シスコは 今年2月 、新たなネットワークに関する年次調査報告書「Cisco Annual Internet Report (2018~2023年)」(以下、AIR )を発表しました。その日本語版公開を踏まえ、AIR の内容について、前/後の2編にわたりお伝えします。前編では AIR の概要・サマリと、マルチドメイン アプローチにおけるシスコの戦略および貢献についてご紹介します。なお、本レポート予測には、新型コロナウイルスの影響は考慮されておりません。
「Cisco Annual Internet Report (AIR) (2018~2023年)」
AIRは、従来のインターネット関連の動向予測調査報告書「Cisco Visual Networking Index(VNI)」をリブランドしたレポートで、デジタル変革を評価する世界全体、地域、および国レベルの予測/分析と、アナリスト企業ならびにシスコ独自の調査による展望、洞察、分析を提供しています。固定ブロードバンド、Wi-Fi、モバイル(3G、4G、5G)ネットワークをカバーし、インターネットユーザ数、デバイス、接続数の増加について定量的な予測を行うとともに、今回の AIR へのリブランディングにあたり、新たに「アプリケーション」、「セキュリティ」、「インフラストラクチャの変革」、「チームの可能性拡大(エンパワーメント)」の4つを戦略的領域として定めました。
この目的は、多くのグローバル組織がアクセス、WAN(ワイドエリアネットワーク)、およびデータセンターにおいて対処が求められているマルチドメイン アーキテクチャの課題と機会に対応するためです。AIR はこれら 4領域における、定性的な分析および評価を提供します。
インターネットのさらなる浸透: 世界人口の66 %へ
第一に注目したいのが、インターネットの社会への浸透です。インターネットはこれまでも経済に大きな影響を与えてきました。2023年には、世界のインターネットユーザは、2018年の 39億人(世界の人口の 51 %)から 14億人増加した、53億人(世界人口の 66 %)に拡大し、日本では1.19億人(日本人口の95 %)になると予測されています。また、世界のモバイルユーザは2023年までに、世界人口の 70 %以上( 57億人)に達すると予想されています。
世界経済フォーラムにおいて、インターネットは大きく経済や社会に貢献する人々の生活には欠かせないものとして、情報、学習、エンターテインメントを誰でも、どこでも利用できる生活が当たり前になるために、さらなるインターネット浸透のためのプロジェクトがすでに立ち上がっていますが、この度のコロナ禍により証明された、インターネットのライフラインとしての重要性と企業活動におけるデジタル化への需要は、より一層ネットワークの進化要求を生み出すと考えられます。
インターネットを支えるインフラの進化: 様々なテクノロジーが進化
2023年における世界の固定回線の速度は、110 Mbpsになると推測され、2018年に比較し約2.4倍、日本においては、183.2 Mbpsと2.1倍になると推測されます。モバイルにおいては、世界で2023年に44 Mbps、2018年に比較し約3.4倍、日本においては、2023年に62.6 Mbpsと世界平均速度と比較し、1.42倍の速度となります。
同時に、世界のモバイル接続の 10 % 以上(日本は20.6 %)が 5G対応になり、その平均速度は 575 Mbps、現在の平均的なモバイル速度の 13倍高速になります。5Gは、コンシューマより浸透し、4Gの既存周波数上に5Gを使用する検討も進んでおり、5Gによるカバレッジも拡大していきます。
また現在、日本で立ち上がった5GはNSA (Non Standalone) ですが、今後、5G SA (Standalone) の導入が進んでいくことにより、よりさらに5Gの持つ実力が発揮されていくものと考えられます。uRLLC、mMTC など、今後 AI のほか、自動運転やスマートシティ、コネクテッドヘルスなど、さまざまな先端 IoT アプリケーションにより、ダイナミックなモバイルインフラをサービスプロバイダーのみならず、各産業におけるローカル5Gのような取り組みを通じて、実現することになるでしょう。
そして同時に注目されるのが、アメリカにおける6GHz帯のWi-Fiへ追加バンドが決定した Wi-Fi です。世界の Wi-Fi の平均速度は 91.6 Mbps になり、2018年の 30.3 Mbps から約 3倍に上昇し、これらをサポートするWi-Fi ホットスポットは、2023年に6.28億ヵ所になると見込まれ、2018年の1.69億ヵ所から年平均30 %で増加し、この内、Wi-Fi 6 が11 %を占めると推測されています。日本においても来年以降、追加バンドの制度化が検討されていくものと考えられ、固定、モバイル、Wi-Fi が相互に補完し合いながら、シームレスなユーザ体感を実現し、人々、および企業活動をサポートしていく事になるでしょう。
ネットワークへの接続数とセキュリティ: 接続数増加ペースを上回るDDoS 攻撃
世界のネットワークに接続するデバイス数は、2023年までに 300億台近くまで増加すると見込まれています。言い換えると、世界中の人々が 1人あたり 3.6台のデバイスを持ち、ネットワークに接続すると予測されています。そのうち約半数をマシンツーマシン(M2M)接続が占め、日本においては約70 %を占めます。スマートフォン、ノートパソコン、コネクテッド TV といったエンドユーザデバイスを 1人が 2台近く利用すると同時に、一番大きな割合をコネクテッドホームが占め、成長率ではコネクテッドカーが高く、日本においては2023年までに年率40 %の成長が見込まれます。コネクテッドヘルスモニタなども含め M2M 接続もほぼ 2台利用するイメージです。
接続数が増えてくる状況で、気になるトレンドが、DDoS 攻撃の規模の拡大と頻度の増加です。世界におけるピークの攻撃規模は、年率63 %で拡大しており、その頻度は、前年比39 %で増加しています。2023年には攻撃頻度は15.4百万回に達すると推測され、今後も、年平均成長率14 %が見込まれます。平均規模は1 Gbps と見られ、これは多くの企業ネットワークをダウンさせる事が可能な規模です。
セキュリティにおいては、これまでの境界型に頼るのではなく、ゼロトラスト、つまり、誰か、または何かが作業資産へのアクセスを要求したときに、信頼性がまったくないこと(ゼロトラスト)を前提とする思想のもと、ユーザ、エンドユーザデバイス、API、IoT、マイクロサービス、コンテナなどからのアクセスのセキュリティを確保することで、ワークフォース、ワークロード、ワークプレイスを保護する取り組みが大切になってきます。
マルチドメイン アプローチへのシスコの貢献
シスコがマルチドメインを重要だと考える理由は、過去数年間にわたり多くのテクノロジーを各ドメイン内で構築し成功を収めた今、これらを拡張してネットワーク全体で相互接続する時が来たと判断したからです。
従来、ネットワークは、キャンパス、ブランチ、WAN、データセンター、クラウドの個別のドメインで構成され、すべて個別に管理されていました。モビリティ、IoT、およびクラウド利活用の増加、そして包括的なセキュリティの必要性によってもたらされる複雑さの増大に、効果的、効率的に対処するためには、これまでのドメインごとの孤立した世界から脱却する必要があります。
運用保守の自動化や高度な分析と保護の実現、また新しい技術である 5G、SD-WAN、エッジ コンピューティング に対応するためには、インフラストラクチャの変革が求められます。それが、シスコが提唱するインテント(意図)ベースのネットワーキング アプローチです(これについては、後編でご紹介します)。
コロナ禍による、新しい世界への挑戦はまだ始まったばかりです。「New Normal」と言われる新しい生活様式、働き方、および価値観を支えていくために、デジタル技術が大きく貢献することは間違いありません。シスコでは、こうした人々、企業の新しい挑戦を積極的にサポートし、社会に貢献していきたいと考えています。
そして、拡大し続ける接続やアプリケーションに対してネットワークをどのように備えればよいのかという喫緊の課題に対し、AIR ならびにこの関連資料が、企業や政府、サービスプロバイダーの皆様にとって有益な情報になることを願っております。
次回の後編では、先述したマルチドメインアーキテクチャーに対応した4つの戦略的領域である、「アプリケーションの見直し」、「セキュリティ」、「インフラストラクチャの変革」、「チームの可能性拡大(エンパワーメント)」の領域でのトレンドおよびシスコの戦略、貢献についてご紹介します。
「Cisco Annual Internet Report」についての詳細は、こちらを参照ください
- 地域別および国別のデータと予測:Cisco Annual Internet Report ハイライトツール [英語]
- 地域別および国別:インターネット対応状況評価ツール [英語]
- 世界および地域別インフォグラフィック