京都府庁からシスコに派遣で来ております山本です。さて、今回の記事も前回に引き続き、インタビュー記事になります。私と同じように公務員でありながら IT 系企業等に派遣され、公務と異なる環境で仕事をされている方々にそこでのワークスタイルの違いや日々の気づきをお伺いすることで、「公務職場の更なる可能性」をご紹介できればと思います。
今回は、練馬区役所からあのアリキリで有名な働き方改革応援企業のサイボウズに派遣されている榎本雄太さんにインタビューをさせていただきました。
山本: サイボウズに派遣された経緯をお聞かせください。
榎本雄太さん(以下、榎本):民間企業のノウハウやカルチャーを勉強し区政に活かそうという練馬区独自の研修制度により、サイボウズに派遣されています。1 年間の研修派遣で、私は昨年の前任者から続いて 2 人目になります。意外に思われるかもしれませんが、28 年度から始まったこの派遣が東京 23 区では初めての民間企業派遣になります。
私は新採職員で入庁してから、収納課や防災課といった部署で業務をしていました。もっと広く練馬区政に携わりたいと思っていた時期に人事課から民間企業派遣の打診を受けました。正直驚きましたが、東京都や国への出向ではなく IT 企業のサイボウズに派遣されるということが率直に面白そうだなと思い、打診を受けることにしました。
山本: 現在はどのような部署で仕事をされているのですか。青野社長の隣で仕事をされていると伺いました。
榎本: 現在は社長室という部署で社長の青野の隣で仕事をしています。社長含め 6 人の部署で、皆さんタレントのような方が各々の強みを活かし、新規事業の開拓を行っています。私は起業家支援×地域活性化支援の事業である「地域クラウド交流会」を担当しています。
「地域クラウド交流会」は地域で活躍する起業家とその地域の応援者をつなぐ場を作る事業です。交流会型クラウド ファンディングといって、起業家が行う事業プレゼンに対して、その場に集まった地域の方々が応援したい起業家へ投票(資金提供)を行うというものです。このリアルタイムの投票を「kintone」というビジネスアプリ作成プラットフォームを使って行います。地域で頑張る起業家への応援を通じて、地域のチームワークが良くなり、その地域が地域の人たちの力で活性化する、そういったチームワークを作ることが目的の事業になりますね。
山本: 「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念を体現していますね!練馬区から最先端の IT 企業に来られて最初は驚きの連続だったのではないですか?
榎本: 180 度環境が変わりました。IT にそもそも疎く、出勤初日に何を持って行けばよいか分からなかったので、役所では必需品のハンコだけ持って出社しました。じゃ、上司に「ハンコなんて使わないよ」と言われて初日から衝撃を受けたのを覚えています(笑)。ハンコがなくとも仕事が回るのですね。すべて電子決裁のため決裁のスピード感が違いました。
また、公務では電話でのコミュニケーションがメインだったのですが、サイボウズのオフィスでは電話がほとんど鳴りません。社内でのやり取りは電話やメールを使わず、kintone のシステム上ですべてコミュニケーションを行います。この kintone システムですが、なんと全社員が見られる場でのやり取りになります。サイボウズの理念として公明正大が掲げられているということもありますが、みんなが見られる場でコミュニケーションや議論をすることで、それを見ていたチーム外の方がアドバイスや新しい意見をくれることもあるからです。また、時系列でやり取りをした内容が残るため、そのまま後任への引継資料になります。年度末に引継資料を作ろうとして、内容や経過を確認し直すということがありません。
あと、サイボウズの働き方は「自立と多様性」を尊重します。会社が社員の一生を保証できる訳はないですし、会社の事業自体が変わる可能性もあります。その中で、社員は自立して仕事をして、スキルを身に付けることが求められます。待っていても仕事はやってこないですし、自分で仕事を創っていく自立が求められます。多様性の面でも「複業」(「副業」ではない)が認められ、選択型人事制度により自分の働き方を自分で決めることができます。時短勤務でもよいし、裁量労働制で働いてもよい、オフィスで働いてもよいし、自宅で在宅勤務でもよい。まさに多様性が尊重されています。公務とはかなり異なりますね。
山本: 多様性を尊重する職場環境で仕事をされていて、そのメリットを教えてください。
榎本: 私には 1 歳になる子供がいます。妻と育児に悪戦苦闘している日々です。自宅からオフィスまでは 1 時間半ほどかかることもあり、子供の調子がすぐれない時など家でリモートワークをすることも多いですね。毎朝 9 時に定例ミーティングがあるのですが、それには Cisco Jabber を利用してビデオ会議で参加します。とても映像や音がクリアなのでオフィスで会議に参加している感覚です。
つい最近のエピソードなのですが、家でリモートワークをしているときに子供が初めて立ったんです。自分の子供が立つ瞬間を生で見られた喜びは表現しようがありません。私がもしサイボウズの柔軟な働き方ができなかったら、そしてシスコのツールがなかったら、あの瞬間には立ち会えてなかったと思います。
榎本: グループウェアというコミュニケーションを支える商品を販売される会社だけあって、社員間のコミュニケーションは密だと思います。なにか秘訣はあるのですか?
横尾: 私が個人的に良いなと思う点になりますが、サイボウズには「質問責任と説明責任」というルールがあります。自分が理解できないときは些細なことでも質問しなければなりません。質問しない場合は全て理解したということになります。また、自分のアイデアを他人に伝えるときは、責任を持って伝えないといけません。この 2 つの責任があるため、サイボウズではコミュニケーションが活発であると思います。これには例外がなく、社長の言っていることの意味が分からなかったら、聞かなければならないのです(笑)。青野もよくグループウェアを通じて社員に対してメッセージを発信しています。いつも青野の隣にいるということもあるのですが、青野が今何を考えているのか、いつも把握できる状況にあります。トップのメッセージがダイレクトに部下まで浸透していれば、今流行の「忖度」は必要がないですよね。
また、サイボウズのオフィスはリアル コミュニケーションを促す場です。グループウェアの会社なので、このオフィスに移転する際に、青野はオフィスを廃止するという意見だったそうです。しかし、会議や雑談(サイボウズでは 1-on-1 のことを「雑談」と呼んでいる)のための場が必要だという社員の意見があり、今のオフィスに移ることになりました。そのため、社員の意見を取り入れて、会議室や雑談スペースが多く配置されています。
山本: これまでのお話を聞いていると、公務でいうチームワークとサイボウズでいうチームワークは結構イメージが違いますね。
榎本: 役所のチームワークは二人三脚のイメージです。みんなで足並みをそろえて前へ進むことが重視されるように思います。一方で、サイボウズのチームワークはひとつの目標に向かってみんなで仕事することです。目標や理念に共感してさえいれば、自分の好きな働き方で仕事をしてよいという考え方です。メンバーがそれぞれの得意分野で仕事をすることで、お互いを補完し合い、チームとしての最高のパフォーマンスが実現しています。
山本: 最後にサイボウズのワークスタイルやカルチャーで練馬区に持って帰りたいものはありますか?
榎本: サイボウズのグループウェアを含め全部持って帰りたいですね(笑)
実現可能性を抜きにして、ひとつ挙げるのであれば、「育自分休暇」という制度です。育自分休暇とは 35 歳以下で、自分を成長させるためにサイボウズを退職した人が、最長 6 年間までは復職が可能であるという制度です。私は今、新卒で入った練馬区から飛び出してサイボウズで働いていて、練馬区に還元できる(還元したい)ものをたくさん見つけました。また自分が日々成長していることも実感しています。私はあくまで研修派遣という形ですが、公務員も外に身を置いて、経験を積んで、古巣に戻るというキャリアがあってよいと思います。
山本: 質問は以上です。今日は貴重なお話をありがとうございました。もっともっと榎本さんの貴重な経験を公務職場に発信してください!
インタビューを終えて
インタビューを終えて感じたことは、榎本さんが指摘されていた「質問責任」の重要性です。公務職場では会議が伝達会議になりがちで、ディスカッションにならないと聞くことがあります。会議に参加する方全員に「質問責任」があるという考え方ができれば、もっと会議はインタラクティブでディスカッションに溢れる場になると思います。新採の頃ですが、会議に参加して分からないことがあっても、「ここで質問したら会議を中断してしまう」という躊躇が自分の中であったことを思い出します。
特に会議前の事前説明や調整を重視する職場では、会議中に発言者に対して質問をすることが憚られる空気があるように思います。会議の決定事項について、その場で質問をせず、腹落ちしないまま仕事を進めるということが生じているかもしれません。目的や理念を共有することがチームワークであるならば、それは良くない事態です。質問することが責任なのだという意識を共有すれば、初歩的なことを質問することに躊躇しませんし、周りも当然のことと認識できるのではないでしょうか。
以上、今回はサイボウズの榎本さんのインタビューをお届けしました。榎本さん本当にありがとうございました。