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シスコ派遣記 9 ~京都府 TP(テレビ会議システム)活用実験(後編)~

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先日、「第1回働き方改革自治体ワーキンググループ」をシスコで開催し、東京都、長野県、京都府の担当者が一同に会し、自治体の働き方や働く環境は何が課題なのか、また自治体の働き方改革をどのように進めていけば良いのかといったことを自治体の枠を超えて幅広い視点から話し合いました。この取組みは、昨今「働き方改革」と叫ばれる中で、長い年月をかけて確立されてきた公務員特有の組織風土や制度、業務プロセスがネックとなり、思うように自治体における「働き方改革」が進まず、どこの自治体も何から始めたら良いのか足踏みしているという課題認識のもと、同じ悩みを抱える自治体が集まり、共通課題に対して、自治体間で知見やノウハウを共有することで、アイデアを創出していこうというものです。今回参加した自治体以外にも、多くの自治体から賛同をいただき、改めて自治体における「働き方改革」を進めていく必要性を感じるとともに、一足飛びには解決できない課題であることを痛感したところです。

さて、今回のブログでは、前回に引き続き、京都府 TP 活用実験について、その効果や新たな気づきに着目してご紹介します。

 

効果(1) 定量調査から分かったこと

まず、どのくらいテレビ会議システム「Cisco TelePresence」(以下 TP)が利用されたのかといった活用実績について、6 月~12 月の実証期間で、設置月と回収月を除き、日を追うごとに利用回数が増加していったことが分かりました。もちろん設置当初は、なかなか活用してもらえませんでしたが、徐々に TP の認知度が上がるにつれ、TP の使い方が浸透し、実証期間後半の 11 月には多くの職員の皆さんに日常的に活用いただけるようになりました。使用目的別活用実績としては、主に本庁と広域振興局間の予算のヒアリング、事業の打ち合わせや広域振興局管内の所属長会議といった主に報告や確認を目的とした業務に多く活用いただきました。

次に、TP を活用することで、どのくらいの定量的な効果が出たのかといった部分については、活用実績をもとに効果試算したところ、3,789 千円に相当する時間価値創出と1,573 千円のコスト削減が可能という結果になりました。具体的には、移動時間コストの削減(地域機関から本庁への移動)、会議調整の時間短縮、会議日程の前倒し、ペーパーレス会議に伴う印刷コスト低減、交通費の削減の効果が見込まれています。やはり、本庁から一番遠い広域振興局では往復 4 時間以上も移動時間がかかることもあり、人件費や時間コストといった観点では、TP が効果を発揮することが再確認できました。

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効果(2) 定性調査から分かったこと

TP 活用実験の前後に、アンケートとワークショップを行い、職員の意識変化について調査しました。まず、実験後のアンケートでは、「TP を使ってみて便利だった」「活用する機会があればもっと使ってみたい」との意見が 8 割近くを占め、利用いただいた多くの職員の方に、TP の利便性の高さと品質の良さを感じていただけました。同時に「活用促進するためのルールがあれば良い」との意見も 7 割あり、ツールの導入だけでなく、制度やルールの整備が必要だということも分かりました。

次に、TP 利用前後の職員の意識変化に着目すると、利用前は「カメラに映りたくない」、「使う必要性も感じない」、「活用方法を考えること自体が仕事になる」との否定的な意見が目立ちましたが、利用開始後には「普通に会話できるので、TP であることをつい忘れる」、「表情が見えるので話が伝えやすい」、「笑い声が出る等、会議が和やかになった」といった肯定的な意見が多くなり、TP 回収時には「なくなると困る」と言ってもらえるほどの意識の変化もありました。さらに、そうした TP の使いやすさや品質の良さから、自発的に TP の活用アイデアを出してくれる職員も現れる等、非常に嬉しい発見もありました。利用前は余計なものと思い込んでいたものが、体験を通して意識改革を促し、なくてはならないものへと変わっていったことが大きな効果でもあり、新たな気づきであると感じています。 

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考察(1) 見えてきた 3 つの課題

cisco-dispatched-09-tp-trial-in-kyoto-result-fig06実験を通して、いくつかの課題が見えてきました。まず、1. 環境整備の課題です。今回、TP を設置するにあたり、多くの職員の皆さんから「TP を置く場所がない、どこに置けばいいのか分からない」との指摘がありました。今回の実験は、京都府のイントラネットを利用して実施しており、有線 LAN が通っているスペースにしかTP を設置できないため、設置スペースが限定されてしまいました。また、もともとテレビ会議を設置しやすいようなフリー スペースが少ないことに加え、執務室に置いてしまうと周囲への配慮の問題やプライバシーの問題等があり、なかなか思うような場所に設置できませんでした。それでも、有線 LAN の増設やヘッドセッドの配備といった形で工夫しながら一時的に対応し、活用促進を図りました。このようなことから、やはりツールの効果を最大限に発揮するには、ツールの導入と同時に、インフラの整備を進めることが必要かつ重要だと感じました。

次は、2. 業務プロセスの課題です。これは定量調査のところでも触れましたが、今回の実験において、一番 TP が利用されたシーンは確認や報告といった業務です。もちろん確認や報告業務に活用されたことは大きな成果ですが、TP のもう一歩進んだ活用シーンとして、何かアイデアを生み出すようなディスカッションなどの場面も想定できます。そのような活用ができれば、もう少し TP 活用の可能性を体験いただけたのだと感じています。公務員の業務プロセスとして、職員間でのディスカッションによって新規事業を検討することはもちろんありますが、ルーチン業務が多くの比重を占めており、ディスカッションしながら新しいアイデアを創出するような業務プロセスや風土が定着しているわけではありません。今後は、既存の業務プロセスにツールをそのまま当てはめるのではなく、新たなツールを入れることで何をどう改善できるのか、新しい活用法はないか、といったことも考慮しながら、業務プロセスの見直しも含めて検討すべきだと感じました。

最後は 3.利用促進の課題です。冒頭で触れたように、設置当初はなかなか活用してもらえませんでした。その原因として、庁内での周知不足、利用シーンの説明不足、利用のルールや制度が不十分といった理由がありました。結果的に TP を使う部署、使わない部署、また使う人、使わない人に分かれてしまう結果となりました。そのようなことから、ツールが先行するのではなく、職員の理解促進を促す丁寧なアプローチと工夫が必要なのだと感じました。また、現場の職員の声を聞きながら、本当に必要なものを必要な場所へ導入することが重要であり、そうでなければ、どれだけ良いツールでも「宝の持ち腐れ状態」になるのだと改めて実感しました。

 

考察(2) TP の利用増加と職員の意識改革のプロセス

今まで自治体で働き方改革を進めるためには組織風土や制度、そして職員の意識を変革させるのが難しいと言われてきましたが、今回の活用実験を通じて、少しではあるものの、職員の意識改革を促し、TP の利用増加へと繋がっていったため、何かヒントが得られたのではないかと思っています。そこで、もう少し踏み込んで、TP の利用増加と職員の意識改革の関係性に着目して考察したいと思います。cisco-dispatched-09-tp-trial-in-kyoto-result-fig07

まず、今回 TP を導入するとなった時、設置拠点では多かれ少なかれハレーションが起き、なかなか利用してもらえず、結果的に新しいツールに敏感に反応した職員とそうでない職員とに分かれました。そんな中でも興味関心の高い職員は、「これ何?」「面白そう!」とポジティブに反応し、何も言わずとも、どんどん主体的に TP を利用していく中で、当初抱いていたような「使いづらそう」といった先入観や「使い方が分からない」といった抵抗感が払拭されていきました。そのような職員が核となり、積極的に設置箇所で利用促進を図ることで、口コミが広がり、利用者を増やし、全体的な利用増加に繋がっていきました。さらに、そのような職員は、体験の蓄積により、主体的に活用アイデアを創出し、さらなる利用促進を図ってくれます。同時に、使えるツールだと実感すると、そこからの浸透のスピードは非常に早く、どんどん使っていこうという雰囲気や風土が生まれてきます。何が言いたいのかと言うと、必ずどの職場にも使ってくれそうなコアになる職員が潜在しており、その職員をいかに確保し、コア職員を起点に利用促進の動きを拡大していくことが必要であり、そのプロセスを好循環させ、変革する組織風土を醸成していくことが重要であるということに気づけたということです。

また、今回の新たな気づきは、現場のコア職員の存在だけではなく、本庁で本実験を推進した企画総務課の存在も大きかったと思っています。今回の活用実験は、いわゆる IT 系の部署ではなく、企画系の部署が働き方改革の一環として推進しており、IT ツールをどのように活用していけるかといった観点で一体的なアプローチを行ったことに意義があると思っています。先程、利用促進が不十分だったと課題に挙げましたが、実証途中から、関係機関に足を運び、TP の使い方や利用シーンの説明、他部署への利用促進の周知活動、活用アイデアの創出等を行い、積極的に庁内(内部)で利用促進を図るためのアクションを起こしました。つまり、現場のコア職員に加え、活用シーンの検討を含めた一体的なアプローチを庁内(内部)で推進し、継続的にサポートする存在が必要であるということを感じています。

最後に、もう一つ指摘したいのは、トライ&エラーの重要性です。今回、フェーズ 1 からフェーズ 2 と配置換えを行いましたが、以前よりも利用頻度が増加しました。つまり、TP をどこに置いてもその効果を最大限に発揮できるというわけではなく、既存の業務の性質やプロセス、そしてどの部署とのやりとりが一番多いのかといったことを勘案して、初めて適材適所が見つかり、効果的な活用に繋がっていくのだと感じています。

 

今回、TP 活用実験を通して、多くの職員の皆さんに「テレビ会議システム」という新しいテクノロジーに触れていただきましたが、その体験から少しでも何か新しい気づきや発見に繋がればと思っています。テクノロジーは日進月歩で進化しており、これからも私たちの利便性や作業効率を高めてくれるツールは出てくると思いますが、私たちの意識や感覚がそこに追いついていかなければならないと思っています。そのようなツールに対して、最初から先入観や抵抗感を持つのではく、「何かおもしろそう」「使えるかも」と興味関心を持つだけでも意識改革のきっかけに繋がっていくのだと思います。ありとあらゆるツールを駆使する働き方がベストとは限りませんが、少なくともツールを選択し、受け入れるだけの組織風土の醸成や職員一人一人の意識改革は必要不可欠なことなのだと感じています。あくまでツールはツールでしかなく、利用する「人」がツールを使いこなし、ツールを使って何をどう変えていけるのかといったことを考えることが重要なテーマであり、働き方改革を進めるための必要なポイントなのだと思いました。

次回のブログで最終回になります。シスコで 1 年間過ごして感じた気づきや学びを改めて振り返りたいと思います。次回のテーマは「シスコ派遣記 10 ~働き方が変えられないから変えられるへ~」です。

 

Authors

籾井 隆宏

Japan Public Sector Operations

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1 コメント

  1. テレビ会議システムの導入、苦労した点、検証と一連の様子がよく分かり楽しく拝読しました。
    これまでも「コア職員」を捕まえて導入、活用を加速させていくのは手っ取り早く成果が上がる一方で、組織や風土にまで根付かせる段階で行き詰まってしまうことが経験上よくありました。
    特に定期的に人事異動のある職場においては、コア職人のエネルギーをいかに組織のエネルギーに変化できるかは、共通の課題でしょう。今回の籾井さんの活用実験の経緯を拝見しながら、自分の仕事を進める上でもヒントにさせてもらおうと思います。
    少し話はそれますが、人はなかなか変わらない・変われない(特に年を取れば取るほど)と思っていましたが、周り(環境)が変わると簡単に変われる経験をしました。昨今の長時間労働削減のことでして、職場の残業状況がかなり変化しています。まさに『働き方改革』が世の中の潮流というか、ムーブメントとなっているように感じます。
    AED設置、クールビズ、路上喫煙禁止なんかがそうであったように、近い将来『働き方改革』はいつの間にか当たり前になってるかも知れませんね。