シスコは 今年 2 月、新たなネットワークに関する年次調査報告書「Cisco Annual Internet Report 2018~2023」(以下、AIR )を発表しました。その日本語版公開を踏まえ、AIR の内容について、前/後編(後編は 2 回)の合計 3 回にわたり、その内容をお伝えします。後編では、マルチドメイン アーキテクチャに対応した4つの戦略的領域である、「アプリケーションの見直し/進化」、「インフラストラクチャの変革」、「セキュリティ」、「チームの可能性拡大(エンパワーメント)」についてご説明しますが、本ブログでは、そのうちの2つ「アプリケーションの見直し/進化」と「インフラストラクチャの変革」についてご紹介します。
前編はこちら
様々な組織および企業がデジタル トランスフォーメーションを進める上で重要なキーワードは、「マルチドメイン」であるとシスコは考えています。AIR にて報告されている今後の変化により、これまで構築や運用が個別最適化されていた各ドメインは一つに統合し、シームレスに連携していくことが求められます。これにより企業はシステムの複雑性や非効率性を克服し、イノベーションを促進するスピードを手に入れ、セキュアなシステムを作る可能性を高めることができるはずです。
シスコはマルチドメイン アーキテクチャ実現へ向け、「アプリケーションの進化」、「インフラストラクチャの変革」、「セキュリティ」、そして「チームの可能性拡大(エンパワーメント)」を戦略的領域として位置付けています。本ブログではそれぞれを説明すると共にマルチドメインについて深掘りしてみたいと思います。
アプリケーションの進化
最近5G、IoT/M2M、AI/MLといったキーワードを新聞や雑誌などでみかけない日はないのではないでしょうか。これら技術が、企業サービスそのもの、またその提供方法を大きく変える可能性があるという点については、もはや議論の余地はないかと思います。ここであえて指摘したいのは、これら技術の普及によってアプリケーションのあり方も大きく変わるということです。
AIR によると、全世界におけるM2M の接続数は、2023 年までに61 億から147 億へと2.4 倍増加し、全世界でネットワークへ接続されるデバイスの約半数を、M2M が占めることになります。M2M の半数はホームセキュリティ、ビデオ監視、家電のインターネット、そしてスマートメーターなどの家庭向けサービスが占め、いわゆるIoT もこれに含まれます。それに加え5G の普及により、自動運転や物流向けなどの移動系システムも急速に発展することが見込まれています。
M2M やIoT の増加はアプリケーションのあり方をどのように変えるのでしょうか。IoTサービスを提供する上で分散処理が最適であれば、アプリケーションはネットワークのエッジへ配置されます。例えば、5G に期待されている「低遅延」を実現するには、エッジコンピューティングでのデータ処理が最適であり、アプリケーションもデバイスに近い場所へ分散展開されてくるでしょう。一方、エッジにて収集されたデータを分析および可視化する場合には、中央管理の利点を活かす目的として、アプリケーションは集中的にパブリッククラウドおよびプライベート データセンターやオンプレミスへ配置されます。BCP (Business Continuity Planning ) などの観点から、複数のパブリッククラウドを併用する場合も多く見られるでしょう。
これからIoT/M2Mはさらに普及し、5Gが提供する通信機能を最大限に活かしたサービスが開発されることが期待されています。そんな中、ネットワークエッジ、自社データセンター、そして複数のパブリッククラウドへ分散していくアプリケーションの提供環境において、一貫したパフォーマンスの担保、動作の可視化、統合管理は大きな課題であると言えます。
シスコはこのようなトレンドを踏まえ、組織および企業の重要なマルチクラウド戦略を成功へ導くソリューションを展開しています。マルチクラウド環境を考慮したリソース配置、管理、可視化、分析へ向け、AppDynamics によるアプリケーションのリアルタイムかつ極めて粒度の高い可視化を提供し、Cisco Cloud Center Suite においては、マルチクラウド環境管理の簡素化を実現可能です。加えて、リソースの最適配置として提供されていたオンプレミス型のCisco Workload Optimization Manager は、インフラストラクチャのクラウド管理を実現するCisco Intersight へ統合され、Cisco Intersight Workload Optimizer として今後さらに発展していきます。
このようなマルチドメイン アーキテクチャを意識したソリューションにより最適化されたネットワークは、最大限のアプリケーション活用を可能とし、あらゆる組織および企業のさらなる成長へ貢献できると考えています。
インフラストラクチャ変革へのシスコの貢献
インフラストラクチャは従来、WAN、キャンパス、ブランチ、データセンター、そしてクラウド、といった個別のドメイン内のみで最適化が図られてきました。しかし今後は個別のドメインから脱却し、マルチドメイン アーキテクチャを考慮する必要があります。
AIR によると、現在のネットワークはその変更と更新の約90% がいまだに手動で実行されていると報告されています。現状の技術革新を踏まえると、このままの現状でネットワークを進化させることは現実的でしょうか?答えはもちろん否でしょう。5G の普及、モバイルワーカーと在宅勤務者の増加、そして働き方の多様化により、企業インフラへの接続方法の多様化とトラフィック量と接続数の大きな増加へ加え、その管理もダイナミックなものになることが見込まれます。
前述の通り、アプリケーションの配置箇所は様々で複雑にも関わらず、そのトラフィックを運ぶWAN は、一貫した高品質の接続をユーザの場所を問わず提供する必要があります。従来、この実現は非常に困難であり課題とされてきました。なぜならWAN においては、遅延、レイテンシ、そしてジッターといった、アプリケーションの個々の特性まで把握した柔軟な転送の実現へ至らなかったためです。
人の手を介さずに自律的にネットワークを監視すると同時に、刻一刻と変化するアプリケーションの特性やビジネスの要求へ合わせて、ネットワークの能力やキャパシティを柔軟に変化させるにはどうすれば良いかという点への回答として、シスコが提唱してきた概念がIntent based networking (IBN) です。
IBN は、ビジネスの目的へ沿った「意図」をネットワークポリシーへ変換し、ネットワークへ適用すると同時に、適用されたネットワークの状況を継続的に分析および学習して、ネットワーク全体を自動化することを可能とします。個々の装置への個別な設定および管理から脱却することを可能とするIBN の実現には、フォワーティングプレーンからコントロールプレーンの抽象化を可能とする、ソフトウェア定義型ネットワーク (SDN)の手法が欠かせません。
シスコでは、IBN をあらゆるドメインで根幹となる設計思想として位置付けています。例えば現在市場で非常に高い関心を呼んでいるSD-WANはもちろん、キャンパス向けのSD-Access、そしてデータセンターおよびクラウド向けのCisco Application Centric Infrastructure(ACI)などもすべてこのIBNに基づいて製品を開発・展開しています。
そして、これらIBN ソリューションの統合が、マルチドメイン アーキテクチャの重要性を際立たせます。抽象化され、自動化によって管理された各ドメインが連携することにより、前述のWANの課題などが解決できます。例えばCisco ACI より自動的に伝えられたアプリケーションの要件(SLA)に基づき、SD-WAN が最適なパスを自動的に選択することが可能です。アプリケーショントラフィックの適切な優先順位付けにより、アプリケーションやユーザの場所に関係なく最適な接続を提供することを可能となるのです。
マルチドメイン アーキテクチャの観点では、多くの企業セグメントへ大きな影響を与える5G の観点は必要不可欠です。最適な5G アーキテクチャをどのように構成するべきかという視点につきましては、本Japan Blog の5G のテーマにおいて詳細が紹介されておりますのでご参照ください。
今回は後編第1 回目として、マルチドメイン アーキテクチャ実現へ向けた戦略的領域である、「アプリケーションの進化」、「インフラストラクチャの変革」についてマルチクラウドおよびIBN ソリューション統合の重要性をお伝えしました。次回の後編第2 回目は「セキュリティ」、「チームの可能性拡大(エンパワーメント)」の領域におけるシスコの取り組みならびに考察についてご紹介します。
「Cisco Annual Internet Report」についての詳細は、こちらを参照ください
- 地域別および国別のデータと予測:Cisco Annual Internet Report ハイライトツール [英語]
- 地域別および国別:インターネット対応状況評価ツール [英語]
- 世界および地域別インフォグラフィック