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ネットワーク アーキテクチャ考 (11) 「『仮想化』- 逆説(パラドックス)に本質が宿る」


2014年9月7日


最近の私は「仮想化」には嵌まっています。以前「SDN と仮想化」というエントリーで、「ネットワーク アーキテクチャが変遷する際には必ず仮想化を伴っている」という観測を書きました。あれから 9ヶ月が経過していますが、日々その裏付け事例が増えていると感じています。その時も書いたように、共起関係からは因果関係を帰結できないので、アーキテクチャ変遷が仮想化を要請するのか、仮想化がアーキテクチャ変遷を喚起するのかは分かりませんが、「ネットワーク サービスの仮想化」という側面から見ると、後者の様相が強いかもしれないです。

例えば、相変わらず定義が定まらない“SDN”ですが、「(VMなど)仮想インスタンス間を接続するネットワーキング手法」と考えると、非常にすっきりします。ad hoc に生成され移動する仮想インスタンスのために、いちいちコマンドラインで「機器の設定」なんてやってられないのは明らかです。勿論、ネットワークを使うのは仮想インスタンスだけではないけれども、少なくとも SDN ブームの出発点として仮想化を位置づけると、SDN の意義がクリアになります。

「仮想」というパラドックス(逆説)

仮想化の意義については前回も書いたのですが、そもそも、なぜ仮想化がそんなにも自分をわくわくさせるのか、について考えてみました。そして思い当たったのが、「仮想とは大いなる逆説である」ということです。通常、仮想化は「非-現実」とか「非-物理的なもの」とかと捉えられますが、virtual の語源を繙くとラテン語の virtualis。何と「美徳」の virtue と同じ語源で、exellence(卓越)、 potency(力)、efficacy(有効性)を表すとのこと[1]。「現実」ではないものが、実は「力」や「有効性」を持っている、というのですから、何と言う逆説!

確かに、He/She is a virtual member of the team. というとき、正式には(例えば人事的には)そのチームには属していないけれども結構実力は買われている、とかいう場合がありますよね。まぁ、実力が無ければ、正式に組織に属していないのにわざわざメンバーとして招聘されることもないのでしょう。また、VPN は、Virtual Private Network(仮想専用網)ですが、共通インフラストラクチャ上、場合によってはグローバル インターネット上に構築された「専用網」なんて、何と言う逆説!そして何てクール。

という訳で、仮想化とは、「ハードウェアのコモディティ化」とか「何でもソフトウェアで実装する」とか、そういうことではないのです。「今迄見えていなかったけれども本質的で有効な何か」を炙り出せる機会かもしれない。それでわくわくするのだと思います。

逆説に本質が宿る

私は昔から逆説 – パラドックスの類いが大好きでした。ちょっとふざけているようなところもあるので、座右の銘として挙げるのは気が引けますが(本気で座右の銘を訊かれたら、ウィトゲンシュタインと答えます :-))、パウンドストーンの「パラドックス大全」[2]、ホフスタッターの「ゲーデル・エッシャー・バッハ(GEB)」[3]や「メタマジック・ゲーム」[4]、サヴァントの「気がつかなかった数字の罠」[5]、などなど。

直感や、当たり前と思っていた認識が裏切られるときに、何か本質的なものを垣間みることができるような気がします。現実世界として理解しているつもりの知識や常識は、もしかすると非常に偏ったものだったり、あくまでも所属しているコミュニティや文化の中でで培った世界観でしかない訳です。自らそのことに気づくことは困難ですが、逆説に遭遇したり逆説を論じたりすることによって、はっと気づくことができます。一番疑うべきは、「ごく当たり前と思えること」なのかもしれません。

「逆説に本質が宿る。」仮想化アーキテクチャを追究することによって、これまで見過ごして来たかもしれない本質に迫ってみたいと思います。

NFVアーキテクチャと課題

さて、今回は私的・趣味的なことを書いてしまい、技術的なことを書かなかったので、この後数回で埋め合わせをしたいと思います。まずは、通信事業者におけるNFVアーキテクチャの、運用面、そして性能面の課題を書きます。

[1] “virtual.” Online Etymology Dictionary. Douglas Harper, Historian. 01 Sep. 2014. <Dictionary.com http://dictionary.reference.com/browse/virtual>.

[2] ウィリアム・パウンドストーン、「パラドックス大全」、青土社 (2004/9/30)

[3] ダグラス・R・ホフスタッター、「ゲーデル・エッシャー・バッハ」、白揚社; 20周年記念版 (2005/10)

[4] ダグラス・R・ホフスタッター、「メタマジック・ゲーム―科学と芸術のジグソーパズル」、白揚社; 新装版 (2005/10)

[5] マリリン ヴォス・サヴァント、「論理思考力トレーニング法―気がつかなかった数字の罠」、中央経済社 (2002/09)

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