この記事は、VP and Chief AI Scientist, Foundation AI(AI Software & Platform)である Amin Karbasi によるブログ「Introducing Antares: Highly Efficient Open Weight AI Models for Vulnerability Localization 」( 2026年 7月 21日 )の抄訳です。
Collaborator(s): Supriti Vijay, Aman Priyanshu, Didier Chapoteau, Arthur Goldblatt, Kimia Majd, Fraser Burch, Jianliang He, Baturay Saglam, Takahiro Matsumoto, Zhuoran Yang
本日、シスコはセキュリティ向け小規模言語モデル(SLM)ファミリの Antares をリリースいたします。Antares は、コードベース内で既知の脆弱性が潜む場所を特定するという、セキュリティにおける最も困難で時間と費用がかかる問題の一つに対処することに特化しています。
Hugging Face の幅広いコミュニティで利用可能なオープンウェイトモデルとして、Antares-350M と Antares-1B の 2 つのモデルをリリースします。この重要なセキュリティタスクでのベンチマークテストで、これらのモデルは多くのクローズドモデルとオープンウェイトモデルを上回るパフォーマンスをわずかなコストで実現することが示されました。また、ローカルで実行できるコンパクトさのため、機密性の高いコードベースをクラウドに送る必要がありません。
オープンウェイトモデルの Antares、オープン仕様の Foundry Security Spec、セキュアなコーディングを導く CodeGuard、そして新しいベンチマークを組み合わせることで、シスコは、サイバーセキュリティの専門家がよりスムーズに業務を進められるよう支援する、信頼できる実用的な AI ツールの原型を定義するとともに、企業でのさらなる AI セキュリティツール導入のエコシステムと標準を構築することに取り組んでいます。

図 1. 小規模言語モデルの Antares ファミリは、新しい脆弱性特定ベンチマークでテストされた 多数の大規模モデルを上回るパフォーマンスを実現(Antares-3B はまもなくリリース)。
費用がかかり機密性の高いセキュリティワークフローのための小規模モデル
ソフトウェアセキュリティは、公開データベース、アドバイザリ、CWE などの外部の脆弱性ナレッジを内部コードと結びつけることに依存しています。リポジトリが大きく、セキュリティシグナルにノイズが多く、関連する証拠が 1 つの明白な場所にあることが稀であるため、この作業は困難です。アナリストは多くの場合、馴染みのないコードを入念に調べて、命名規則に従い、コールパスを検査し、候補ファイルを比較して、実際に弱点が存在するかどうかを判断する必要があります。
さらに、組織は、単に能力があるだけでなく、展開するのが現実的なセキュリティツールを必要としています。コンパクトモデルは、推論コストを削減し、ローカルまたはオンプレミスの運用に対応し、チームが独自環境内で機密性の高いソースコードを保持するうえで役立ちます。Antares によって、トークン使用量が多い AI モデルを重要なタスクに使用するためのリソースが不足していた可能性がある、大学や公的機関、小規模なセキュリティチームが、AI 支援型セキュリティの力を最大限に活用できるようになります。
Antares は両方の問題に対処することに特化して設計されています。
「ソフトウェアは常に脆弱性がある状態で出荷されており、膨大なレガシーコードは今でも潜在的な弱点を抱えています。AI は今、両方の側面から問題を推し進めています。つまり、エージェントは、より多くのコードを書くようになるとともに、そのコードをエクスプロイトできるようになってきているのです。そのため、安価で継続的な検証をループの近くで行い、取り込まれる前にコードをチェックすることが必要になっています。その面で、小規模モデルは特に魅力的です。ローカルで動作するため、独自コードがマシンの外部に出ることがありません。また、エージェントの出力をリアルタイムで制御できるほど高速です。Antares-1b は好例であり、提示されたコードの脆弱性を、複数の弱点クラスや言語にわたって認識します。提供される CLI はモデルの機能を実践的なワークフローをまとめたものであるため、コードベースのスキャン、検出結果の検査、自動化されたパイプラインへの統合が容易になります。私が魅力的だと感じたのは、これほど小さなモデルがコードベースを探索して、さもなければより大規模なモデルや手動での分析が必要になったであろうセキュリティ問題を特定することでした。」
— シンガポール国立大学(NUS)、コンピュータサイエンス学科 准教授、Reza Shokri 氏
「セキュリティはぜいたく品であってはなりませんが、高度な AI ベースの検出は、主に莫大な予算のある組織のものでした。Antares の結果はその状況を変えるものです。安全なコードの推論において、最先端モデルに匹敵する精度をわずかなコストで実現し、すべてのコミットで実行できるほど高速です。攻撃者がすでに AI を使用している状況で、そのような効率性は「あれば良いもの」ではありません。それによってこそ、あらゆるチームで常時稼働のセキュリティスキャンが可能になるのです。」
— スタンフォード大学、経営科学・工学科 教授、言語・データ・推論研究室 室長、Amin Saberi 氏
Antares の差別化要因
従来の静的解析ツールは有用ですが、ルールが大量にあることが多く、相当なトリアージを必要とする結果が生じる場合があります。汎用コーディングモデルはコードについて推論することはできますが、セキュリティ調査、ターミナルナビゲーション、構造化された脆弱性の特定に向けて最適化されていない場合があります。
Antares はその中間点向けに設計されています。Antares は、Cisco Foundation AI チームによる先駆的な研究から着想を得たものです。その研究では、コンパクトモデルが、検索、振り返り、戦略の訂正を行い、進み方が生産的でない場合は前に戻ることを学習できることが示されました。つまり、効率的な検索行動は、モデルの規模によってのみだけでなく、学習された検索戦略によっても実現できるということです。次の疑問は、同じアイデアが、実世界における喫緊のセキュリティ問題である、脆弱性のあるコードの特定にも役立つかどうかでした。
Antares は、人間の調査担当者がリポジトリの調査に取り組むことに似ている、反復的な検索パターンに従います。各モデルは、最初に脆弱性に関する説明を確認し、関連するコードパターンを検索して、候補ファイルを読み取り、新たな証拠を取り入れて、進み方が役に立たなければ方向を切り替え、最も重要と思われるファイルに絞り込みます。目標は、専門家の判断に取って代わることではなく、ソースコードの脆弱性トリアージにおける初期段階のスピード、再現性、レビューの容易さを向上させることです。
実務では、Antares は次のようなワークフローをサポートできます。
- リポジトリスナップショット内の CWE カテゴリに関連するファイルの特定
- アドバイザリ主導のセキュリティ調査のトリアージ
- モデル駆動型リポジトリ探索による静的解析の強化
- 脆弱性が含まれる可能性があるファイルの早期レビューが必要な CI/CD トリアージワークフローの支援
- プライバシーやコンプライアンスに関する厳格な要件のある環境でローカルセキュリティ分析を実現
Antares は、関連する脆弱性が含まれる可能性のあるソースファイルのランク付けされたリストとともに、その結果につながったターミナル探索のトレースを出力します。セキュリティチームはその出力を使用して、アドバイザリのトリアージ、焦点を絞った CWE 調査、CI/CD セキュリティチェックの際にアナリストによるレビューに優先順位をつけることができます。Antares は、より広範なアプリケーション セキュリティ ツールチェーンを置き換えるものではありません。セキュリティチームは引き続き、依存関係やソフトウェア構成の分析、シークレットのスキャン、動的テスト、インフラストラクチャとコンテナのチェック、脅威モデリング、修復ワークフロー、専門家によるレビューが必要です。
新たなベンチマークが必要だった理由
脆弱性が含まれるコードを特定するためのモデルを構築するうえで、測定に関する目下の課題が提起されました。Antares は一般的な問題の解決、パッチの生成、広範なコード検索は対象としていないため、一般的なコーディングベンチマークだけを利用することはできなかったのです。Antares はセキュリティ固有の特定タスクに特化したものであり、限られたセキュリティコンテキストで、脆弱性が含まれる可能性が最も高いソースファイルを特定します。
最も近い研究は CodeScout です。これは、SWE-Bench Verified、Pro、Lite などのソフトウェア エンジニアリング ベンチマークでターミナルベースのコード検索エージェントを評価するものです。CodeScout は、標準的な Unix ターミナルでコードの特定を訓練、測定できることを示しています。しかし、これらのベンチマークは通常、エージェントが CWE スタイルのセキュリティ記述、セキュリティアドバイザリ、脆弱性クラスから脆弱性が含まれるファイルを特定できるかどうかではなく、ソフトウェアの問題や開発タスクに関連するコードを見つけられるかどうかを測定するものです。
このギャップから着想を得て、500 個のタスクからなる脆弱性特定ベンチマークが作られました。これは、モデルに、未知のコードベースを効率的に探索しつつ、特定の CWE カテゴリに関連する脆弱性パターンを認識することを求めるものです。
オープンウェイトである理由
Antares をオープンウェイトとしてリリースするのは、セキュリティコミュニティは、実用的なリポジトリレベルの防御を実現するための、より利用しやすい構成要素を必要としているからです。

図 2. 脆弱性特定のベンチマークにおいて、Antares モデルファミリはより規模の大きな比較モデルよりも大幅に低い推定コストとランタイムで実行を完了。
脆弱性のトリアージは高くつきます。専門知識、時間、インフラストラクチャ、機密性の高いコードへのアクセスが必要です。これらのコストが最も痛切に感じられるのは、すでに限られたセキュリティリソースで運用している組織、つまり、重要なソフトウェアのメンテナンスを依然として行っている、大学や研究機関、非営利組織、公共部門のチームです。
焦点を絞った前進
Antares は、セキュリティ組織が AI を責任ある形で、測定可能な形で、防御担当者のために活用する方法を進歩させるためのシスコの広範な取り組みの一部です。Foundry Security Spec によって、シスコは明確なロール、ガードレール、レビュー可能な出力を持つエージェントセキュリティ評価システムを構築するための、モデルに依存しないブループリントを共有しました。また、CodeGuard を通じて、AI コーディングエージェントをより安全なソフトウェア開発に導くことができるセキュアバイデフォルトのルールとスキルの提供を支援しました。そして Antares によって、リポジトリレベルの脆弱性の特定に焦点を当てたコンパクトなセキュリティモデルとベンチマークを追加しようとしています。
シスコの取り組みは、共通の信念で結びついています。その信念とは、セキュリティにおける AI は、一度限りの印象的なデモにとどまらず、実務者が評価、管理、改善できるシステムに向かって進む必要があるということです。Foundry Security Spec は、エージェントによるセキュリティ作業のハーネスを定義するうえで役立ちます。CodeGuard を使用して、再利用可能なルールコーパスに安全なコーディングプラクティスを記録することで、予防の基準を引き上げることができます。そして、Antares は、コストのかかる特定ステップを支援して、脆弱性インテリジェンスを人間のレビュアーが確認できるソースファイルに絞り込みます。
これらの取り組みを組み合わせることで、オープン仕様、再利用可能なセキュリティナレッジ、コンパクトな展開可能モデル、進歩を測定可能にするベンチマークといった、AI を活用した防御のためのより堅牢な基盤の構築に向けてコミュニティを支援できます。目標は、オンプレミスやリソースの制約にかかわらず、すべてのセキュリティ担当者が日常のセキュリティ運用に AI を効果的に取り入れられるシステムの構築に向けて進むことです。
Hugging Face のページで、各 Antares モデルを確認してモデルカードをご覧ください。ベンチマークと評価手法については、テクニカルペーパーをお読みになるか、Cisco Foundation AI にお問い合わせください。
この記事は、VP and Chief AI Scientist, Foundation AI(AI Software & Platform)である