SRv6が熱くなってきました!
2019年1月の JANOG43 では、Segment Routing 創案者である Clarence Filsfils も来日し、オペレータ、研究者、オープンソース等による実装者、ベンダーなど、様々な立場から Update Session を行わせて戴きました(「SRv6 最前線」)。SRv6 という技術の創案者、そして、それを世界最初に商用網への実展開を決定されたオペレータ(ニュースリリース)を含む、世界的にも SRv6 最前線にいる人々が共に集って発表する、という、なかなかヒストリカルなセッションでありました。が、何と、JANOG43 では、話題性の面でもさらに上を行くセッションがあって、多くの人のエンジニア魂を鷲掴みにしました(「LINE のネットワークをゼロから再設計した話」)。
ネットワークアーキテクチャの再設計って、控えめに言っても簡単なことではありません。ユーザ要求は増えることはあっても減ることはなく、オペレーションの都合や慣習は厳然たる事実として存在します。同じ技術者同士でも技術間の抵抗があり、さらには組織や文化の壁というものもあります。殆どの場合は、良くも悪しくも継続性が重視され、増強や改善が行われることはあっても、アーキテクチャ レベルでの刷新が行われることは稀です。しかし、LINE の発表では、アーキテクチャ原理を定め、トレードオフを見極め、万難をはねのけ再設計を実践した、アーキテクトとしての見識と実行力が、飾ることなく誠実に語られていました。この変遷の時代、アーキテクトの役割は重要です。(アーキテクトがなぜトレードオフを見極める必要があるか、については、こちらもご覧ください。「ネットワークアーキテクチャ考(2) – トレードオフ」 )そして、そのセッションの「今後の展望」のところで、SRv6 について言及して戴いたために、我々(って誰だ)も湧き立っている訳です。
そして翌月の 2019年2月の ENOG。この「越後 NOG」というローカル NOGで、SRv6 縛りの勉強会が開催されました(「ENOG#55 SRv6 縛りの勉強会」)。そんなことして一体人が集まるのでしょうか、という当初の心配は裏切られ、居酒屋の屋根裏部屋みたい(失礼)な、お店の人からは「30人くらいは大丈夫でしょう」と言われていた会場に、60人が集まったという。しかも集まったメンバーが濃くてびっくり。すごい cutting edge なトピックを斬り込んでいるのに、どこか親しくて暖かい雰囲気。
ENOG では、3GPP を含めた標準化団体での状況や、P4、VPP での実装、Linux Kernel 実装のトライアル話(早速 Bug みつけて修正したのもすごい)、そして Kamuee への SRv6 実装話(こんな若者いるなら日本の将来は明るい)など、刺激と示唆に富んでおり、大変充実した時間を共にさせて戴きました。私も Coder に戻りたいー、と強く思った!いやー、こんなにバリバリはとてもできないけれど、でも、愉しそうだよー。かっこいいよー。
SRv6 は、Native IP/L3 でシンプル。また今後を考えるとアドレス制約のない IPv6 は有利。さらに、TI-LFA(Topology 非依存の Fast Protection)、Traffic Steering、Multi-tenancy ができ、そして、Declarative な Network Programming を実現できるため、可能性は大きいと見ています。勿論、良い技術が必ずしも普及するとは限らないのですが、今大きな手応えを感じているのは、従来の広域ネットワークのみならず、データセンター、ホストスタック、モビリティなど、領域を越えて議論が起こっていることです。領域を越え、組織を越え、業界の仲間と切磋琢磨できることは、非常に貴重で、ありがたいことです。
約2年前(2017年3月)総務省の、「将来のネットワークインフラに関する研究会」で、「将来インフラだったらSRv6(第4回研究会資料より)」と言ってみたら、「は?」みたいな感じになったのが遠い昔のように思えます。
ディジタル時代の要請に応え、かつ頑健である、良いアーキテクチャを育てて行きたいと、身が引き締まる思いでおります。