Cisco Connect Japan 2014 開催レポートサイトが公開され、以前ブログでもご紹介したシスコ ビデオテクノロジー最前線の資料も閲覧できるようになりました。これから数回に分けてそのエッセンスを解説していきます。1 回目は「ビデオテクノロジーの歴史」です。
シスコのコラボレーション製品のうち、音声系については Cisco Unified Communications Manager と Cisco IP Phone の組み合わせで構成され、 2000年以来、基本的には変化していません。それに対してビデオ会議製品は、市場のニーズや技術の成熟に合わせて変化を繰り返しています。
IP アドレス ダイヤリング / ISDN ビデオ会議
初期のビデオ会議というと、エンドポイント間で電話番号を利用する構成、あるいは IP アドレスを指定して発信する構成になっていました。今でもこの方式のビデオ会議を導入している企業もあります。
この 2 つの方式は、インフラが電話回線か IP なのかという違いはあるものの、通信相手の端末の見つけ方という点では本質的に同じです。電話番号または IP アドレスという「住所」を端末は「役所」(電話会社またはネットワーク担当者)からもらいます。
役所という「住所」を管理する組織がありますから、端末を移動する際には、新しい住所をもらうか、住所の番地の振り方を変えてもらうといった役所との交渉手続きが必要になります。また住所が変わった場合には、それぞれの通信相手に新住所を知らせ、「住所が変わったので住所録の更新をよろしく」と引っ越しの挨拶をしなければなりません。端末が仲間うちに限られていれば何とかなるでしょうが、端末が増えてくると住所の追加が間に合わなくなります。IP アドレスの直接入力で運営していくうちにビデオ会議自身を利用しなくなってしまった、という経験を持つ企業も少なくないはずです。
H.323 Gatekeeper
次に登場してきたのは、「住所録」を個々人が管理するのではなく、専任者が一元管理する方法「H.323 Gatekeeper」 と、複数の端末が同時に集まって会合ができる「MCU(Multi point control Unit)」です。 当時のシスコ製品名で言うと、 Cisco IOS H.323 Gatekeeper と Cisco IP/VC になります。
各端末に新しい住所(IP アドレス)が割り当てられると、住所と名前(H.323 ID または 番号)を H.323 Gatekeeper に “登録” します。 H.323 Gatekeeper は端末の住所と名前の対応をデータベース化した住所録を持っており、名前の問い合わせに対して住所を返します。これにより各端末は、住所に依存せず名前で発着信できます。
さらに H.323 Gatekeeper は「道」の情報も持つようになり、すでに他の端末が接続してて混んでいる、と分かっているときは、荷物の量を減らす(画質を落とす)などのお願いができるようになりました。 H.323 Gatekeeper には他にも多くの機能があります。より詳しい情報は H.323 ゲートキーパーについて を参照してください。
旧 TANDBERG 製品群
これらの H.323 Gatekeeper アーキテクチャを徹底的に進化させたのが、ノルウェイのビデオ会議システム ベンダーである旧 TANDBERG 社です。2010 年、シスコが TANDBERG 社を買収すると、シスコのコラボレーション ポートフォリオに Cisco TelePresence Video Communication Server(Cisco VCS)インフラを中心としたビデオ会議製品群が加わりました。
Cisco VCS Control は H.323 Gatekeeper を進化させ、 SIP(Session Initiation Protocol)呼制御プロトコルもサポートしています。また電話番号だけではなく、 電子メールアドレス形式(ユーザ名@ドメイン)で発着信ができる SIP URI も利用できるようになり、その後 DNS ベースでインターネット経由での通信も可能な Cisco VCS Expressway も加わりました。
シスコ ビデオ テレフォニー
シスコでは、 Cisco Unified Communications Manager を中心とした企業電話のインフラストラクチャにビデオ機能を追加しました。それが、Cisco CallManager 4.0 での機能拡張です。これを当時は 「シスコ ビデオテレフォニー」と呼んでいました。 会社の電話を使うのと同じ感覚でビデオ機能を利用できることが特長で、既存の H.323 Gatekeeper との相互接続性も備えています。
シスコはこの構成をさらに発展させ、最初の TANDBERG 製品とのインテグレーションを開始します。
シスコ + TANDBERG インテグレーション
シスコは 呼制御プロトコル SIP を利用して 2つの呼制御サーバ間でのシームレスな通信を実現しました。
このフェーズでシスコは TANDBERG 製品のもつ SIP URI ダイヤリングや資料共有プロトコルといった優れた技術を学び、 Cisco Unified Communications Manager に実装します。しかし一方で、番号体系や「2つの呼制御サーバ」が存在するため、管理が複雑になってしまいました。
シスコの TelePresence の現在
現在、シスコが推奨するビデオのインフラは Cisco Unified Communications Manager を中心とした構成です。 ビデオのみならず電話・ IM・モバイルをも一元管理できる構成を取り、端末の登録・管理を電話機と同じように自動化し、一元管理をもできます。
端末・呼制御の管理が簡単になり、Cisco Unified Communications Manager が持つさまざまな機能をビデオ端末にも提供できるようになります。 Cisco VCS でしか利用できなかった機能のほとんどが Cisco Unified Communications Manager に移植され、呼制御サーバをマイグレーションできるようになっています。
インターネットを介した接続や Microsoft Lync などの他社製品との相互接続性を維持するため、Cisco Expressway は Cisco VCS の後継として存続しています。これにより、ビデオのみならず、電話や IM もインターネットを経由して、外出先でも発着信できます。Cisco Jabber による Mobile and Remote Access(MRA)機能はその一例です。
Cisco Unified Communications Manager を中心とした構成は 企業内のコラボレーションを一元化できるという利点があり、 「プリファード アーキテクチャ」(シスコがテストし推奨とした構成)となっています。 弊社石黒が Cisco Connect 2014 で講演した「少しの工夫で働き方は変わる!新しい会議室の作り方(10のポイント)」でも述べているように、離れた会議室にいてもスムーズな会議を進められるようにするためには、ビデオ会議・Web 会議を導入する以前に「電話会議」のカルチャーを根付かせることが大切です。そのためにも、電話のインフラとビデオ会議のインフラは共通化されていたほうがよいでしょう。
なお、既存のビデオ会議との親和性・継続性という観点では、Cisco VCS ももちろん選択肢の 1つとなります。ビデオ会議の要件に応じて、Cisco VCS をベースとした導入、Cisco Unified Communications Manager をベースとした導入、そしてその 2つの組み合わせのすべてに、シスコは対応しています。
まとめ
ビデオ アーキテクチャの変遷を書きましたが、現在の推奨構成は下記の通りです。
- すべてのシスコ端末を Cisco Unified Communications Manager クラスタに登録
- Cisco Expressway を Cisco Unified Communications Manager と連携させることで、外部接続機能を提供
今回は 12 ページまで解説しました。
次回は Cisco Unified Communications Manager をベースにしたシスコ端末の管理について書きます。
参考 URL
- シスコ ユニファイド コミュニケーション
- 中堅・中小企業のコラボレーション向けシスコ プリファード アーキテクチャ
- Cisco Connect Japan 2014 開催レポート
- Cisco Expressway シリーズ