前回お知らせした通り、昨年末にコンタクトセンター製品の最新版がリリースされました。今回は 3つの製品ラインナップのうち大規模向けの 2つ「Cisco Packaged Contact Center Enterprise」と「Cisco Unified Contact Center Enterprise」の概要を紹介します。
Cisco Packaged Contact Center Enterprise
Cisco Packaged Contact Center Enterprise (Packaged CCE)は、本ブログの第一回でお話しした2つの自動化機能を備える製品です。すなわち、積滞呼対応と運用の自動化です。
インバウンド コール ルーティング、IVR(Interactive Voice Response)、CTI(Computer Telephony Integration)、アウトバウンド、リアルタイム レポートとヒストリカル レポートに加えて上記 2 つの自動化機能を標準装備し、オプションで Email と Web チャットに対応します。IVR は、Voice XML による制御が可能なフル機能の IVR です。CTI は、Cisco Unified Contact Center Express(Unified CCX)に搭載されているものと同様に、Web ベースでそのまま利用することも、フルカスタマイズも可能なものです。レポートも Unified CCX と同じように Web ベースの GUI ですが、GUI 上で SQL 文レベルでのレポート カスタマイズが簡単に行える機能が追加されています。
Packaged CCE は、これら機能を 1 台(冗長構成で 2 台)のサーバに搭載して、最大 1,000 席まで対応します。本格的な大規模コンタクト センターにも導入できるだけの機能性と拡張性を備えながらコンパクトにまとまっていて使い易い GUI を備えていることが最大の特長です。
■目玉機能(1):Precision Routing
Packaged CCE の目玉機能のひとつは積滞呼対応の自動化を実現する、Precision Routing です。呼が特定のキューにルーティングされると、キューの中で複数ステップの溢れ処理が実施されます。
最初のステップでは、当該業務を主担当とするエージェント群を対象に待ち合わせを行い、最適なエージェントによる高い一次解決率と短い処理時間を狙います。一定時間待ち合わせても応答可能なエージェントが現れないようであれば、条件を緩和して他業務が主担当で当該業務が応援担当になっているエージェント群を対象に加えます。さらに待って応答できなければ、緊急応援のエージェントも対象にします。
このようにして段階的な溢れ処理を行うことで、対応するエージェントの質をなるべく落とさずに、同時に応答待ち時間の短縮・稼働率の平準化を両立します。この機能はお客様の意見を取り入れながらアジャイル開発手法によって完成させたもので、効果が実証されている機能です。
Precision Routing は戦略的な溢れ処理を提供するだけではありません。Precision Routing には Precision Routing 向けに設計されたレポートが付属します。全体を 1 つのキューとして平均応答時間やサービス レベルをレポートするのはもちろん、各ステップでの応答数や放棄数がレポートされるため、各ステップへの人の配置やステップ間の待ち時間を簡単に見直すことができます。ステップ 1 で 8 割の呼に応答する目標なのに半分以上の呼が後続のステップに流れていたならば、ステップ 1 の人員配置が不足していると分かります。ステップ 3 まで人を配置しているにもかかわらずステップ 2 で多くの呼が放棄されて、ステップ 3 での応答がほとんどなければ、ステップ間の待ち時間をもっと短くした方が良いと分かります。
Precision Routing では、これらの状況をきちんと可視化してくれるので、使いこなすのが容易なのです。
■目玉機能(2):設定 REST API
もう 1 つの目玉は、運用の自動化を実現する設定 API です。日常的な運用で変更されることの多いほとんどの設定項目が API 化されており、外部システムからの設定変更が可能になるのです。エージェントの追加削除変更、スキルの追加削除変更、Precision Routing におけるキュー(Precision Queue)や属性の追加削除変更、エージェントとスキルや属性の割り当て変更、着信番号の追加削除、その他運用中に変更される可能性の高い設定項目が対 象となっています。
API は REST(Representational State Transfer)と呼ばれる Web ベースの API のため、粗結合で対向側の実装技術(OS や言語)を選ばず、デバッグが容易です。
第一回でお話したように、積滞呼対応の自動化や設定運用の自動化は海外では積極的に取り組まれてきていますが、日本ではまだまだ先進的なコンタクト センターでの導入に留まります。個人的にはその原因は、従来技術でこのような処理を実現しても、その扱いが難しかったことにあるのではないかと感じています。Precision Routing は使い易さも長所です。REST API は API の中ではシンプルで取り扱い容易な部類です。それらをコンパクトな all-in-one パッケージに標準で同梱したのが Packaged CCE です。Packaged CCE は 2012 年夏の Release 9.0 のタイミングで登場したばかりですが、順調に販売数を伸ばしており、ぜひたくさんのお客様に使っていただきたい製品です。
Cisco Unified Contact Center Enterprise
Cisco Unified Contact Center Enterprise(Unified CCE) は、Packaged CCE と同様の機能に加え、12,000 席までの拡張性と柔軟な構成オプションを備えています。Unified CCE でしか実現できないものには、グローバル コンタクト センターがあります。これは、世界中に物理的に分散したコンタクト センターを論理的に 1 つに統合することで、全世界を 24 時間カバーするというものです。
Unified CCX と Packaged CCE では、IP Phone と局線につながるゲートウェイを除く全ての機能を中央 1 カ所ないし 2 カ所のサーバに集中させます。そのため、世界中のコンタクト センターを 1つのシステムで賄おうとすると、ネットワーク帯域や遅延が課題となってしまいます。Unified CCE では、PBX サーバと CTI サーバを分散配置できるので、コール ルーティングを担うコア部分のみを集中化することができます。これにより、現場の操作性を犠牲にしたりネットワーク帯域を過大に消費したりすることなく、グローバルなコンタクト センターを実現できるのです。
こうして世界中を 1つのシステムでカバーすれば、世界のどこからどんなタイミングでかかってきた電話であっても、常に太陽の昇っている昼間の拠点につなぐことができます。ある場所が深夜であったとしても、別の場所で対応可能ですから、時間帯によって体制が薄くなる心配がありません。これを follow-the-sun routing と呼んでいます。
Unified CCE を活用したグローバル コンタクト センターには、すでに多くの実績があります。もちろん、シスコ自身も数年前から実現しています。典型的なパターンは、アジア、欧州、アメリカのデータセンターに PBX と CTI サーバを配置し、コール ルーティングを担う ACD (Automatic Call Distributor/着信呼自動分配装置)サーバのみを、上記のどこか 1 カ所に置く、というものです。巨大規模を実現できる拡張性と柔軟な構成の選択肢を持つ Unified CCE ならではの活用法と言えます。
これまでシスコのコンタクト センター製品のラインナップをざっとご紹介しました。
次回は Unified CCX について掘り下げていきたいと思います。