京都府庁からシスコに派遣されております山本です。私の派遣も残すところあと1か月ほどとなりました。京都府に戻るため引っ越しの見積なんてとっていると少し切ない気持ちになりますが、「まだあと1か月もある」と視点を変えてみると案外何でもできるなと思っています。残された時間でこの派遣で学んだことを最後の1滴までお伝えしたいと思います。
さて、シスコの 1-on-1(一対一の面談)について、前回記事では、上司・部下が現場 でどのように活用しているのか、マネージャーへのインタビュー調査を通じてご紹介しました。今回はシスコの人事が上司・部下のコミュニケーションに何を期待し、上司・部下の 1-on-1 についてどう考えているか、業務執行役員人事部長である宮川愛さんへのインタビューを通してご紹介したいと思います。
※シスコでは、「上司」「部下」という言葉は使われませんが、記事作成のために便宜的に使用します。
アジャイル組織へ
山本:まず、人事としてどのような組織を目指しており、社内のコミュニケーションはどうあるべきと考えていますか。
宮川愛さん(以下、宮川):現代社会の特徴は VUCA だと言われています。生産性を上げることが重要だった時代から、新しいアイデアを産み出していち早く市場に提供すること、つまりイノベーションを起こすことが重要な時代に変わりました。トップの意思決定が上位下達で伝えられ、社員が言われたことを 100% 実行する硬直した組織から、現場レベルでの意思決定が尊重され、自律した社員が社内外のパートナーと協働して事業を進めるアジャイル組織が求められているのです。
そのため、社内のコミュニケーションとしては、同質な社員同士の同調した「阿吽の呼吸」ではなく、ダイバーシティ溢れる多様なタレントを持った社員が組織ゴールに向けて活発にディスカッションすることが求められます。また、硬直した組織では他部署の社員とコミュニケーションを取るためにわざわざ上司の承認が必要ということもありますが、いち早くイノベーションを起こすためには社員が自由に横々でまた時に斜め横に対してコミュニケーションが取られなければなりません。
建設的衝突を引き出す
山本:上司のマネージメントはどうあるべきですか。
宮川:以前シスコがグローバルでパフォーマンスの高いチームに共通する特徴を調査したことがあります。パフォーマンスの高いチームでは、(1) 毎日自分の強みを活かすことができているという実感がチーム員にあること、(2) チーム員間に信頼関係(心理的安全性)があること、(3) チーム員が価値観を共有していることが共通の特徴としてあることが分かりました。これらの特性を持つチーム作りが大切だと考えています。
そのため、シスコでは上司にマネージメントではなくリーダーシップを求めています。管理ではなく、自律した個人が自分の強みを活かすようにファシリテートし、価値観を共有した「チーム」を組織全体のゴールに向けて方向付ける統率力が必要です。
また、チーム員が自由に意見を言い合える相互の信頼関係をいかに構築するかも重要です。これは上司と部下の関係においても同様です。上司の意見に反論できるくらいの上司・部下の信頼関係が必要です。信頼関係の中でチームメンバー同士が組織のゴール達成に何が必要か本音で議論する「建設的衝突」を引き出すことが出来ないとイノベーションは起こせないと考えています。
頻度の高いコミュニケーション
山本:上司・部下のコミュニケーションはどうあるべきですか。
宮川:頻度の高いコミュニケーションです。以前のパフォーマンス マネージメントは年度の期初に上司と部下が目標設定をして、それに基づいて中間に進捗チェックをし、期末に5段階評価を行うというものでした。このように1年という期間を定めた運用は、VUCA のように変化が早い時代に機能しません。期末に部下の行動や成果について評価を行っても価値はありませんし、もし部下にリアルタイムでフィードバックを行っていたら、そのタイミングで行動を改善することで、より良い成果を出せたかもしれません。
そのため、現在シスコでは週1回程度の頻度の高い上司・部下のコミュニケーションを推奨しています。その際に部下に対する過去への評価ではなく、将来に向かって部下の行動変容を促すフィードバックすることを求めています。
山本:将来に向かって部下の行動変更を促すということは具体的にはどういうことでしょうか。
宮川:部下の個々の強みを伸ばすことです。多様なタレントを持った社員が協働しなければイノベーションは生まれません。シスコではストレングス ファインダーの理論に基づく9分類の強み(Advisor, Connector, Creator, Equalizer, Influencer, Pioneer, Provider, Stimulator, Teacher)を公開し、社員が簡単なアンケートにより自己評価し、自分自身の強み(トップ2)が何であるのか分かるようになっています。そして、今ある強みをもっと伸ばすことができるよう、週1回は上司・部下で振り返りやフィードバックを行う機会を持ってもらうようにしているのです。
山本:週1回 1-on-1 を行うということでしょうか。
宮川:はい。週1回の 1-on-1 を推奨していますが、部下の人数が多い上司には物理的に難しいです。そのため、アプリケーションを利用して、週1回、社員一人ひとりが自分の強みを活かす行動をしたか、どんな業務をしているときに喜びを感じたか等、あとは翌週の優先順位を上司と共有する仕組みを整えています。アプリケーション上で上司から部下に対して返信することも可能で、リアルコミュニケーションを補っています。私の上司はシンガポールにいますが、先日このアプリケーションに入力するとすぐに上司から電話が来ることがありました。
山本:対面での 1-on-1 に求めることは何でしょうか。
宮川:業務の進捗確認は重要ですが、それだけになってはいけません。1-on-1 は部下の業務レビューを行い、出来なかったポイントを詰める場ではありません。1-on-1 は部下の仕事上の課題やモチベーション、キャリアについて話し合いながら必要に応じて上司がコーチングする場でなければなりません。また、そうすることで部下の感情に触れ、お互いの信頼関係をより強固にする必要があるのです。
山本: 質問は以上です。宮川さん、貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを終えて
宮川さんへのインタビューを終えて、いくつか感じたことをまとめたいと思います。
1点目は、人事が上司・部下の 1-on-1 に求めることと現場でマネージャーが 1-on-1 をすることで得られている効果に共通点が多くあるということです。シスコの 1-on-1 は信頼関係の構築にとても有効であり、未来志向で部下の行動変容を促すことに意義があるのだと言えます。
2点目は、「ダイバーシティある組織からイノベーションが生まれる」と聞くと、頭に思い浮かべるイメージは国籍やバックグラウンドが全く異なるメンバーが意見を衝突させて斬新なアイデアを産み出すようなものだと思います。しかし、今回お話を伺って、公務のような比較的同質性の高い組織でも、上司・部下のコミュニケーションのあり方を変えるだけで、個々人の強みを伸ばし、何でもディスカッションできる信頼あるチームを作り、斬新なイノベーションを次々に生む環境を整えることができるのではないかと思いました。
私のシスコ派遣もあと僅かですが、この質の高いコミュニケーションを是非とも公務職場に持って帰りたいと考えております。
1 コメント
先日の新宿同窓会以来、ちょこちょこブログ読ませてもらってますが、いつも記事のクオリティが高くて、勉強になります。
イノベーションとダイバーシティの関係は、私は以下のように考えていましたが、コミュニケーションの方法を工夫することによって、比較的同質性の高い組織でもイノベーションを生む環境を作り出せるのではないかといった考え方は、非常に興味深いので、今度また会えた時にでも進捗や成果を共有してください!
<イノベーションとダイバーシティ>
イノベーションとは、シュンペーターによると
“(既存の)知と(既存の)知の新しい組み合わせ(New Combination)”と定義される。
イノベーション理論では、イノベーションを生み出すためには、知の探索(幅)と知の深化(深さ)の二つの異なるベクトルを最大化する必要があるとされている。
人は知っていることしか組み合わせることしかできないため(“認知の限界”)、特に一点目の、できるだけ遠く離れた分野の知の探索がイノベーション創出においてカギを握る。
同じ業界、同じ場所、同じような人たちが長年集まった場所ではイノベーションは起きにくい(既存の知と知の組み合わせが終了している)。
よって、組織として、同質化ではなくダイバーシティを積極的に推進し、異なる専門性を高めることに注力することが重要である。