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Wi-Fi 7 規格の調整により、ネットワーク インフラストラクチャをベースにした企業向け・産業用管理ツールの実現を 


2021年11月9日


この記事は、Wireless Standards の Manager である Andrew Myles によるブログ「Wi-Fi 7 needs refinement to enable network infrastructure-based management tools for enterprise & industrial usepopup_icon」(2021/10/13)の抄訳です。

 

20 年以上にわたって発展してきた Wi-Fi の経済効果が年間 5 兆ドルに

IEEE 802.11 に基づく Wi-Fi は、過去 20 年以上にわたって発展を続け、ますます多様化するユースケースのニーズに対応してきました。元々 Wi-Fi はラップトップをアクセスポイントに接続することを主眼としており、主に企業の重役室などで使われていました。現在では、家庭、企業、工場、公共スペースなど、あらゆる場所で利用されています。通信量が少ない電子メールから低遅延、高スループットが求められる AR(拡張現実)/VR(仮想現実)アプリケーションまで、あらゆる種類のトラフィックを伝送します。Wi-Fi の効果に関する最新の経済調査では、Wi-Fi が世界経済に与える効果は 2025 年までに年間約 5 兆ドルに達すると予測されており、Wi-Fi の経済効果と多様性が極めて端的に示されています。

Wi-Fi の成功は、継続的な改良と開発の賜物

Wi-Fi が成功できたのは、IEEE 802.11 規格に長期にわたり数々の改定が行われてきたおかげです。1997 年に初めて承認されて以来、主要な改定のたびに、新しい PHY レイヤのプロトコルが規定され、関連する MAC レイヤの改良が重ねられてきました。これまで 802.11b、802.11a、802.11g、802.11n( Wi-Fi 4)、802.11ac(Wi-Fi 5)が策定され、最新版は 802.11ax(Wi-Fi 6 および Wi-Fi 6E)となっています。こうした改定が行われるたびに、スループットの向上、遅延の低減、信頼性と効率の向上、管理の強化など、既存および新規の市場セグメントのニーズの拡大に対応して、優れた新機能が導入されてきました。

次世代の Wi-Fi である Wi-Fi 7 の目玉は、超高スループット(EHT)

IEEE 802.11 ワーキンググループは、20 年以上にわたる伝統を引き継ぎ、次世代の Wi-Fi である IEEE 802.11be の策定を進めています。Wi-Fi Alliance からは Wi-Fi 7 という名で販売されるものと思われますが、ワーキンググループでは、Extremely High Throughput(EHT)と呼ばれています。現時点では、IEEE 802.11be は 2 回に分けてリリースされる予定になっています。最初のリリースには、高スループットとの関連性が明らかなさまざまな機能が盛り込まれるものと見られています。具体的には、320 MHz チャネルの定義(IEEE 802.11ax の最大チャネル幅は 160 MHz)や 4096 QAM 変調(IEEE 802.11ax で規格化されたのは 1024 QAM)などです。これらの機能は、車に例えれば、ものすごいスピードで車を走らせることができる大きなエンジンを搭載するようなものです。

効率向上のための機能も Wi-Fi 7 の改良点の一部

IEEE 802.11be の最初のリリースには、アクセスの効率化によって総スループットを向上させるさまざまな機能も盛り込まれる見込みです。具体的には、マルチリンクオペレーションやRestricted Target Wake Time(TWT)などです。これらの機能は、遅延の低減と信頼性の向上にも寄与します。マルチリンクオペレーションは、クライアントデバイスを、2.4 GHz、5 GHz、6 GHz など 2 つ以上の無線周波数帯を同時に使用してアクセスポイントに接続できるようにするものです。Restricted TWTは、アクセスポイントで、指定された時間にメディアへの排他的アクセスを割り当てられるようにする技術です。IEEE 802.11ah(Wi-Fi Halow)で初めて定義され、その後 IEEE 802.11ax に導入された機能が基になっています。

これも車に例えるならば、マルチリンクオペレーションは、高速道路で長時間同じ車線に留まらせることなく、状況に応じて常に最適な車線を選択できるようにするようなものです。実際には複数の車線を同時に使用できるようにもなります(現実の車ではそうはいきませんが)。またRestricted TWTは、相乗り自動車や料金を支払ったドライバー専用の車線を新たに追加するようなものと考えてください。両方の機能を適切に使用すれば、ネットワークリソースの使用を管理して運用を最適化できる柔軟性が生まれ、総スループットが向上します。

効率向上のための Wi-Fi 7 の機能は、高スループットと同じくらい重要

制限速度を超えるスピードを出そうとする車マニアやそんな相手を追いかける警察にとっては、大きなエンジンを搭載した車を所有するのは非常に大事なことです。しかし、ほとんどの人にとっては、安全に運転できるように作られている道路を走行することの方が、大きなエンジンよりも重要です。車マニアにしたところで、大きなエンジンを使用する機会はそれほど多くないため、見せびらかすことが何よりも重要ということになります。

Wi-Fi 7 についても同じことが言えます。320 MHz チャネルや 4096 QAM 変調などの機能が実際に重要となるのは、特殊なケースで使用する場合です。そしてもちろん、箱に書かれているスループットの数値の大きさに関心があるベンダーや消費者にとっては重要な機能と言えるでしょう。一方、マルチリンクオペレーションやRestricted TWTのような機能は、ほとんどとは言わないまでも、実際の多くのユースケースで重要になるはずです。シスコのお客様の関心が特に高い企業ユースケースおよび産業/IoT ユースケースにおいては、特にこれが当てはまります。

実用性を高めるには、効率向上のための Wi-Fi 7 の機能に関する規格の調整が必要

マルチリンクオペレーションとRestricted TWTは、将来的に IEEE 802.11be の非常に有用な機能になる可能性があります。ただ問題なのは、実際にこの見込みを実現するためには、現時点の規格草案を修正する必要があるということです。問題の原因は、どちらの機能についても同様です。従来 のWi-Fi は、各クライアントデバイスに基づいて多くの重要な運用上の判断を下してきました。具体的には、動作チャネル、起動するタイミング、ローミングするタイミング、送信電力、チャネルアクセスメカニズムのさまざまな側面などについての判断です。ただ多くの場合、ネットワーク インフラストラクチャ、特にシスコが提供するような適切に管理されたエンタープライズクラスのネットワーク インフラストラクチャに比べ、クライアントデバイスは、ネットワーク全体とその目的に対する視野が限られています。ネットワーク インフラストラクチャから積極的なガイダンスを出してクライアントを管理することが有効なはずです。Wi-Fi 7 の目標であるワンランク上の Wi-Fi 性能を達成するための最も良い方法は、ネットワーク インフラストラクチャの観点を信頼して活用することです。

すべての Wi-Fi 7 クライアントでRestricted TWT ルールの遵守を

Restricted  TWT については、現時点の IEEE 802.11be 規格の草案では、ネットワーク インフラストラクチャが指定された時間に特定のチャネルに排他的アクセスを割り当てようとしても、クライアントデバイスが無視できるようになっています。これでは、どちらかと言えば混乱を招くような管理メカニズムを使ってネットワーク インフラストラクチャの側でそうしたクライアントをチャネルから移動させない限り、Restricted TWT 機能は実質的にほとんど役に立ちません。Restricted TWT のメカニズムを理解または遵守しないデバイス(レガシーデバイスを含む)に妨害されることなく、 Restricted TWT がチャネル内で動作できるようにすべきです。そのためには、IEEE 802.11be 規格の草案を修正し、ネットワーク インフラストラクチャがネットワークを管理しやすくする必要があります。基本的な要求として、個々のクライアントがより広範なクライアントコミュニティの利益に沿って、効率的かつ効果的にアクセスを管理するネットワーク インフラストラクチャの機能を尊重するような規格にしてほしいところです。

Wi-Fi 7 でネットワーク インフラストラクチャによるマルチリンクオペレーション管理の実現を

マルチリンクオペレーションについては、現時点の IEEE 802.11be 規格の草案では、クライアントデバイスは複数のリンクを自由に選択して使用できます。しかし、クライアントでは、ネットワーク全体やその目的を十分に把握できず、運用を最適化できません。たとえばパフォーマンスを最適化するには、レーダー回避や干渉低減のためのチャネル可用性チェックをはじめとする必要な操作を実行しつつ、動的にリンクを追加・削除する機能がインフラストラクチャには必要です。また、個々のクライアントだけでなく、ネットワーク全体の目的を達成できるよう、複数のリンクにトラフィックを分散する方法を把握する必要もあります。帯域が不足している場合や重要なサイトの運用を保護する場合には、このようなインフラストラクチャの機能が特に重要です。

Wi-Fi 7 には、企業ユースケースおよび産業ユースケースに対応するネットワーク インフラストラクチャをベースにした管理ツールが必要

多くの一般的な企業や産業環境でネットワーク全体の目的を達成するには、ネットワーク インフラストラクチャにネットワーク運用の管理と最適化を任せることが望ましく、不可欠と言ってもいいかもしれません。ネットワーク インフラストラクチャをベースにした管理の利点について、例を挙げて考えてみましょう。医療環境であれば、Wi-Fi 7 を機密性の高い医療アプリケーションの中核で安全に動作させたうえで、来院者がゲームをしたりビデオを観たりできるような運用が実現するという確信が深まるでしょう。工場では、ネットワーク インフラストラクチャが環境に応じてトレードオフを行えます。このトレードオフにより、損害が大きく潜在的に危険な停止やシャットダウンが起こらないよう生産ラインを保護し、魅力的な新しい VR(仮想現実)/AR(拡張現実)アプリケーションを導入しつつ、休憩中の従業員がお気に入りの YouTube 動画を視聴できるようになります。

こうしたメリットはすべて、ネットワーク インフラストラクチャがネットワーク全体を見渡して、その運用と目的に沿った判断を下すからこそ実現できるものです。これと対照的なのが個々のクライアントで、ネットワークの環境や目的への視野が限られたものになりがちであり、より大きな利益に沿わない可能性があります。だからこそ、混乱を招くような管理メカニズムを使わなくても、マルチリンクオペレーションやRestricted TWT の改良版のようなツールをネットワーク インフラストラクチャで使用できるようにすることは理にかなっていると言えます。

今すぐ Wi-Fi 7 規格を調整し、ネットワーク インフラストラクチャをベースにした企業向け・産業用管理ツールの実現を

IEEE 802.11(Wi-Fi)規格は徐々に調整されていくため、機能の適切なバランスは必ず問題となります。ただし、企業ユースケースおよび産業ユースケースにおいては、ネットワーク インフラストラクチャをベースとした効果的で実用的な管理が次世代 Wi-Fi に求められることは明らかです。マルチリンクオペレーションやRestricted  TWT などのツールについて、できる限り早く規格を調整して最適化する必要があります。Wi-Fi コミュニティには、IEEE 802.11be および Wi-Fi 7 の最初のリリースの一環として、今すぐこれらのツールの規格を調整してもらいたいところです。

本ブログ記事は Brian Hart、Malcolm Smith、Pooya Monajemi の協力を得て執筆しました。

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