のベンダー相互接続性を担保するための団体である Wi-Fi Alliance から取られた無線 LAN 機器の通称でした。そのため、技術の進歩は規格名で表されており、主だった規格に注目すると IEEE802.11b/a/g/n/ac と呼称されてきました。

しかし Wi-Fi という名称が一般に十分浸透したという背景と、規格名では進歩が一般ユーザにわかりづらいというマーケティングの観点から、IEEE802.11ax からは Wi-Fi 6 という通称が用いられることになりました。

これまでの Wi-Fi の進化は、個々の端末のピークスループットを向上させることを主に考えられてきましたが、Wi-Fi 6 ではシステム全体のスループットの向上に向けて舵が切られています。Wi-Fi 6 のシステムスループット向上に資する主な特長を次に示します[9]。

 

1.2.1 OFDMA

 

図 1-3 多元接続方式

図 1-3 多元接続方式

Wi-Fi 6 の最も大きな特徴は、多元接続の方式が、これまでの分散制御である Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance(CSMA/CA; 搬送波感知多重アクセス/衝突回避)から、集中制御の Orthogonal Frequency Division Multiple Access(OFDMA; 直交周波数分割多元接続)ベースに変更となったことです。

図 1-3 に従来の CSMA/CA ベース OFDM と OFDMA ベースのリソース割当の概念図を示します。これまでは、送信権を持った端末が全ての周波数リソースを使って送信し、多元接続は時間的に分割することで実現されていました。そのため特に音声等のショートパケットでは周波数リソースを使い切れず、無駄が生じていました。

Wi-Fi 6 では、 OFDMA の採用により、周波数リソースを細分化して必要な分だけを複数端末に割り当てることができるようになったため、無駄が削減されシステムスループット・遅延の改善が期待できます。また、これまでの時間軸方向のリソース制御だけではなく、その端末にとって最も適切な周波数のみを用いて通信を行う等の、時間軸/周波数軸の両方にわたる細かな無線リソースの制御も可能となり、通信品質の改善も期待できます。

 

1.2.2 MU-MIMO

 

図 1-4 SU-MIMO と MU-MIMO の比較

図 1-4 SU-MIMO と MU-MIMO の比較

集中制御型となったことにより可能となる技術に multi-user multiple-input multiple-output(MU-MIMO)があります。MIMO 技術はアンテナの数に応じてストリーム数を増加させることが可能な技術ですが、従来の規格でも対応していた single-user MMO(SU-MIMO)の場合、送受信のアンテナ数が異なる場合は少ない方のアンテナ数が限界となります。

筐体の大きさから、一般的にアクセスポイント(AP)の方が端末よりもアンテナの数が多く、1 対 1 で通信を行う場合は AP のアンテナ数を全て活かすことができませんでした。しかし MU-MIMO では、同じ周波数・同じタイムスロットで、ビームフォーミング技術を用いて端末が空間的に棲み分けることにより、複数の端末が AP と同時に通信を行うことが可能となります。

すなわち 、AP で備えるアンテナを限界まで活用し、システムスループットの向上が可能となります。MU-MIMO はダウンリンクのみ Wi-Fi5 でも対応しましたが、アップリンクは端末同士の同期が必要であり技術的な難易度が高いため Wi-Fi5 での導入は見送られました。しかし Wi-Fi 6 では集中制御となったため端末同士の同期が比較的容易となり、アップリンクの MU-MIMO に対応可能となりました。

 

1.2.3 BSS color

Wi-Fi 6 で OFDMA が導入されたものの、OFDMA による集中制御が可能となるのは Basic Service Set(BSS)に所属する(同一 AP 配下の同一グループ)端末のみであり、異なる BSS を持つ AP や STA との空間棲み分けを実現する手段は listen-before-talk 方式の CSMA/CA が基本です。そのため複数の BSS が狭隘な空間にまとまって存在するような高密度環境においてチャネル間干渉が発生しスループットが劣化してしまうという課題は解決されません。

しかし、実際には隣接 BSS からの信号は微弱であり、検出はされるものの、同時に自分が送信したとしても問題なく受信可能となる場合が多く、現状のままの CSMA/CA による保護は過剰な保護となっていました。

 

図 1-5 BSS coloringのイメージ

図 1-5 BSS coloringのイメージ

そこで Wi-Fi 6 では、BSS color と呼ばれる、BSS を識別するための ID を物理層の Preamble に入れることによって、MAC 層ではなく物理層のレベルで BSS を識別する方式が導入されました。また、自 BSS(MYBSS)用のシグナル検出の閾値と、他 BSS(Overlapping BSS; OBSS)用のシグナル検出の閾値(OBSS_PD)を個別に設け、OBSS_PD を動的に調整することが可能となりました。(Dynamic Sensitivity Control; DSC)

これらを組み合わせ、かつ OBSS_PD を BSS より高く設定する(感度を鈍くする)ことで、どこかから信号が届いた際に、自 BSS の信号は受信するが、他BSS(OBSS)からの信号は物理層で OBSS と認識した時点で無視をして、当該チャネルは使用されていないと判断するという動作が可能となりました。これにより、周波数チャネルの繰り返し利用の効率が向上し、システム全体の効率を改善することが可能となりました。

 

1.3 LPWA

これまでの項では、ブロードバンド無線アクセス技術として 5G、Wi-Fi 6 をご紹介しましたが、本項では、主に Internet of things(IoT)での利用を主眼に開発されたナローバンド無線アクセス技術である Low power wide area(LPWA)についてご紹介します。

 

1.3.1 LPWA概要

多様なアプリケーションの通信ニーズを満たすため、ブロードバンド化とは逆に、通信速度を落とすことでより低消費電力で広いカバーエリアを低コストで実現する LPWA が期待されています。LPWA には上記のニーズを満たすアクセス方式が複数提唱されています。

代表的なものとしては、非セルラー系の LoRaWAN、Sigfox、セルラー系の LTE-M、NB-IOT が挙げられます。特に LoRaWAN は非セルラー系では現時点で最も活用されている方式です。次の項で LoRaWAN の概要を述べます。

表 1-1 主なLPWAのアクセス方式

System LoRaWAN SIGFOX LTE-M NB-IoT
推進団体 LoRa Alliance SIGFOWX 3GPP 3GPP
使用周波数 920 Mhz 920 Mhz セルラと同一 セルラと同一
通信速度 250~50kbps 上り:100bps

下り:600bps

上り/下り

300kbps~1Mbps

上り:62kbps

下り:21kbps

カバレッジ 数 km~十数 km 数 km~十数 km 数 km~十数 km 数 km~十数 km

 

1.3.2 LoRa/LoRaWAN

図 1-6 に LoRaWAN のプロトコルスタックを示します。LoRaWAN ネットワークシステムは、正確には 、LoRa という物理層の方式を規定した規格と LoRaWAN というmedia access(MAC)層の方式を規定した規格で構成されています。LoRa は、端末の低消費電力化と端末価格低減のため受信機の構成を単純にしつつ、長距離伝送を実現するためチャープスペクトラム拡散方式を採用しています。

LoRaWAN は 、LoRa alliance によって定義されている MAC 層プロトコルです。スループットを犠牲にする代わりに低消費電力通信に特化した Aloha 方式を採用しており、同期型のセルラー系のシステムと比べて 3 倍以上のバッテリーのもちを実現可能です。基地局をゲートウェイとしたスター型のネットワーク構成を採用していますが、端末は特定の基地局ではなく複数の基地局に接続することが可能となっており冗長性を実現しています。

 

図 1-6 LoRaWANプロトコルスタック

図 1-6 LoRaWANプロトコルスタック

LoRa alliance は非営利標準化団体であり、世界中から多くの SP、インテグレーター、アプリケーション開発会社、センサチップセットベンダーが参加しています。アンライセンス帯で運用可能であるため、セルラー系と比較して比較的容易に運用可能であり、様々なアプリケーションへの適用が期待されています。

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参考文献

[9] E Khorov et al., “A Tutorial on IEEE 802.11ax High Efficiency WLANs”, IEEE COMMUNICATIONS SURVEYS & TUTORIALS, VOL. 21, NO. 1, FIRST QUARTER 2019.

 

用語集

OFDMA (Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access):直交周波数を用いて多元接続を実現する通信方式
MU-MIMO( Multi-User MIMO):同一時間同一周波数において複数端末と同時にデータを送受信するMIMO通信方式
SU-MIMO(Single-User MIMO):同一時間同一周波数において単一端末と複数データストリームを同時に送受信するMIMO 通信方式
CSMA/CA(Carrier sense Multiplexing Access / Colision Avoidance):通信前に干渉波の状況を確認してから送信する通信プロトコル
OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing):直交周波数を利用して周波数利用効率を高めるデジタル変調方式
AP(Access Point):無線 LAN の親局
BSS(Business Service Set):1つの AP とその配下の無線LAN端末とで構成されるネットワーク
BSS color : BSSを物理層で識別するための ID
OBSS(Overlap BSS):隣接する BSS
MY BSS:当該端末が属する BSS
MAC(Media Access Control):OSI 参照モデルにおける第2層。
OBSS_PD(OBSS Packet Detection):OBSS の電波を検出するための受信電力の閾値
CCA-SD(Clear Channel Assessment Energy Detection):無線 LAN 信号を検出するための受信電力の閾値
CCA-ED(Clear Channel Assessment Signal Detection):無線信号を検出するための受信電力の閾値
RSSI(Received Signal Strength Indicator):受信電力
Sigfox:SIGFOX社が提唱するIoT向け無線通信方式
NB-IoT(Narrow Band IoT):LTE 方式で低価格低消費電力に特化したIoT向けモバイル通信技術。端末が固定されている場合に適している。
LTE-M:LTE 方式で低価格低消費電力に特化したIoT向けモバイル通信技術。ハンドオーバが可能であり端末が移動する場合に適している
IoT(Internet of Things):あらゆる物がインターネットに接続されるネットワークの仕組み

 

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1 コメント

  1. 久しぶりに、Wi-Fiのことを調べたら、いきなりWi-Fi6とか出てびっくりしておりましたが、axのことだったのですねえ。解説有難うございまず。Wi-Fiも高速化するためには結局集中制御なのですね。そうすると益々モバイルとの差がなくなるなあと思いました。