先日、長野県の信州ふるさとテレワーク協議会が主催する「信州ふるさとテレワークセミナー」にて、「京都府職員の気づき~民間企業と自治体の働き方の違い~」というテーマで講演させていただきました。
本セミナーは、県内市町村を対象に、テレワークに係る県の施策、市町村の取組事例、企業の実践例について情報共有および意見交換を行うことにより、県内におけるテレワークの取組を促進することを目的にしています。講演後、参加された自治体職員の皆様から、「共感した」「うちも同じ課題を感じている」といった感想をいただき、どの自治体も同じ悩みを抱えているということと自治体において働き方改革を進めていく必要性を改めて感じたところです。
さて、今回のブログでは、京都府職員を対象に働き方の現状や課題についてアンケートを取りましたので、そのアンケート結果と気づきを簡単に紹介したいと思います。
京都府職員に働き方アンケート実施!
今、京都府とシスコで TP(テレビ会議システム)活用実験を行っていますが、そもそも職員の皆さんが今の働く環境や働き方について、どのように考え、何を課題だと思っているのかを調査するため、実験に先立ち、被験所属の職員に対してアンケートを実施しました。まず、10問の意識調査と個別テーマ(テレビ会議システム・ペーパレス・在宅勤務・職場環境)に分けて記述式のアンケートを取りました。
10の質問から見えたこと
まず、約6割の職員が出張の移動時間を無駄だと感じており、その中でも特に出先機関で働く職員が本庁との移動時間を無駄だと感じていることが分かりました。やはり、遠い出先機関では本庁まで車で片道 2時間かけての移動になるため、その移動に時間のロスや負担感を感じる職員が多いという結果になりました。
併せて、テレビ会議システムの活用は 6割以上、出張先などからのメール確認やフォルダへのアクセス権付与は 8割以上の職員が、利便性が向上すると感じており、出張で生じる業務の中断や時間のロスをなんとかして取り戻したいという意識が現れています。
いわゆるモバイルワークやリモートワークと呼ばれる働き方が求められつつあるということが分かりました。
次に、8割超の職員がペーパレスの必要性を認識しながらも、つい印刷してしまっていると回答しており、庁内でのペーパレスの取組みがまだまだ不十分だということと、紙文化で醸成された業務プロセスが根強く残っているということが明確になりました。
一方で、約 5割の職員が、パソコンを持ち運んで仕事ができると便利だと回答しており、パソコンの持ち運びによるディスプレイでの資料共有や会議のペーパレス化に期待しているということも分かりました。
特筆すべきは、約 7割の職員が働きやすい制度やインフラが整っていればモチベーション向上につながると回答していることであり、多くの職員が現状の働き方に何かしらの課題を抱えていることが分かり、同時にそういった課題を解消するために働き方改革を進めていく必要性があるということを改めて感じる結果となりました。
もう少し詳しく「ペーパレス」と「在宅勤務」について、アンケート結果を紹介したいと思います。「テレビ会議システム」については、次回ブログで触れたいと思います。
なぜ紙は減らない?紙に勝るものはないのか?!
ペーパレスについて、紙が減らない理由を職員の皆さんにヒアリングしました。やはり、圧倒的に紙の方が見やすいとの意見が多く、同時にパソコン画面で資料を読み込むのは困難または不慣れという意見が多々ありました。長年、培われてきた紙を用いた業務プロセスは根強いものがあり、「念のため印刷・とりあえず印刷」という風潮や職員の意識が醸成されており、なかなかそこから脱却するのが難しい状況です。
一方で、「公務員という業務の性質上(予算・議会・法令事務など)、しっかり資料を読み込む必要があり、紙で丁寧にチェックし、ケアレスミスをなくさなければならない」との意見もありました。これは、公文書を発出するという特殊な立場だということが大前提にあるかと思いますが、他にも補助金業務に係る金額の確認、法令チェックなど、絶対に失敗が許されないという行政ならではの理由があるのだと思います。
私の経験を振り返っても、周りの職員の皆さんは資料にマーカーや赤ペンで書き込み、何度も何度も複数体制でチェックを繰り返すほど丁寧に作業されており、それがパソコン画面でできるかといわれれば正直疑問ではあります。最悪の場合、業務効率や質の低下に繋がる可能性もあります。また、「手書き・紙ベースからデータに移行してきた過渡期世代は困難」との意見もあり、業務プロセスを変えることのハードルの高さを感じます。
このアンケートからの気づきとしては、「ペーパレスにできる部分の切り分け」と、「職員のペーパレス意識の欠如」の 2つだと思います。何から何までペーパレスが OK というわけではなく、公務員の特殊な業務に照らし合わせ、できることできないことの業務の切り分けが必要だと思います。電子決裁もそうですが、その後、そのプロセスを徹底することが重要だと思います。「努力しましょう」ではなく「やりなさい」でないとペーパレス化は程遠いと思います。
併せて、「念のため印刷・とりあえず印刷」といった意識的に改善できそうな部分でさえも、行動に移せている職員が少なく、このような部分は自分自身も含め、早急に取り組む必要があるかと思います。コピー機に IC カードを導入し、個人の印刷枚数を把握し、削減コストの意識を醸成するなど、なんらかの制限を設けるのも一つかもしれません。
もう一つ気づきを挙げるとすれば、「慣れること」だと思います。アンケートの多くに「画面が見づらい、分かりづらい、確認しづらい」との意見がありましたが、少なからず「慣れ」で解消される部分ではないかと思います。最初は苦労するかと思いますが、そういった訓練を意識的に繰り返すことで、新たな働き方の可能性を広げていくように思います。
公務員に在宅勤務は向いていない!?
次に、在宅勤務について職員の皆さんがどう考えているのかヒアリングしました。こちらも非常に興味深い結果となりました。まず、賛成意見については、やはり育児や介護といった背景を抱える職員にとっては、「是非やってみたい」との意見が多く、魅力的な働き方だということが分かりました。当たり前ですが、民間企業や自治体問わず、育児や介護は働く上での共通課題であり、ワークライフバランスを追求するのは、至極当然のことだと思います。
とは言いつつも、在宅勤務に疑問を抱く職員は多く、現状のままでは不安材料があり、導入は難しいと捉えており、クリアすべき課題が多いということが分かりました。反対意見として、多くの職員の皆さんが回答していたのは、「公務員の仕事柄に合わない」ということです。業務によりけりですが、「公務員とは住民の顔を見ながらするものであり、在宅で勤務するなどもってのほか」という考え方が少なからずあるということです。これは、私も同感する部分もあり、府民の皆さんから税金をもらって働いている以上、府民サービスにどう繋げていくかの視点が一番大事であり、これが民間企業との大きな違いだと思います。さらに言うと、府民の皆さんに在宅勤務の必要性を説明できるのかということに尽きるかと思います。もちろん在宅勤務している際のご近所さんなどからの周囲の目もあるかと思います。果たして、在宅勤務で府民のニーズを的確に把握し、府民の皆さんに還元できるのでしょうか。
また、「在宅勤務は自己管理が難しい、そこまで器用でない」という意見も多くありました。この意見は非常に重要な意見だと思っており、民間企業のように営業成績のような目に見える結果を求められる仕事柄でない公務員にとって、在宅勤務で自分をコントロールすることは非常に難しい問題だと思います。
では、どうすれば公務員でも在宅勤務ができるのでしょうか。在宅勤務の促進策について、職員の皆さんにアイデアを聞きました。
やはり、「まずは労務管理・服務管理・人事評価などの制度面を整備することが重要だ」との意見が多くありました。民間企業であれば最終的な数字の部分で人事評価ができますが、公務員ではそういうわけにもいかず、在宅勤務の成果をどうやって図るのかが非常に難しいと思います。また、在宅勤務している職員にとって「自分が仕事を怠慢していると思われるのでないか」「自分の頑張りがきちんと評価されるのか」などの不安要素が払拭できるような制度であるとともに、離れていても上司との信頼関係が構築できる仕組みでないと、職員にとっては負担の大きいものになってしまう懸念があります。
また、「どの業務であれば在宅勤務できるのかを示す必要がある」との意見も多くありました。全ての業務が在宅でできるとは思えないので、あらかじめ業務の切り分けが必要だと思います。同時に他の職員との業務のバランスに不公平感がなく、周囲が納得できる仕組みにしないといけません。
今回、在宅勤務の賛否のアンケートを取りましたが、制度・風土・インフラなどのすべてにおいて不安要素が多く、公務員における在宅勤務のハードルの高さを改めて感じました。一方で「やってみないとわからない、まずは試してみることが大事」との前向きな意見もあり、課題は多かれ、これからの公務員のあるべき働き方を考えたとき、必要な選択肢の一つだと思いました。今、世間でテレワークや在宅勤務という言葉が当たり前になりつつ中で、見本となるべき自治体にとって、公務員の組織・風土にあった在宅勤務の可能性を真剣に議論する段階に来ており、「公務員にふさわしい在宅勤務」の形を見出すことも非常に重要なテーマになってきているのだと思います。
今回のブログでは、アンケート結果を中心に紹介しましたが、職員の皆さんが自分たちの働き方についてどのように考えているのかを知る貴重な機会になったとともに、今までの自分の働き方や仕事のやり方を振り返る機会にもなりました。
やはり、「自治体における働き方改革」といった大きなテーマを語る前に、「念のため印刷・とりあえず印刷」をやめるとか、机の上を整理するとか、そういった職員一人ひとりのほんのわずかな意識改革を行うことも、立派な働き方改革なのだと思いました。
次回のテーマは、「シスコ派遣記8~京都府TP(テレビ会議システム)活用実験(前編)~」です。
8 コメント
籾井君のレポートでこのブログを知り、大変興味深く拝見させてもらいました。
私も京都府庁からの民間企業派遣者として、派遣先企業で、働き方改革の有効性を実感しています。
私の派遣先でも、紙ではなく何でも画面で確認する文化が定着していて、京都府との違いに驚きました。
業務が多岐に渡る行政で電子化を進めることは、一筋縄ではいかないかもしれませんが頑張ってください!
私も籾井君と同じ民間企業派遣者、また元情報政策部署にいた職員として、お手伝いできる所があればさせてもらいます。
柳川様 ご無沙汰しております。コメントありがとうございます。柳川さんのレポートも拝見させていただき、共感するところが多く勉強させていただいてます。公務員でありながら、民間企業で働けるというのは本当に貴重な経験だと感じる日々です。おっしゃるように行政に係る業務の電子化は非常にハードルが高いと感じます。すべて電子化することが良いことばかりとも限らないので、できることできないことの切り分けが大事なのだと思います。もともと私はITに強くないので、いろいろ教えてください!ありがとうございます。
先日はお疲れ様でした。
このまとめ凄く良いですね。
私、やっぱりパソコン画面だけでの校正が苦手で、予算とか数字一桁間違えたりって、あります。
理事者にタブレットで資料を渡したら、「メモさせないようにして、質問させないって事かな」なんて言われたこともありました。
一点、外部からのアクセスで、町内のシステムなどが利用できるのは、非常に便利です。塩尻市では、グループウェアは外部からのアクセスをできるように、スマホ用のインターフェースを作ったりしています。
在宅ワークができると、長期休暇の職員の訓練にもなり、復帰が早くなったりとは思っています。
パソコン持ち運ぶのは、庁内の環境整備も必要なので、なかなかすぐにはできないかもしれませんね。
塩尻市小澤様 先日のテレワーク協議会では大変お世話になりました。コメントいただき大変嬉しく思っております。おっしゃるようにパソコン画面での校正や数字のチェックは難しいですよね。一桁間違えは私も何度か経験あります。。理事者からそういった指摘もあったんですね。やはりタブレットを使うような業務プロセスがまだまだ浸透していないのかもしれません。新しいツールに抵抗がある人はどこの環境でもありますよね。そういった方々の意識を変える工夫を考えたいところです。塩尻市はそこまで進んでいるのですね!またいろいろと職員の方の声や効果を教えていただけたら有り難いです。また意見交換をさせてください!
私も「紙で読む」世代で、同じものを読んでも画面や電子媒体で読むとなかなか頭に入ってこないですし、紙と比べて理解するのに別の労力がいると感じるのが正直なところです。
電子書籍にもチャレンジしていますが、便利さは実感するものの、タブレットだけではちょっとさみしい感じがしますね。新刊を手に入れたときのワクワク感に欠けるというか。
あと10年も経てば、「画面で読む」世代(というより画面で読んで育った世代でしょうか)が多数となっていくのでしょうが、それまでの過渡期、我々の世代が一番苦労しそうです。
余談ですが、アンケート回答された方々の本気度というか、賛成意見にしろ反対意見にしろ、かなり突っ込んで回答されているように見受けます。公務の世界は紙文化が根強いとの考察でしたが、皆さんの意識、関心は意外と高く、何かのきっかけであっという間に変わるかも知れませんね。
古橋様 コメントありがとうございます。私もどちらかと言えば「紙で読む」世代ですので、画面で読むのはそこまで得意ではありません。中間世代でしょうか。新刊のお話、とても共感しています。何か物足りなさがありますよね。買った感がないというか…。今の子どもたちの世代は生まれたときからスマホもタブレットもテレビ会議もあって、その世代が大人になるともはや当たり前といった感覚になるのでしょうか。私も最近、会議でメモを取るのがすべてパソコンのメモ帳になりました。(持ち運べるのが前提ですが)データに落とし込むと、そのまま修正がかけられるので、非常に便利ですね。切り貼りもできますし。
アンケートの件も、おっしゃるようにきっかけがあれば大きく変わるのだと思います。非常に貴重なアンケートになったと感じています。
社会の変化が目まぐるしく進み、ものの見方やとらえ方も変化しています。
そのような中にあって、「働き方」も時代や場所、置かれている環境によって変化し続けているということに気づかせてもらいました。
「ワークライフバランスと」いう言葉は最近耳にするようになった印象がありますが、仕事の私生活とのバランスが取れているかというと、いかがなものかと。
何を大切にするのか、自問自答が始まりそうです。
浅野様
コメントありがとうございます。すごいスピードで変化していくので、ついていくのが大変ですよね。私も知らないことが多く、日々刺激的です。よく聞く「ワークライフバランス」ですが、実はシスコでは「ワークライフインテグレーション」と呼んでいます。(最近知りましたが…)ワークとライフのバランスを重視するのではなく、ワークとライフを柔軟、かつ高い次元で統合し、双方の充実を求めていこうという考え方のようです。なるほどと感じる反面、非常にハードルが高いなと思う部分もあります。いずれにしても、これからはいろいろな変化に対応していくことが求められるので、柔軟な考え方を持てるよう心掛けたいと個人的には思います。