京都府庁からシスコに派遣されております山本です。今回は、私がシスコに派遣されて最も驚いた体験であり、かつ皆様の職場で実践していただくことで働き方改革に繋がる「1-on-1」についてご紹介します。シスコのマネージャーの生の声をヒアリングしてきましたので、是非最後までお付き合いください。
シスコの 1-on-1
EP4 で少し触れたように、シスコでは上司や同僚と気軽に 1-on-1(ワンオンワン)と呼ばれる一対一の個別面談を行う習慣があります。毎週定期的に上司と業務のレビューを行う 1-on-1 や、同僚に専門的な相談をするための 1-on-1、新たに部署に配属されたときの顔合わせの 1-on-1 など多用な目的で 1-on-1 が行われています。「1-on-1 お願いします」といえば、たいていの方は受けてくれ、シスコにとって 1-on-1 はカルチャーだと言えます。
この 1-on-1。元々はシスコの米国本社があるシリコンバレーで生まれたコミュニケーション スタイルだと聞いたことがありますが、現在は外資系企業だけでなく日本の企業でも多く取り入れられています。EP6 でご紹介したヤフー、EP7 でご紹介したサイボウズでも 1-on-1 が行われています。特に上司・部下の間で行われる 1-on-1 は、近年コーチングや OJT の領域で注目されており、社員の経験学習の促進やキャリア支援に有効であると言われています(北海道大学の松尾睦教授の経験学習に関する著書『経験学習入門:職場が生きる、人が育つ』は大変参考になります)。
今、上司と部下の 1-on-1 が重要
さて、働き方改革や人づくり革命を実現する上で、上司・部下のコミュニケーションのあり方を改善することは最も重要な課題です。「働き方改革はマネージメント改革」と世間では言われており、従前の上司・部下のコミュニケーションのあり方について再考しなければならい時期に来ています。
例えば、公務職場では 1-on-1 のように上司と部下が個別面談を行うカルチャーはほとんどありません。人事評価のヒアリングや人事異動の希望調査くらいでしか上司と部下が個別面談をする機会がない団体も多いと思います。コミュニケーションの中心はチーム ミーティングや決裁に付随する立ち話です。「勤務時間中はずっと顔をつきあわせて仕事をしているのだから、わざわざ個別面談をする必要などない」と思われるかもしれませんが、意外と「質の高いコミュニケーション」は取られていないのではないでしょうか。例えば、以下のチェック項目はどうでしょうか。
- 中長期的な業務課題について部下と話し合い、部下が課題を解決するためには何が必要であるか把握できているか。
- 組織の経営理念、部署の方針等を部下に納得してもらい、その中で部下が個人の目標設定をすることに付き合えているか。
- 部下が望むキャリアや身に付けたいスキルについて話し合い、部下が主体的に仕事をすることができる環境を整えることができているか。
私がシスコに来て経験した 1-on-1 は、上司と部下の信頼関係を構築し、日々のコミュニケーションを格段に楽にするとともに、上司が部下に裁量を与え、部下が主体的に仕事に取り組む、という関係作りに寄与する「質の高いコミュニケーション」です。この上司・部下の定期的な 1-on-1 が、公務職場やそれに類似する職場にこそ必要だと考えております。以下、シスコにおいて、上司・部下がどのように 1-on-1 を行い、どのような効果を得ているのか、見ていきたいと思います。
※シスコでは、「上司」「部下」という言葉は使われませんが、記事作成のために便宜的に使用します。
ヒアリング調査
この記事作成にあっては、シスコのテクニカルサービス部門の5名のマネージャーにご協力頂き、ヒアリング調査を実施しました。また、この5名のマネージャーの上司であり部門の責任者にも調査を補足するためヒアリングさせていただきました。マネージャー(公務員でいうと課長級にあたります。)に焦点をあて、実際にマネージャーが 1-on-1 を通じて部下とどのように向き合い、どのような効果を得ているのかご紹介します。
1-on-1 で何を話すのか?
部下と何を話すかについて、「部下が話したいことを話してもらう」「ポジティブ リスニングが重要」と答えるマネージャーの方がほとんどで、極論を言ってしまえば話す内容は部下により異なるということになります。ただ、その中でもマネージャーから話を切り出す事項として共通している点もありました。
目的1:未来志向の MBO
多くのマネージャーが行っていたのは、部下の業務目標の進捗確認です。この部門では、部門全体の MBO(目標管理)が徹底されており、その部門のゴールを念頭にマネージャーと部下が目標設定をします。部下に所定のフォーマットに記入してもらうケースもあれば、部下と話し合って決めたゴールを後日メール等で部下に送付するというマネージャーもいました。目標の進捗確認について、2人のマネージャーのコメントを引用します。
「MBOの話をする時に気をつけているのは、1-on-1 での私のコメントがスタッフ(部下)にとって『評価』として捉えられないようにすることです。客観的にスタッフと今の状況を確認し合い、未来志向のフィードバックをするように心掛けています。1-on-1 はスタッフの目標達成のために私としてできることを話し会う良い機会です」
「実際にあったことですが、スタッフがクリアできていない項目があったとき、その理由を二人で突き詰めて議論していくと、スタッフが目指したいキャリアと業務が合っていなかったことが分かることがあります。その人は専門的なスキルを今後も磨いていきたいのだと私は思い込んでいたのですが、実際は後輩への支援をしたいという気持ちがあったのです。話はゴール設定の変更に移りました」
目的2:Proactive Activity
また、部下が主体的に自分に負荷をかけて取り組んだ事柄(Proactive Activity や Stretch Goal と呼ばれていました)についても積極的に確認しているというマネージャーが複数名いました。例えば、チーム メンバーのサポートに率先して回ること、業務外で勉強会を開くこと、新たなプロジェクトを提案することなどです。このような行動は会社として推奨されるということもありますが、部下の成長に繋がることだから知っておきたいという考えからです。
ちなみに冒頭で紹介した松尾教授の著書では、自分に対して適度な負荷をかけ(ストレッチ)、それの経験を振り返ること(リフレクション)で、仕事へのやり甲斐や自分の仕事に対する意義を見いだすこと(エンジョイメント)に繋げることができると説明されています。ここであるマネージャーのコメントを引用します。
「あるトレーニングを受けようと頑張っているスタッフがいました。その熱意が凄く、私としてもぜひ応援したいと思ったのですが、サプライヤ登録されていない会社のトレーニングで、また部門トレーニング予算も限られていました。なんとかトレーニング購入を実現させたくて、サプライヤの営業、シスコ購買部、同僚のエンジニア、上司と掛け合いました。1-on-1 があったからトレーニングを受けたい強い意志が伝わり、トレーニング購入機会につながったと思います」
目的3:行動変容
部下が新たにチーム リーダーになったとき、1-on-1 で行動を丁寧に確認されるというマネージャーがいました。この方は自分自身が新任のマネージャーであったとき、自分の上司である部門の責任者との 1-on-1 で「マネージャーはどういう視点で物事を考え、行動すべきか」という考え方のフレームを学んだとコメントされており、部下がロールチェンジしたとき 1-on-1 を通じてメンタリングすることが重要とのことです。その方のコメントを引用します。
「初めてグループリーダになった人には、1-on-1 で注意深く話を聞いています。グループリーダになる人は元々仕事をこなすスキルが高い。でもそれだけでなくて、チームのための活動をしているか丁寧に聞きます。1-on-1 をする度にグループリーダとして成長しているなと実感しています」
これ以外にも、日々の健康、仕事上での悩み、人間関係、キャリアについての相談等はどのマネージャーも確認していました。
部下との 1-on-1 は負担にならないか?
15 名前後の部下を抱える上司に取って、1-on-1 は負担ではないかという問いかけについて、大半のマネージャーは月1回では負担にならないという回答でしたが、率直に負担になっているというマネージャーもいました。その方のコメントを引用します。
「私はお酒も飲まないし、お昼はお弁当なのでスタッフの方々とランチを取るわけでもありません。月に3日は丸々スタッフの方々と 1-on-1 に時間を割くため大変ではありますが、逆に 1-on-1 がなかったらスタッフの方々とこのレベルのコミュニケーションをとる機会を作るのは大変だと思います。私の業務の一番はピープル マネージメントなので、1-on-1 は最優先ですね」
このように、シスコにおいて 1-on-1 は上司・部下の信頼構築、部下の主体性向上、環境変化に対応した行動変容を実現するためのひとつのツールとして活用されている、ということが私の所見です。ヒアリングさせていただいた部門がシスコの中でも一部ではありますが、シスコの 1-on-1 のエッセンスをお伝えできたと思います。このような上司・部下のコミュニケーションが今、公務職場には必要だと感じています。
※シスコ社としては頻度の高いコミュニケーションを推奨しています。1-on-1 に限らず、上司と部下が時間や場所にとらわれずタイムリーにコミュニケーションを取るためのサポート ツールを全社に展開し、全社員が活用することでコミュニケーションを活性化しています(シスコ HR ヒアリング結果)。