京都府庁からシスコに派遣で来ております山本です。さて、今回から数回はインタビュー記事になります。私と同じように公務員でありながらIT系企業等に派遣され、公務と異なる環境で業務を経験されている方(あるいは経験された方)にそこでのワークスタイルの違いや日々の気づきをお伺いすることで、「公務職場の更なる可能性」をご紹介できればと思います。
今回は、神戸市役所から昨年1年間ヤフー(株)に派遣され、帰任後、市役所の働き方改革の第一線で活躍されている横尾健太郎さん(神戸市企画調整局情報化戦略部ICT業務改革担当)にインタビューさせていただきました。その内容は働き方改革を進める上での大きなヒントになると思います。
皆さんご存知のとおりヤフーは大手IT企業で、働き方改革に積極的に取り組んでおられる企業です。私は以前からヤフーの「1-on-1」(個別面談制度の1つ)や副業制度に興味があり、また、神戸市の働き方改革についても興味津々でしたので、当日は横尾さんを質問攻めにしてしまいました。横尾さんには、お忙しい中とても丁寧に対応いただき大変感謝しております。
山本: ヤフーに派遣されることになった経緯についてお聞かせください。
横尾健太郎さん(以下、横尾):元々は、一般社団法人コード・フォー・ジャパンのコーポレート フェローシップ(民間人材を自治体へ派遣するプログラム)で、ヤフーの方が神戸市役所に派遣で来られたのが始まりです。その方が「私と逆に神戸市役所からヤフーに派遣されても面白い経験ができるのでは」と提案され、両者の人事交流が始まったと聞いています。私が最初のヤフー派遣で、今年も無事 2 人目が派遣されていますので、バトンを繋げて一安しています(笑)
山本: 横尾さんは派遣前、市役所で人事労務を担当されていたということですが、ヤフーで働き方改革を学んで来なさいというミッションだったのですか?
横尾: 私が派遣された当時はまだ市役所として「働き方改革」という切り口で取組を行っていた訳ではないので、派遣時のミッションはヤフーの本業である広告や情報発信を学んでこいというものでした。実際ヤフーのスタートページの構成を考える「スタートページ事業本部」という部署で仕事をしていました。ユーザの方がどのようなニュースや社会的テーマに関心があるか考えることが仕事でした。
山本: ヤフーのスタートページを担当されていたとは凄いですね!地方公務員がいきなり最先端のIT企業で仕事をするとなると、働き方に大きな違いがあるため、色々とカルチャーショックがあったと思います。私はシスコに派遣されて一番驚いたのが、1-on-1 制度※です。公務員にはあまり個別面談のカルチャーがないと思います。ヤフーでも 1-on-1 が導入されているらしいですが、いかがでしたか?
横尾:基本的に週 1 回、上司と 1-on-1 をしていました。上司からシビアに目標への達成度合いを詰められるような面談ではなく、業務上の悩みやプライベートについて相談できる場でしたね。アドバスをいただいたり、上司の調整が必要な案件について上司に相談したりして、有効に活用していました。もちろん、同僚同士の 1-on-1 もありました。コミュニケーションのベースがグループ チャットですので、チャットでらちが明かない状況になると「1-on-1 しましょう」となります。込み入った相談ごとを 1-on-1 でしていました。ヤフーは国内に拠点が多く、Web 会議で 1-on-1 をすることも多かったですね。
山本: 公務では個別面談のカルチャーがなく、自分の仕事上の決裁ラインでのコミュニケーションで完結してしまうことが多いと思います。一方で決裁ラインでは話せないような話題もありますよね。最初、個別面談をするカルチャーに抵抗はなかったのですか?
横尾:ヤフーでは何もかもが市役所とは違ったので、1-on-1 面談もそういうものかと受け入れられましたね(笑)
あと、派遣された直後は「5 分間コミュニケーション」の嵐でした。これは入社したてのときに人脈を広げるための制度で、部署や係を跨いで初めてお会いする方と 5 分間コミュニケーション(1-on-1)を取り、終わったら数珠つなぎのように知り合いを紹介していただいて、またその方と 5 分間コミュニケーションをとるというものです。どんどん自分のコミュニケーションの輪を広げることができるため、私はトータルで 30 人以上の方と行いました。これによって、1-on-1 することにも慣れました。行政で個別に相談しようものなら、上司に話しを通してくれと言われそうなものですが、ヤフーではとても柔軟でした。
山本: 同感です。シスコでも他部署の方と気軽に 1-on-1 をすることができます。この 1-on-1 制度に私たち行政の縦割り打破のエッセンスがあるように思っています。その他にユニークな制度はありましたか?
横尾:「ななめ会議」といって、上司に対して部下がどう思っているかということをフィードバックする会議が半期に 1 回ありました。あるチームのメンバーが自分たちの上司に対する評価(知っていること、やめてほしいこと、続けてほしいこと)を所属部署の人事担当者に対して話し、評価を聞いた人事担当者がメンバーの上司にフィードバックするという仕組みです。この会議では、遠慮なしの真剣な発言が多かったですね。
山本: さて、ここからは神戸市の働き方改革の取組についてお伺いできればと思います。
横尾: 神戸市では、職場の環境、人事制度、職員の意識を一緒に改革していくため、企画調整局と行財政局が「働き方改革推進チーム」を結成して活動をしています。特徴としては職員の意識改革に注力している点です。最近では、意識改革のためのワークショップ「Design your work」を行いました。全庁で参加者を募集して、集まった約 30 人の職員がトータル 2 日間に渡って、業務課題や解決策について議論を行いました。間隔を開けて 2 日行ったため、その期間中、チャット ツールの Slack を使って参加者にコミュニケーションしてもらうなどのチャレンジもしました。若手職員が比較的多く参加していましたね。
山本: 神戸市役所では在宅勤務を推進されていますが、工夫・改善されていることはありますか?
横尾:制度を利用する職員の視点に立って、在宅勤務の申請手続きを従来よりも簡素化しました。従来は在宅勤務時に使用する貸出端末を在宅勤務の都度持ち帰って貰っていたものを一定期間貸し出すよう仕組みを改善したりしています。また在宅勤務時のコミュニケーションとして Web 会議を利用しています。
山本: 最後の質問になりますが、ヤフーに派遣されて学んだ働き方で「これは神戸市役所に導入したい」と考えていらっしゃるものはありますか?
横尾: 一番はペーパレス環境です。ヤフーと市役所で最も違うポイントです。当然、市民サービスの関係で、市役所の仕事をすべてペーパレスにすることは現実的ではないですが、できるところからペーパレスにしていかなければなりません。印刷の手間やコストを考えると、「紙文化でも支障なく仕事ができている」という前例踏襲的な考え方はやめて、ペーパレスを推進していかなければならないです。
また、市役所も「いつでもどこでも」仕事ができるよう環境を整備しないといけません。「役所は決まった時間に決まった場所で仕事をしなければならない」という現状が、人材確保の面でマイナスになる時代になってきています。BCP(事業継続計画)の点からもよくないです。災害時に役所に来ないと仕事ができないという状況は避けないといけないと考えています。
山本:質問は以上です。神戸市役所の挑戦、引き続き楽しみにしています!
※1-on-1 制度の厳密な定義はありませんが、上司と部下あるいは同僚同士が、週に 1 回 30 分程度個別面談をするというものです。企業によっては、この 1-on-1 を人事評価や MBO(目標管理)のツールとしている場合もあります。
インタビューを終えて
インタビューを終えていくつか感じたことをまとめたいと思います。
1 点目は、ヤフーやシスコで実践されている 1-on-1 のような上司と部下あるいは同僚同士の頻繁な個別面談が公務にも必要であるということです。一般論でありますが、公務の現場において、上司と部下との個別面談は人事異動面談や人事評価面談のような機会に限定されていると思います。いきなり上司に「ちょっとお時間いただけませんか」とお願いすることにハードルを感じる方も多いのではないでしょうか。一方で、職員がライフイベントに合わせた柔軟な働き方を実現したり、コーチングを受け自身の問題解決能力を向上したり、キャリアを相談して自己実現を目指したりするためには、上司と部下が落ち着いて面談する機会が今まで以上に必要です。人事部門等が例えば、月 1 回上司と部下の 1-on-1 を推奨する取組をしてはどうでしょうか。また、同僚同士の個別面談も公務では発生することがないように思います。同僚同士のコミュニケーションはチーム ミーティングや決裁ライン上でのコミュニケーションがほとんどではないでしょうか。特に部門を越えた同僚同士が何か相談しようとすると上司に断りを入れないと行けない場合もあると思います。他部署の人間が有機的にコラボレーションを行い、新たな価値ある住民サービスの向上には、組織の縦割りの壁を越えたダイレクトなコミュニケーションが必要に思います。その風土作りにヤフーで実践されている 5 分間コミュニケーションを新規採用職員にしてもらうというのはいかがでしょうか。
2 点目は、やはり業務のペーパレス化が重要だということです。横尾さんもご指摘のとおり、ペーパレス化できる業務とできない業務を切り分け、できる部分については強力に推し進める必要があるように思いました。ペーパレス化は削減や環境負担軽減に繋がるだけでなく、柔軟な働き方の第一歩だと考えております。フリーアドレス、在宅勤務、サテライト勤務を実現するには、情報を紙ではなく電子で持ち歩く必要があります。
以上、今回は神戸市の横尾さんのインタビューを取り上げました。横尾さん本当にありがとうございました。次回は練馬区役所からサイボウズに派遣されていらっしゃる榎本雄太さんのインタビューをお届けします。