シスコに来て、はや 9 か月が経ち、残すところあと 3 か月となりました。着任当初に比べると、シスコのカルチャーやワークスタイルにも慣れ、いろいろな最先端の IT ツールも使いこなせるようになり、業務効率の向上やムダ時間の削減といった働き方改革の恩恵をひしひしと感じる毎日です。慣れるまでに時間は掛かりましたが、最初の大きな壁を乗り越えると、そのような新しい働き方や IT ツールが徐々に当たり前のものになり、今では仕事をする上でなくてはならない要素になっています。改めて、「働き方は変えられない」とか「自分にはできない」といった否定的なイメージを持たないことと、「とりあえずやってみよう」といった新しい発想や変化を受け入れる姿勢が大事なのだと感じるところです。
さて、今回は、第 5 回ブログでも触れた京都府とシスコの新たな取り組みの一つであるCisco TelePresence(テレビ会議システム)活用実験について簡単に紹介したいと思います。本実験については、今回ブログ(前編)で実験概要および活用状況について触れ、次回ブログ(後編)で本実験から読み取れる効果や気づきを紹介したいと思います。
京都府TP(テレビ会議システム)活用実験スタート!
本実験は、京都府へシスコのテレビ会議システム「Cisco TelePresence」(以下 TP)を計 10台貸し出し、京都府の各拠点に設置してテレビ会議システムを使った働き方がどのようなものなのか、またどのように活用できるのか等を体験してもらい、これから京都府で「働き方改革」を進めていくためのきっかけにしてもらうことを目的にしています。京都府では、すでにパソコン端末等を活用した WEB 会議システムが導入されていますが、利用が一部の業務に限定されており、今回のようなテレビ会議専用端末での多岐の業務にわたる活用を想定した実証実験は初めてになります。
また、このような実験は、どうしても製品を買ってもらうことを見越してやっているように見られがちですが、今回シスコとしては、自治体への導入がうまく進まない点やその他の課題を直接マーケティング調査できる貴重な機会として捉えており、これから目指すべき自治体の働き方や自治体のニーズに合った働き方改革を模索するような、より大きな目的のもと進めています。
(1)TP 活用ワークショップを実施!使う前に利用シーンを検討
実験に先立ち、早速、設置拠点の職員の皆さんに TP を活用してもらい、各設置拠点とシスコ(京都府東京事務所に設置の TP から参加)をつなぎ、リモート会議を体験していただきました。まず、シスコから TP の使い方や一般的な活用事例を紹介し、その後、現状でどのような課題があるのか、そして、どのような業務であれば TP が活用できそうかといったことをディスカッションしていただきました。
TP については、多くの職員の皆さんから「想像以上に画像や音声がクリアでレスポンスも早く、タイムラグがない」、「対面で話すのと同じで違和感がない」との感想をいただきました。参加者の中には、既存の WEB 会議システムを使ったことのある方もおられ、テレビ会議専用端末ならではの品質や使い勝手の良さ等、その違いを感じていただけたようでした。
また、ワークショップの中では、TP を活用すると「大幅に時間コストが削減できる」、「リアルタイムでやりとりできる」といった期待感のある意見や、「会議、研修や府民サービス(窓口業務)にも使える」といった積極的な活用アイデア等がありました。一方で、「TPを置く場所がない」、「LAN配線の問題がある」といった環境面での課題が多く、現状の自治体に TPを 設置することの難しさと環境整備を一体的に進める必要性があることを改めて感じました。
(2)本庁、出先機関(広域振興局、東京事務所等)に TP 設置
今回、京都府で働き方改革を推進している政策企画部企画総務課の協力のもと、既存の府のネットワーク(イントラネット)を活用し、京都府庁(本庁)および出先機関(広域振興局、東京事務所等)に TP を設置し、6月から 12月までの約半年間を実証期間としてスタートしました。
そもそも、京都府は広域自治体であり、北から南まで所管するエリアが非常に広く、本庁以外に地方出先機関である4つ広域振興局(丹後・中丹・南丹・山城)があり、それぞれが市町村振興、防災対策、府税、商工業・農林業振興、保健・福祉・環境対策、土木・建築行政等、府政全般にわたる幅広い行政分野を担っています。また、各広域振興局には、さらに狭いエリアを所管する地域総務室という出先機関があり、より府民の皆さんに近いところで細やかな行政サービスを行っています。他にも、東京事務所やジョブパーク等、様々な出先機関を抱えています。
しかしながら、上記地図を見ても分かるように、京都府は南北に長いという特徴から、本庁から各出先機関までの移動距離が長く、遠いところでは車で片道 2時間以上かかります。かといって、本庁との業務のやりとりをしない訳にはいかず、必要な確認、報告や連絡調整といった本庁と出先機関間のやりとりは、電話やメールで頻繁に行われており、本庁での会議や打ち合わせのために数時間かけて出張することも多々あります。そのような中で、今回、シスコの TP を使って、まずはそのような移動時間の削減や業務効率の向上を図ることを目的に実験を進めることにしました。
実験フェーズ1(6月~9月)
実験は、2 つのフェーズに分けて実施しました。というのも、現状、自治体における TP の設置場所がどこであれば一番適しているのか、また利用頻度が高いかということがはっきり見えていないからです。そのため、今回、10 台という限られた台数の中で、配置換えを行い、トライアンドエラ―で適材適所を見極めることを意識しながら進めました。
実験フェーズ1(※上記、青い枠)では、本庁から遠く離れている広域振興局等(遠距離拠点間)を中心に 9 拠点に設置しました。本庁から各振興局まで、長くて車で片道 2 時間以上かかるところもあるため、本庁―振興局間という視点では、TP に置き換えられる業務はいくつかあり、すぐに活用できる部分もありました。例えば、本庁から伝達するだけの会議や簡単な打ち合わせ等です。これらは当初からイメージしていた利用シーンでもあり、単純な移動時間の削減という観点から意義があることが再確認できました。
他にも、課内の打ち合わせでのディスプレイとしての利用や庁内の研修や勉強会にリモートで参加してもらうといった利用シーンもありました。シスコの TP はパソコンと接続することができるため、画面共有といったディスプレイとしての利用はもちろん可能です。また、TP の上部に設置してあるカメラを下に向けると、手元の資料が相手の TP の画面にきちんと反転して鮮明に表示されるため、紙ベースでの資料共有も可能です。
次に、振興局間という視点では、複数拠点を同時につなげるという TP の利点を活かし、本庁と複数の広域振興局間もしくは 4 つの広域振興局間での TP を活用した会議等を期待していましたが、実験開始時に、庁内で本実験を十分周知できていなかったことやそもそも広域振興局間での連絡調整や情報共有が少ないといった様々な理由から、あまり活用されなかったという結果になりました。
また、本実験は、実施主体の企画総務課が所属する政策企画部のラインでの検証を前提に進めておりましたが、より多くの職員の皆さんに TP を体験してもらうために、他部局である商工労働観光部へも実証エリアを拡大しました。商工労働観光部は、京都ジョブパーク(京都市)と北京都ジョブパーク(福知山市)の 2 つの出先機関を抱えており、今回はその 3 拠点に TP を設置しました。京都府が進めるジョブパーク事業は、ハローワークと連携して、相談から就職、職場への定着まで、ワンストップで支援する総合就業支援事業であり、京都市と福知山市にそれぞれジョブパークがあります。
ジョブパークは、振興局同様に本庁から離れていることに加え、同内容の業務を 2 拠点で行っているため、本庁と各ジョブパーク間のやりとりはもとより、京都ジョブパークと北京都ジョブパーク間の情報共有や連携は非常に頻繁に行われています。また、利用者へのカウンセリングといった窓口業務を基本として行っており、TP の窓口業務(住民サービス)への活用といった可能性も検討する機会になりました。
TP 活用事例(1) 本庁―振興局間 財政課との予算ヒアリング |
TP 活用事例(2) 本庁―振興局間 府民力推進課との事業打ち合わせ |
TP 活用事例(3) 本庁内 政策企画部ミーティングでのディスプレイ |
TP 活用事例(4) 本庁―振興局間 政策企画部勉強会にリモート参加 |
実験フェーズ2(9月~12月)
実験フェーズ2(※上記、黄色い点線枠)では、距離がそこまで離れていない広域振興局と地域総務室間(中距離拠点間)とのやりとりに着目し、TP の配置換えを行い、計 10 拠点に設置しました(商工労働観光部での実験は継続)。特に、綾部地域総務室と福知山地域総務室の 2 つを所管する中丹広域振興局と宮津地域総務室を所管する丹後広域振興局の 2つの実証エリアに限定し、実験を行いました。
広域振興局と地域総務室間は、車で片道 1 時間もかからないところが多く、近いところでは片道 30 分程度で行くことができます。また、中丹広域振興局であれば、中丹地域というエリアを本局と綾部地域総務室と福知山地域総務室の 3 拠点で分担して管轄しており、各拠点との連携や本局との連絡調整は必須です。このように、もともと非常にやりとりが活発な拠点間に TP を設置し、どれくらい活用できるのかを探りました。実験フェーズ1よりも、想定以上に TP が活用できるシーンが多く、被験所属の職員の皆さんを中心に、既存業務への活用から新しい活用方法まで幅広い可能性を検討いただきました。
TP 活用事例(5) 振興局―地域総務室間 丹後広域振興局企画総務部室長会議(定例) |
TP 活用事例(6) 本庁―ジョブパーク間 商工労働観光部課長会議 |
TP 活用事例(7) 本庁―ジョブパーク間 ジョブパーク予算協議に係る部長勉強会 |
TP 活用事例(8) ジョブパーク間 京都ジョブパーク運営戦略会議 |
今回のブログでは、実験概要について簡単に紹介しましたが、本実験を通して、自治体においても、TP がいろいろな場面で活用できるということが分かりました。また、本実験については、実験前後の TP 活用アンケートによる定性調査および TP 利用簿等による定量調査(時間コストの削減、人件費削減等)の両面から効果を測定したいと考えており、検証結果について、次回ブログで紹介したいと思っています。
また、本実験を通じて、いろいろな気づきもありました。単純に既存の業務に TP を当てはめるだけではなく、TP を活用することで、今までになかった拠点間のやりとりが新たに生まれ、業務効率の向上に繋がったり、電話やメールだけのやりとりのみで、一度も顔を合わせたことがなかった職員同士が TP を通して初対面したりと新しいコミュニケーションのあり方も検討することができたと感じています。TP を使うことで何がどう変わったのか、TP を活用して自治体の働き方をどのように変えていけるのかといったことを次回考察できればと思っています。
次回のテーマは「シスコ派遣記8~京都府 TP(テレビ会議システム)活用実験(後編)~」です。
4 コメント
籾井さん、
こちらで始めまして!笑
貴重な情報共有ありがとうございます。
実証実験の様子がよくわかりました!
今までに無かった拠点間の繋がりが広がった
というのは、素晴らしい成果ですね。
検証結果記事も楽しみにしています!
吉田さん
コメントありがとうございます!実証実験の様子が伝わって良かったです。テレビ会議が作業効率の向上やコスト削減の効果だけでなく、新たなコミュニケーションを生み出すきっかけになることが分かったのも大きな成果だと思っています。後編も頑張って書きます!
興味深いレポートでした。
庁内の会議だけではなく、窓口業務(住民サービス)にも活用できることがわかったのは、また一つ私も意識改革ができた実感があります。
「ICTツールで仕事のやり方を変える」と聞くと、ペーパーレス、業務効率化、テレビ会議といったような間接業務、管理業務への適用、効果をまず期待してしまうのですが、本来住民サービスが我々の本務であって、直接適用できるのであれば、より優先して追求すべきですね。
古橋様 コメントありがとうございます。そうですね。私もおっしゃるようにテレビ会議システムは会議等での活用のイメージしかなかったので、窓口業務に使えるのは驚きでした。実際にハローワーク等では離島の住民と繋いで、手続きを簡便化した事例もあるようです。窓口業務の活用であれば、府民の皆さんに対し、その必要性が伝わりやすいですし、即効性がありますよね。同時に、窓口で使うなら尚更、TPを設置しやすい環境を整備する必要があるとも思います(TP専用の個別ブースやヘッドホンの購入等)。そういったことも含めると、やはり行政におけるテレビ会議の活用は可能性があると感じます。