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Wi-Fi 7 における飛躍的な進化

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Anand Gurumurthyこの記事は、Meraki Catalyst ワイヤレスのマーケティングエンジニアリング テクニカルリーダーである Anand Gurumurthy によるブログ「Onward and upward with Wi-Fi 7」(2024/2/14)の抄訳です。

 

最後にノート PC をイーサネットポートに接続したのはいつだったか覚えていますか?今や、ほとんどのデバイスは設計段階から有線ポートが考慮されていません。代わりに、ネットワーク接続にはワイヤレスが使用されています。過去 25 年間にわたるワイヤレステクノロジーの進化により、まったく新しい種類のアプリケーションやモノが誕生しました。今や Wi-Fi はあらゆる場所で、あらゆるモノで利用されています。この新世代の Wi-Fi について最も興味深いのは、速度が向上しただけでなく、キャパシティと遅延も改善されていることです。

1999 年にさかのぼると、第 1 世代の Wi-Fi で提供されていた速度はわずか 11 Mbps でした。第 6 世代である Wi-Fi 6 では、理論上の最大通信速度は 10 Gbps 弱です。この速度の向上により、電子メールや Web ブラウジングといった従来のアプリケーションに加えて、帯域幅を大量に消費するビデオ会議や AR/VR アプリケーションへの対応に拍車がかかりました。Wi-Fi 1 から Wi-Fi 6E までの Wi-Fi 開発に目を向けると、ほぼ 2 ~ 4 年単位で世代が新しくなり、速度、キャパシティ、効率、セキュリティが大幅に向上してきました。このキャパシティの増加と最適化により、Wi-Fi 対応デバイスの急増が促され、消費者向けデバイスから企業クラスのデバイスに至るまで、あらゆるものにチップセットが組み込まれるようになりました。消費者にとって、Wi-Fi はもはやぜいたくなものではなく、必須のものとなっているのです。

1999 年から近い将来までの Wi-Fi 標準規格の進化

図 1. 1999 年から近い将来までの Wi-Fi 標準規格の進化

 

デバイスとアプリケーションの爆発的な増加に伴い、2.4 GHz および 5 GHz のスペクトラム空間は混雑しています。これにより、米国の連邦通信委員会や世界中のその他の規制機関が、Wi-Fi の免許不要利用向けに 6 GHz スペクトラム空間を解放することになりました。Wi-Fi 6E と呼ばれるこの追加のスペクトル(国によって 1200 MHz または 500 MHz)は、市場を大きく後押ししています。しかし、Wi-Fi 6E がリリースされても、次世代の Wi-Fi 7 によってもたらされるものには大きな期待が寄せられています。

Wi-Fi 7 の新機能

Wi-Fi 7 は、「Extremely High Throughput(EHT)」としても知られる IEEE 802.11be 改正に基づく Wi-Fi の最新リリースです。この改正はまだ最終決定されていませんが、Wi-Fi 6 と比較して速度を最大 4 倍向上させることで、企業だけでなくエンドユーザーにも利益をもたらす多くの機能強化が提供されています。さらに、超低遅延で、より堅牢な接続が実現し、より高いスペクトル効率が得られます。干渉がさらに軽減され、省電力技術、ローミング エクスペリエンスが向上し、セキュリティも強化されています。Wi-Fi 7 は、ドラフトが進化、成熟するに従って、802.11 be 改定の機能を採用した 2 つのリリースに分割されます。Wi-Fi 7 の最初のリリースの開始は 2024 年初頭と予想され、リリース 2 は 2026 年初頭と予想されています。

Wi-Fi 7 は、2.4 GHz、5 GHz、6 GHz の 3 つの帯域すべてで動作し、PHY レイヤと MAC レイヤで次の主要な機能を提供します。

高いデータレート

  • 4K QAM(Quadrature Amplitude Modulation) \’96 としても知られる 4096 QAM – Wi-Fi 6 の 1024 QAM ではサブキャリアでエンコードされるデータは 10 ビットですが、Wi-Fi 7 の 4K QAM では、サブキャリアでエンコードされるビット数は 12 ビットとなります。これにより、PHY データレートが 20% 増加します。
  • 320 MHz のチャネル幅 – 最大チャネル幅は、Wi-Fi 6 の 160 MHz の 2 倍となる 320 MHz です。6 GHz 帯域で 1200 MHz のスペクトラム空間が利用できるため、3x 320 MHz のチャネル幅のチャネルを実現できます。

空間ストリーム

空間ストリームの最大数は以前の Wi-Fi 世代と同じで、8 のままです。空間ストリームが増えると、複数のクライアントと同時に通信しながら、MU-MIMO 環境でより高い総合パフォーマンスを実現できます。

図 2. Wi-Fi 6 の現在の機能と比較した場合の Wi-Fi 7 の PHY 機能を示す図

上記の PHY 機能強化により、Wi-Fi 6 では 9.6 Gbps だった最大データレートは理論値で約 23 Gbps に増加します。

マルチリンクオペレーション(MLO):

マルチリンクオペレーションは、複数の帯域またはチャネルの集合体です。MLO では、マルチリンクが可能な Wi-Fi 7 ワイヤレス クライアント デバイスはマルチリンクデバイス(MLD)と呼ばれ、複数の帯域(または、アクセスポイントがデュアル 5 GHz 無線をサポートする場合は同じ帯域の複数のチャネル)でアソシエートし、同時に通信できます。

図 3. Wi-Fi 6 の単一リンクと、MLO による Wi-Fi 7 での 2.4 GHz、5 GHz、6 GHz における同時トラフィック通信の比較を示す画像

既存の Wi-Fi 世代では、1 つの帯域でのみアソシエーションとデータ通信が可能です。さまざまな帯域にトラフィックを分散すると、利用できる最適なリンクを使用することで全体の速度が向上し、遅延が減少し、信頼性が向上します。アプリケーションのニーズに応じて、その特定のアプリケーションの SLA 達成に役立つ特定のリンクを、データフローに割り当てることができます。

MLO は、VR/AR、オンラインゲーム、クラウドアクセス、リモートオフィスツールなどのアプリケーションで役立ちます。また、MLO によって、メッシュのバックホールを改善し、帯域間のローミング遅延を防ぐことができます。MLO は、セルエッジにあるステーションが、より長距離で、より優れた帯域にシームレスに切り替わるうえで役立ちます。たとえば、ステーションは、アクセスポイントに近づくと 6 GHz に切り替わり、セルエッジでは 2.4 GHz または 5 GHz に切り替わることができます。

Multi-RUMRU):

OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access/直交周波数分割多元接続)は、おそらく Wi-Fi 6 の最も重要な機能でしょう。OFDMA では、利用可能な帯域幅を共有することで、複数のクライアントが 1 つのアクセスポイントと同時に送受信できます。OFDMA のスペクトル効率によって、RF 環境での伝送遅延が改善されます。

OFDMA では、チャネル帯域幅のサブキャリアを「リソースユニット」(RU)と呼ばれる小さな単位にグループ化できます。これらの個々の RU は別々のステーションに割り当てられるため、アクセスポイントはアップリンクおよびダウンリンクの送信中に同時にサービスを提供できます。

Wi-Fi 6 では、アクセスポイントは 1 つの RU のみを各ワイヤレスクライアントに割り当てます。Wi-Fi 7 では、複数のリソースユニット(MRU)を各ワイヤレスクライアントに割り当てることができます。MRU によって、スペクトル効率が向上し、干渉がより軽減されるのです。

プリアンブル パンクチャリング:

プリアンブル パンクチャリングでは、アクセスポイントは干渉の影響を受けるチャネル幅の部分を「切り離す」(その部分に「穴をあける」)ことで、残りのチャネルをデータ伝送に使用することができます。たとえば、アクセスポイントが機能している 80 MHz チャネル幅のうち 20 MHz チャネルに干渉が存在する場合、単独で使用できない干渉のある 20 MHz チャネルに穴があけられ、残りの 60 MHz チャネルがデータ伝送に使用されます。全体的な帯域幅は減る可能性がありますが、80 MHz チャネル幅すべてが使用できなくなる代わりに、「穴があけられた」20 MHz チャネルのみが使用できなくなるということです。

図 4. 新しい Wi-Fi 7 標準で予想される機能であるプリアンブル パンクチャリングなしの場合とありの場合のチャネル使用を示す図

Restricted Target Wake TimeR-TWT

Target Wake Time(TWT)は、ワイヤレスクライアントのスリープ時間を延長して媒体の競合を減らすために、Wi-Fi 6 で導入されました。Wi-Fi 6 では、個別 TWT とブロードキャスト TWT の 2 つの運用モデルがあります。個別 TWT では個々のワイヤレスクライアントの起動時間を設定し、ブロードキャスト TWT では STA のグループの起動時間を設定します。

Wi-Fi 7 では、Restricted TWT(R-TWT)と呼ばれる新しい運用モードが導入されます。この規格は、チャネルリソースを予約するメカニズムを定義し、アクセスポイントに対する媒体アクセス保護を強化して、指定された時間に媒体への排他的アクセスを割り当てます。これにより、遅延の影響を受けやすいトラフィック配信が向上します。

Wi-Fi 7 のその他の主な機能

他にも、予想される機能がいくつかあります。強化された Compressed Block Ack 機能では、ウィンドウサイズが Wi-Fi 6 での 256 MPDU から最大 1024 MPDU に増えています。ストリーム分類サービス(SCS)やミラーストリーム分類サービスなどの QoS 強化機能では、ワイヤレスクライアントがダウンリンクフローの特定の QoS 処理を適用するようアクセスポイントにリクエストできます。Wi-Fi 7 規格は、混雑した環境ですばらしいサービス品質の音声およびビデオストリーミングを提供する既存のイノベーションに基づいて構築されることが期待できます。この Wi-Fi 7 での SCS の標準化により、Apple の iPhone や iPad のエクスペリエンスが大幅に向上します。

また、Wi-Fi 7 では高度な暗号化アルゴリズムによってセキュリティが強化され、データ伝送が保護されてサイバー攻撃から守られます。

Wi-Fi 7 を待つべきか

Wi-Fi 5 または Wi-Fi 6 ネットワークをご利用の場合、Wi-Fi 7 を待つべきか、今 Wi-Fi 6E にアップグレードすべきか迷っているかもしれません。ここで、留意しておくべきいくつかの考慮事項をご紹介します。

  1. 11be 改定はまだ最終承認されていません。802.11be 改定の最終承認に向けた IEEE の公開スケジュールは、2024 年 12 月頃に予定されています。
  2. エンタープライズレベルの Wi-Fi 7 チップセットは開発および展開の初期段階にあり、多くの機能がまだ欠けており、市場で入手可能なものはほとんどありません。また、ソフトウェアの安定性とエコシステムのサポートも考慮する必要があります。
  3. この改定では 4K QAM、320 MHz チャネル幅によって上限が押し上げられていますが、これらの機能をすぐに実装するのは現実的ではありません。4K QAM では、このように高い変調レベルを達成するには非常に高い信号雑音比が必要です。1200 MHz のスペクトラムに対応する国では、6 GHz スペクトラムで 320 MHz のチャネル幅を実現できます。現在、1200 MHz のスペクトラム全体を開放している国はほとんどありません。

エンタープライズクラスの Wi-Fi 7 アクセスポイントが完成し、エコシステムが実際の展開に対応できるようになるには、少なくとも 1 年はかかるでしょう。

Wi-Fi 7 で向上したスピードと機能を利用して最高のユーザー体験を得るには、より速いポート速度とより大きいパワーバジェットのためのネットワーク インフラストラクチャ要件を十分に考える必要があります。最近の Wi-Fi 業界にとっての最大の恩恵は、6 GHz スペクトラム空間が免許不要で利用できるようになったことです。2.4 GHz スペクトラムは、チャネル数の制限、干渉、チャネル使用率の高さが原因で、多くの顧客ネットワークではほとんど使用できません。

Wi-Fi 6E アクセスポイントは、Low Power Indoor(LPI/屋内専用低出力)アクセスポイントとして 2021 年に登場しました。Automated Frequency Coordination(AFC/自動周波数調整)システムと連携した Standard Power アクセスポイントの動作に関する仕様と詳細は、当時は未完成でした。AFC は 6 GHz で高電力の「Standard Power」モードを有効にし、屋外および一部の屋内での展開に役立ちます。現在、開発の最終段階にあり、FCC から最終的な承認が得られる 2024 年初めに一般利用が開始される予定です(US 限定)。

では、Wi-Fi 7 を待つべきでしょうか。この新しい標準の特長と機能はワイヤレスをより良い方向に変革しますが、活用するにはしばらく時間がかかるかもしれません。Wi-Fi 6E ではすべてのスペクトルが利用できるため、ビジネスでは 7 を採用する前に思い切って 6E を採用するのが理にかなっているかもしれません。

 

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