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Wi-Fi 6 と 5G が異なる理由:物理的特性、経済性、人間の行動に関する側面

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John Apostolopoulos, Ph.D.この記事は、シスコのエンタープライズ ネットワーキング ビジネス&イノベーション ラボのバイスプレジデント兼CTO である John Apostolopoulos 博士 によるブログ「Why Wi-Fi 6 and 5G Are Different: Physics, Economics, and Human Behaviorpopup_icon(2019/4/9)の抄訳です。

現在、ワイヤレス ネットワークが注目されています。世界で最も使用されている 2 つのワイヤレス テクノロジーがアップグレードされており、テクノロジーを利用している世界中のほぼすべての人に影響を及ぼす可能性があります。

Wi-Fi(ローカル ワイヤレス)は、Wi-Fi 6 へと大きく進歩しようとしています。また、携帯電話ネットワーク(モバイル ネットワーク)も、5G にアップグレードされつつあります。これらのアップグレードにより、企業には新たな機会がもたらされ、ユーザには、新しい機能が提供されます。アップグレードされたローカル ネットワークおよびモバイル ネットワークは、さまざまな使用例に合わせて最適化されてきたため、その利用方法が異なります。

これらの使用例はどこが違うのでしょうか。ワイヤレス設計に影響を与える 3 つの重要な側面があります。それは、物理的特性、経済性、人間の行動です。これらの要因を理解すれば、進化するワイヤレス環境を最大限に活用する方法がわかります。

電波の状況

2019 年初頭の時点で、新しいローカル ワイヤレス規格である Wi-Fi 6 が、すでに一部のモバイル デバイスに組み込まれています。年末までには、新しい高機能スマートフォン、タブレット、ノートブック パソコンの標準的機種のほぼすべてに組み込まれるでしょう。同様に、Wi-Fi 6 アクセスポイント(AP)も、今年後半までに広く普及すると予測されています。

Wi-Fi デバイスとサービスは、高いデータ レートが求められる高密度の屋内環境でも、優れたカバレッジを実現するように最適化されています。

また、5G も、高機能スマートフォンによってサポートされ始めています(米国で最初に 5G スマートフォンを発表した企業は、主力のスマートフォンのアップグレード モデルに 5G を導入しました)。今後 2 年間で、利用できるデバイスがますます増えて行きます。特定の市場では 5G のベースステーションも展開が始まり、5G のカバレッジが拡大していきます。

携帯電話サービスは、サービス プロバイダー間でのローミングや海外とのローミングによる対応を含め、屋外のどこでも使用できるように設計されています。そこが Wi-Fi と異なる点です。

これらの基本的な状況を踏まえた上で、先に示した 3 つの要因について、ワイヤレス設計に対する影響力の概要を理解できるように説明していきます。

物理的特性

すべてのワイヤレス伝送システムは、同じ物理的法則に従って機能します。ただし、1 つの物理的な側面を活用するために設計を最適化すると、多くの場合、別の側面でマイナスの影響が発生します。ワイヤレス ネットワークでは、データ伝送速度、信号範囲、建物内での伝播機能、アンテナのサイズなどの属性の間に、一定のトレードオフの関係があります。

伝送用の無線周波数を選択する場合、伝送の無線周波数帯域と、帯域の幅という、2 つの基本的なパラメータがあります。帯域の幅は、通常、帯域幅と呼ばれ、データの伝送に使用されます。一般的に、周波数が低いほど伝播に適しています。ラジオやテレビ放送は、約 500 KHz から 800 MHz までの周波数を占有し、家庭や建物向けに、長距離を伝播されます。しかし、放送用に使用するということは、これらの周波数は、最新のデータ転送用ネットワークには利用できないということです。通常、ワイヤレス データ プロトコルは、放送用周波数のすぐ上の周波数から利用されます。最初の携帯電話用帯域は、800 MHz でした。Wi-Fi 用帯域は、2.4 GHz 以降で利用されます。

幸いなことに、通常、周波数が高くなると、データ送信に使用できる帯域幅が大幅に大きくなります。大きな帯域幅を利用することで、信号を高速に変調することが可能になり、データの転送速度が向上します。また、テクノロジーの進歩とアプリケーションの機能拡張によって、ほぼすべての人が高速伝送を必要としています。

周波数が高いことによって、アンテナのサイズを小さくできるという別のメリットもあります(アンテナ サイズは、波長の長さに比例しますが、周波数が高いと、波長が短くなるからです)。これは、小型化する上で大きなメリットです。つまり、より高い周波数で機能することにより、次の 2 つのメリットがあります。1 つは、多くの場合、帯域幅が増えることで伝送速度が速くなること、もう 1 つは、アンテナを小さくできるため、デバイスを小型化できることです。しかし、大きなマイナスの影響があります。周波数が高くなると、信号が建物内に届きにくくなることです。屋外では正常に届いていた携帯電話やモバイルの信号が、屋内に入ると弱くなる可能性があります。

現在では、屋内で携帯電話の信号が弱くなると感じることなどないかもしれませんが、それは、携帯電話での通話や電子メールの閲覧などには、大きな帯域幅が必要ないからです。しかし実際には、携帯電話に影響があります。屋内から屋外の携帯電話のベースステーションにパケットを送信する場合、一般に、受信状態のよい屋外でまったく同じパケットを送信する場合よりも、はるかに多くの電力を使用します(バッテリーの寿命がその分短くなります)。さらに、データ レートも大幅に低下します。建物の奥の方にいた場合、モバイル デバイスは、定格の最高速度に近い速度では受信できません。

これらの物理的特性によるトレードオフが、Wi-Fi の設計を促す重要な要因でした。また、次に説明する、経済性における考慮事項でもありました。

経済性

5G と Wi-Fi 6 が同様のテクノロジーを使用しているにもかかわらず(データを電波にエンコードする方法や、無線の送受信時のスケジューリング方法などまで類似している)、携帯電話システムと Wi-Fi システムを構築する際の経済性は、大きく異なっています。これは、異なる使用例に対応するように設計されているからです。その違いとは、ネットワークを利用するユーザと、ネットワークを運営する事業者の双方における使用例の違いです。

ネットワーク事業者として、すべてのエリアをカバーする携帯電話インフラストラクチャを構築するには、莫大なコストがかかります。米国の大手通信事業者は、5G にアップグレードするために、2019 年に数百億ドルの支出が必要になると伝えています。さらに、携帯電話の周波数を使用する免許を取得するために、数十億ドル投資しています。このような投資によって、大規模な通信インフラストラクチャが機能しています。経済性の面から、小規模なアプローチや段階的なアプローチでは対応できません。

携帯電話ネットワークを構築した企業がコストをカバーして収益を上げるためには、従量制の定期利用方式で、毎月一定額をユーザに直接支払ってもらう必要あります。また、インフラストラクチャの利用が多いほど、多くの料金を請求できます。

携帯電話に比べ、ローカル ワイヤレス ネットワーク機器は、非常に安価です。Wi-Fi ルータは少量ずつ一度に購入できるため、ビット単位で分割して償却する必要はありません。Wi-Fi は、1 箇所だけに導入する場合でも、ユーザに大きなメリットがあるため、価値を提供するために世界中に広大な地理的スペースを用意する必要はありません。また、免許不要の周波数を使用するため、機器メーカーが周波数を使用する権利を得るために、入札に参加する必要もありません。

さらに、新しい Wi-Fi 6 デバイスは、古いバージョンの Wi-Fi が稼働する AP とも通信できます。そのため、屋内に設置されている Wi-Fi アクセス ポイントはそのまま活用できます(もちろん、新しい Wi-Fi 6 AP に変えるとパフォーマンスが向上します)。先進国では、Wi-Fi は、屋内用データ転送システムとして導入され、依然として拡大しています。シスコの調査によると、一般の人がアクセスできる Wi-Fi ホットスポットの数は、2017 ~ 2022 年の間に 4.5 倍以上に増え、5 億 4900 万台のアクセスポイントが設置されると予測されています。Wi-Fi は安価で、屋内に広く導入されており、安定しています。

携帯電話規格は Wi-Fi とは異なり、携帯電話製品を開発して販売しようとすると、テクノロジー自体のライセンスを取得するのに、莫大なコストが必要となります。Wi-Fi は IEEE 規格に基づいており、関連するライセンスに関するデバイスあたりのコストは、LTE/4G または 5G 製品よりも大幅に少なくなります。Wi-Fi 無線が内蔵されたコンピュータ自体popup_iconを 10 ドルで購入できるのはそのためです。一方、iPad に LTE モデムを追加するだけで、価格は 100 ドル以上高くなります。

Wi-Fi は、携帯電話には必要なライセンス コストが不要で、莫大なコストがかかる大規模なインフラストラクチャも必要ないため、低コストを維持できます。Wi-Fi 経済モデルには、月額定期利用料金制度は導入されていないため、低コストであることは重要です。

携帯電話ネットワークは、Wi-Fi の経済モデルでは実現できなかったでしょう。逆に Wi-Fi が携帯電話のコスト構造であれば、これほど普及して強力なものにはならなかったでしょう。2 つの異なる経済モデルによって、それぞれ異なる 2 つの使用例において、両方のネットワーク システムが成功しました。

モバイル トラフィックとローカル ワイヤレス トラフィックは急速に増加しています (Cisco VNI Mobile、2019 年)

モバイル トラフィックとローカル ワイヤレス トラフィックは急速に増加しています(Cisco VNI Mobile、2019 年)

 

しかし、テクノロジーや経済性によって、ワイヤレス製品に対するニーズが高まるわけではありません。むしろその逆で、テクノロジーや、そのテクノロジーを支えるビジネス モデルは、テクノロジーを使用する人々のニーズに応えるために開発されたものです。そこで、ワイヤレス製品の開発に関して、3 つ目の側面が重要となります。

人間の行動

携帯電話と Wi-Fi という異なるテクノロジーが、2 つの主要なワイヤレス ネットワーク テクノロジーとして存在している最大の理由は、人によってニーズが異なるためです。異なるニーズに応えるために、2 つのネットワークが進化しています。

歩きながら電話をかけたり、バスから電子メールに返信したり、運転中にポッドキャストをストリーミングしたりするときに、ネットワークに接続できない場所があると耐えられないでしょう。一方で、多くの帯域幅を使用するわけではありません。多くても、HD や 4K ビデオの場合で、2 ~ 20 Mb/s で十分でしょう。この値は決して少ないわけではありませんが、例外的な要件と言えます。多くの場合、モバイル デバイスで必要とされるビデオ解像度は低く、多くのビット レートは必要ありません。さらに、現在人々が携帯電話で利用している、動画以外のほとんどすべての機能は、はるかに少ないデータしか消費しません。移動中にデバイスを使用している人は、ほとんどの場合、少量のデータしか使用しません。時々少量のデータを利用したり、送信したりするだけです。

携帯電話インフラストラクチャは、このような行動をサポートしています。携帯電話インフラストラクチャは、地理的に広いエリアを移動している間も、デバイスを常に接続したままにしておくことに適しています。また、データを少量しか利用しない場合や、一般的なストリーミング メディアを利用する場合は、手頃な価格で利用できますが、帯域幅を集中的に使用する場合や、連続して使用する場合は、経済的に非効率です。

持ち歩いたデバイスをどこかに座って開き、そこで作業をするのがフリー スペース利用です。フリー スペース利用の場合は、大容量のファイルを受信し、編集してからオンラインで送信するなど、データを大量に使用する可能性があります。また、複数の人が参加する長時間のビデオ会議セッションに参加することもあります。このような場合、高速で安定した接続が必要になります。また大量のデータを使用する可能性が高いため、ビット単位で課金される環境には適していません。

同じデバイスを同じユーザが利用する場合でも、モバイル ユーザとして作業する場合と、フリー スペース ユーザとして作業する場合では、通常、データの利用方法が異なります。ある大手ハンドセット メーカーによると、そのメーカーのハンドセットは、携帯電話ネットワークに接続している時間の方がはるかに長いにもかかわらず、送受信するデータの 90% が Wi-Fi 経由だそうです。

その他のネットワーク

人々の行動と使用例におけるニーズによって、ネットワークの背後にあるビジネス モデルが推進されています。もちろん、物理的特性や経済性におけるさまざまなトレードオフも考慮する必要があります。

物理的特性/経済性/行動モデルは、他のニーズや他のネットワークを検討する際にも有効です。物理的特性/経済性/行動(人の行動だけでなく、アプリケーション、デバイス、プロセスなどのふるまいも含む)によって、IoT 専用のネットワーク(Zigbee、Thread など)が存在する理由や、新たな 5G の高周波数帯(ミリ波と呼ばれる)への拡張が、固定ワイヤレス アクセスに対するニーズへの対応に最適な理由、LTE から派生した、CBRS と呼ばれる「免許を容易に取得できる」新しいネットワークが、産業用工場のニーズに対応できる理由を説明できます。

物理的特性と経済性に加えて、人々の行動と使用例に対応しようとすることで、現在に至るまで Wi-Fi と携帯電話ネットワークが定義されてきました。Wi-Fi 6 および 5G 携帯電話による大きな進歩によって、我々全員に、ますます多くの機会とすばらしいアプリケーションがもたらされることでしょう。

Wi-Fi 6 および 5G の今後の展開については、5月9日に開催された「Reinventing Access:Wi−Fi6で未来とつながる。」イベントのビデオをご覧ください。

Authors

Cisco Japan

シスコシステムズ合同会社

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