この記事は、Secure Access Group の Vice President である Greg Dorai によるブログ「Cisco Product Innovations for a Wireless First World with Wi-Fi 6 and 6E」(2022/6/15)の抄訳です。
Wi-Fi の出現は世界的なサクセスストーリーであり、機能の豊富さ、性能の高さ、使いやすさ、コスト効率の良さのおかげで、今や世界で最も使用されているワイヤレス通信テクノロジーとなっています。Wi-Fi はプライベート 5G ワイヤレスネットワークを補完するテクノロジーであり、仮想現実/拡張現実(VR/AR)や 4K ビデオといった高スループット低遅延のさまざまな用途に利用されています。
シスコは、Wi-Fi が最初に開発された 20 年以上前からこの規格を支持してきましたが、今回、企業向け Wi-Fi 6 および 6E の重要なイノベーションを導入いたします。大幅に拡張された 6 GHz 帯でシスコのワイヤレス機器が比類のない素晴らしいパフォーマンスを提供できるように、お客様、パートナー様、デバイスメーカー様と緊密に連携してまいります。
また、お客様のさまざまな要件に対応できるよう、シスコおよび Cisco Meraki の物理、仮想、オンプレミス、クラウド管理オプションでワイヤレスネットワーク管理を提供いたします。
Wi-Fi の価値と普及
業界団体である Wi-Fi Alliance によると、世界における Wi-Fi の経済的価値は現在 3 兆 3,000 億ドルと推定されており、2025 年には 4 兆 9,000 億ドルに成長するものと見られています。Wi-Fi は教育、医療などの業界に画期的な効果をもたらすテクノロジーとして認められており、地方や孤立した地域におけるデジタルデバイドの解消に役立っています。
2020 年 4 月に連邦通信委員会(FTC)が Wi-Fi 6E を発表し、1200 MHz のスペクトラムが Wi-Fi 6 に追加されました。これは 2.4 および 5 GHz 帯で利用可能な 583 MHz のスペクトラムの 2 倍以上となっています。Wi-Fi 6 は Wi-Fi 5 の 3 倍の速度を実現していますが、Wi-Fi 6E の拡張(IEEE 802.11ax 標準)ではさらに高速なギガビットの速度が実現されています。また、アンライセンス(免許不要)スペクトラムが大幅に増加したことで、他にも数々の重要なメリットがもたらされています。
IDC 社の 1 月の調査では、2022 年末までに 23 億台の Wi-Fi 6 製品と 3 億 5,000 万台の Wi-Fi 6E 製品が市場に投入されると予測されています。
世界のほとんどの国では、Wi-Fi 6E を利用できるようにするために 6 GHzスペクトラムがすでに採用されているか、採用が検討されています(図 1)。5.925 MHz ~ 7.125 MHz のスペクトラムが採用されている国(濃い緑)、もしくは採用が検討されている国(薄い緑)は主に北米と南米に位置します。ロシア、アルゼンチン、エジプトなど(紫)では、5.925 MHz ~ 6.425 MHz のスペクトラムの採用が検討されています。5.925 MHz ~ 6.425 MHz のスペクトラムを採用しているのはグリーンランドや西欧諸国(黒)です。オーストラリア(黒地に白線)でも 5.925 ~ 6.425 MHz が採用されており、6.425 MHz ~ 7.125 MHz の採用を現在検討中です。
Wi-Fi 6E のメリット
1200 MHz のアンライセンス(免許不要)スペクトラムを持つ 6 GHz 帯が追加されたことで、企業はワイヤレス性能を低下させることなく、さらに多くの非オーバーラップチャネルを使用できるようになりました。Wi-Fi 6E デバイスは旧世代の Wi-Fi デバイスとスペクトラムを共有しておらず、効率の高い Wi-Fi 6 radioを使用しています。そのため、データレートが低い従来のデバイスのせいで速度が低下することはなく、専用の高速なレーンで通信を行うことができます。
Wi-Fi 6E でスペクトラムが広がったことのもう 1 つのメリットは、キャパシティの増加です。これは高密度の IT 環境やIoT環境で特に顕著になります。スペクトラムの隣接するブロックの間には、最初から最後まで周波数のギャップがありません。チャネルが広がる(利用可能なチャネル数が Wi-Fi 6 の 4 倍になる)ので、信号の干渉が緩和されます。高スループット、同時データ転送、1 ミリ秒未満の遅延を実現できることから、スマートビルディングでシームレスなエクスペリエンスを実現したり、自宅やオフィスでハイブリッドワークを行う人々をサポートしたりするために Wi-Fi 6E ソリューションが求められるようになっています。企業は Wi-Fi 6E を導入して、4K ビデオ、さまざまな形の拡張現実(XR)、ビッグデータ分析など、高スループット低遅延を必要とするデータ集約型の用途をサポートしています。
シスコでは、Wi-Fi 6 および Wi-Fi 6E における次のようなイノベーションを提供しています。これらを活用することで、干渉を緩和し、ネットワークのパフォーマンスを強化し、電力消費の最適化と節電を図ることができます。
Cisco CleanAir™ Pro
Cisco CleanAir テクノロジーは、シリコンレベルのインテリジェンスを使用して、スペクトラム対応、自己回復、自己最適化型のワイヤレスネットワークを構築します。これにより、2.4 GHz と 5 GHz を含むすべての Wi-Fi 周波数帯でワイヤレス干渉の影響が軽減されます。Cisco CleanAir Pro は、Wi-Fi 6E で使用される 6 GHz 帯にソリューションを拡張します。
Cisco CleanAir Pro のアーキテクチャはマルチradio対応で、人工知能(AI)と機械学習(ML)を利用した無線周波数(RF)スキャンradioによってHEフレームを復号できます。また、アクセスポイント(AP)で ML を利用して干渉源を分類し、デバイスプロファイルに自動的にラベル付けして干渉を緩和することができます。
Cisco DNA Center ダッシュボードで利用できる Cisco CleanAir Pro(図 2)は、ネットワーク全体にわたる干渉源を相互に関連付けます。迅速なトラブルシューティングと無線周波数干渉(RFI)の自動回避のためのインテリジェントな判断およびポリシーをサポートしているため、ネットワーク管理者は、サービスの中断とパフォーマンスの低下を評価し、解決策を調査し、迅速に対策を講じてネットワークパフォーマンスを改善することが容易になります。
Cisco AI Enhanced Radio Resource Management
Cisco Catalyst 9800 シリーズ ワイヤレスコントローラで利用可能な AI Enhanced Radio Resource Management(RRM)は、シスコの既存の RRM ソリューションを強化します。Cisco RRM では、RF グループのすべての AP とそのネイバーの間で収集された測定値を示す直近 10 分間のスナップショットサンプルを利用して、現在の状況に基づいてネットワークリソースを最適化します。
Cisco AI Enhanced RRM では ML と AI を導入して、履歴データ、AP 密度、トレンド、実際の使用状況に基づいて RRM パラメータを最適化します。これは刻々と変化するワークプレイスで最良の Wi-Fi エクスペリエンスを実現するための最適な基盤となります。このソリューションによって未使用のネットワークキャパシティを各拠点で活用するための実用的なインサイトが得られます。管理者は数分でインサイトを実行に移せるため、ネットワークの価値を最大化するために必要となる手作業が削減されます。RRM パフォーマンスが継続的に評価されるので、ネットワーク管理者は RRM の状態を瞬時に評価でき、RRM の決定と運用においてこれまでにない可視性を得ることができます。
Cisco AI Enhanced RRM は オンプレミスアプライアンスであるCisco DNA Center によって管理されており、Cisco Catalyst AP から収集した RF テレメトリを Cisco DNA Center およびデータが保存される Cisco AI Analytics Cloud に提供します(図 3)。Cisco RRM のアルゴリズムによってデータが分析され、構成の変更点が Cisco DNA Center に戻されて、AP に送信されます。Cisco AI Enhanced RRM は現在の構成パラメータを検証し、改善点を推奨し、密度と負荷に基づいて追加の AP が必要かどうかを運用担当者に示します。
Cisco Catalyst アクセスポイントでの電力の最適化
Cisco Catalyst 9136 アクセスポイントの電力消費を最大 3 分の 2 削減できる機能が導入されました。これらの AP はセンサーを内蔵しており、負荷管理に基づいて消費電力を決定します。AP はシスコのスマート AP 機能を使用して、現在の負荷に応じて電力消費量を変更します。Wi-Fi ネットワークを使用しているクライアントの数が少なければ、自動的に無線ストリーム数を減らして節電し、運用コストを抑えます。
さらに、TWTという省電力モードを使用することで、管理者は事前に決めた時間に AP とデータ交換を行うことができます。これによってバッテリ駆動型デバイスのエネルギーを節約でき、以前の 802.11n および 802.11ax Wi-Fi ソリューションと比べて最大 3 ~ 4 倍の省電力を実現できます。
Wi-Fi 6E のデバイスエコシステム
シスコの Wi-Fi 6/Wi-Fi 6E ソリューションが最高のパフォーマンスとユーザーエクスペリエンスを提供できるように、シスコはパートナーエコシステムの構築も行っており、現実世界での相互運用性テストと統一された FCC 標準および IEEE 標準への準拠を促進しています。デバイスパートナー様には、Apple、Intel、Samsung、Siemens の各社が含まれています。このエコシステムでは、デバイスクライアントの根本原因分析、デバイスの分類、カバレッジホールの報告、オペレーティングシステムとドライバの相互運用性などに取り組んでいます。
Wi-Fi 6E AP 管理 – シスコおよび Cisco Meraki のオプション
クラウドで管理されたネットワーキング エクスペリエンスをお探しのお客様もいらっしゃれば、すべての管理を社内およびオンプレミスで行うことを望まれるお客様もいらっしゃいます。Wi-Fi 6E の新しいイノベーションでは、両方のオプションに対応するソリューションとハイブリッド展開のサポートが提供されています。
新しい Cisco Catalyst 9100 シリーズの Wi-Fi 6E AP ファミリは、Cisco Catalyst 9800 シリーズ ワイヤレスコントローラと Cisco DNA Center を使用してオンプレミスで管理できます。サービスとして提供する Cisco Meraki クラウド管理ダッシュボード(図 4)では、Wi-Fi 6 および Wi-Fi 6E 導入環境のクラウド管理に向けた一歩として、Cisco Catalyst AP の使用状況メトリックを表示できるようになりました。AP には、Cisco DNA Center または Cisco Meraki のペルソナが付属しており、必要に応じてどちらのペルソナにも変換できます。
シスコのワイヤレスコントローラと Cisco DNA Center を使用すれば、本社の IT 担当責任者は Cisco Catalyst 9100 シリーズ AP をオンプレミスで管理することができます。Cisco Meraki クラウド管理ダッシュボードを使用して AP をクラウドで管理することで、小売チェーンは手軽なスケーラビリティとロータッチ運用というメリットを得られます。今後は Meraki クラウド管理ダッシュボードで、Catalyst AP を完全に管理できるようになる予定です。他にも、ワイヤレスを導入している多くの企業に、オンプレミスソリューションとクラウド管理ソリューションを組み合わせることによって両方の長所を活用できるというメリットがもたらされます。
Wi-Fi 6E の登場に合わせ、高いスループットとキャパシティを持つこの広帯域ネットワークでサービスやユーザーエクスペリエンスをシームレスに展開して管理できるようにするための取り組みをシスコは主導しています。積極的かつ継続的に開発に取り組むとともに、堅牢なパートナーエコシステムの構築を進めており、Wi-Fi 6E インフラストラクチャを現実世界の条件で継続的にテストし、検証しています。