2025 年 3 月 26 日、ANA インターコンチネンタルホテル東京にて開催した「Cisco AI インフラストラクチャ & セキュリティ サミット」には、多くの方にご参加いただきありがとうございました。本イベントでは、AI 時代に向けて、AI インフラの構築と AI セキュリティの重要性について深く掘り下げ、デジタル変革、AI 戦略、セキュリティを加速させるための情報をご提供しました。このイベントの中でお話した内容を 3 本のブログでご紹介します。
シスコのコンピュート部門においてプロダクトマネジメントを担当するシニアディレクター Mahesh Natarajan は、「強靭で柔軟な AI インフラの構築」と題し、その課題と解決の方向性、そしてシスコのケイパビリティについて解説しました。
AI への期待と準備のギャップ
AI はこれまでの常識を覆すような規模で、新しいビジネスチャンスを生むものであり、市場を大きく変えようとしています。
シスコでは、従業員 500 人以上の企業における上級職 (7,000 人以上) を対象に、AI の導入状況と今後の展望を調査しました。その結果から、AI は 2030 年までに世界経済に約 16 兆ドルもの貢献をもたらすと予測しています。
「そして 98 %の企業が、AI を活用したテクノロジー導入の緊急性が高まったと回答しています。しかし、そのように考えていながら、AI に対応できていると感じている企業は、わずか 13 %に過ぎません。経営層のサポートがあり、技術もあるのに、なぜ準備ができているという自信を持てていないのでしょうか。このギャップの主な原因は、AI のためのプレイブックが存在しないからだと私は考えています」(Natarajan)
AI インフラの課題は「複雑性」
「これに頼れば、AI の環境を作れる」というようなレシピが存在しないのは、AI のアプローチとニーズは組織ごとに異なるからです。大別すると「大規模言語モデル (LLM) を作成・トレーニングしたい企業」「既存のモデルの最適化やファインチューニングおよび RAG を実現したい企業」「モデルを活用するための推論環境を必要としている企業」があります。

こうした AI インフラの構築は、車を作りながら同時に道路を変えようとするようなもので、今までのデータセンターとは全く異なる考え方で臨む必要があります。例えば、GPU は大量の電力を消費し廃熱が発生するため、データセンターそのものの設計を根本から見直さなければなりません。サステナビリティ、パフォーマンス、電力の制約、投資、冷却におけるジレンマ、効率的なスペース活用、最適なネットワーク、エコシステムなど、考慮すべき要素は多岐にわたり、それら全てを同時に考え直すことが迫られています。
こうした要素を整理すると、AI 導入・活用に向けたロードマップのどの段階に位置する企業であっても、AI インフラの基本となる要素は「セキュリティ」「モデル」「コンピュート」「データ」「ネットワーキング」の 5 つに集約されます。これら全てを考慮するために、パートナーと手を携えて取り組むことになるでしょう。
シスコが提供する 3 つの価値:最適な選択肢、信頼性、シンプルさ
そして、パートナー選定で重要となるポイントが、「最適な選択肢」「信頼性」「シンプルさ」です。シスコはこの 3 つのポイントに合致した価値を提供します。
・最適な選択肢
シスコでは、AI アプリケーションのあらゆるユースケースに対応できる、業界最高クラスの幅広いポートフォリオを用意しています。
その 1 つである「Cisco Data Center Networking」は、40 年間にわたり培ってきた、よく知られているものです。ネットワーキングでは他に、プログラマビリティとパフォーマンス、バッファリング、拡張性、電力効率を実現した統合型アーキテクチャ「Cisco Silicon One」、オプティカルネットワーキングの「Cisco Optics」などがあります。
「Cisco Security」のポートフォリオも多岐にわたり、場所を問わず、全てのネットワーク、クラウド、エンドポイント、E メールに対する強力なセキュリティを実現可能です。
今回、特にご紹介したいのが「Cisco Unified Computing System (UCS)」で、さまざまなユースケースに対応できるように調整を続けてきました。
例えば AI モデルの作成・トレーニングのニーズを踏まえて、NVIDIA HGX/MGX アーキテクチャを採用した高密度 GPU サーバーをポートフォリオに加えました。なお、MGX アーキテクチャの場合はスケールアップが可能です。
また、モデルの最適化やファインチューニングおよび RAG のニーズに対応するのが、次世代ブレードサーバーです。モジュラーアーキテクチャによってさまざまなコンポーネントを分散し、従来よりも柔軟性を高めています。AI アプリケーションに合わせた GPU リソースの最適化が、データセンター内で物理的な変更作業を行わずに可能です。
そして現在、モデルを活用する推論環境として、エッジ AI の新製品を準備中です。

・信頼性
例えば自動車は、完成車メーカーによってエンジンやタイヤが統合され、信頼性の担保された製品を購入できます。コンピューターの場合はどうでしょうか。
シスコはエコシステムの重要性を認識しており、2009 年以来 Intel や AMD、NVIDIA、NetApp など、業界をリードする企業とパートナーシップを構築してきました。エンジニア同士が協力して、検証済みのリファレンスアーキテクチャを作り上げ、「Cisco Validated Design (CVD)」と呼ぶドキュメントにまとめています。これは詳細なプレイブックとして利用できるもので、AI 時代のユースケースにも対応しているため、AI 環境の構築をサポートする存在として自信を持って提示できます。
・シンプルさ
複雑な AI インフラの導入をできるだけシンプルにするため、CVD を基盤として構築された包括的なソリューションスイート「Cisco AI Pods」を提供しています。コンピュート、ネットワーク、ストレージ、そして NVIDIA などのパートナーが提供する AI ソフトウェアスタックまで、1 つのパーツ番号で注文可能です。
さらに、AI アドバイザーを開発し、お客様のワークロードやパラメータ数、使用する言語モデルなどに基づいて、最適なAI Pods を提案するサービスも提供しています。現在の AI アドバイザーは推論向けですが、将来的には AI 機能を搭載し、自然言語での質問に答えられるようになる予定です。
NVIDIA との画期的なパートナーシップ
2025 年 2 月、シスコと NVIDIA はパートナーシップを発表しました。これにより、NVIDIA Spectrum-X イーサネット ネットワーキング プラットフォームにおいて、Cisco Silicon One を NVIDIA SuperNIC と合わせて組み込むことが可能になりました。
このパートナーシップの特筆すべき点は、NVIDIA が初めてサードパーティのネットワーキングコンポーネントを自社のリファレンスアーキテクチャに採用したことです。
もう一つ重要なのは、「Cisco Secure AI Factory with NVIDIA」という、セキュリティを担保しながら AI アプリケーションを迅速に開発・デプロイできる環境の提供です。実現方法にはモジュール型の導入と、統合ソリューションの両方を用意し、お客様のニーズに合わせて最適な方法を選択できるようにしています。後者の統合ソリューションには「Cisco Nexus Hyperfabric AI」があり、GPU 対応のシスコサーバー、インフラ管理ソフトウェア、ストレージ (パートナーによって供給)、そしてクラウドベースの管理プラットフォームを一体化し、お客様が簡単に AI を導入できるよう設計されています。
「セキュリティファーストのアーキテクチャ、妥協のないパフォーマンス、そして自由な選択によって、お客様の AI 導入を成功に導きます」(Natarajan)
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