私はシスコの開発者向けプログラムである Cisco DevNet を担当しています。Apple と Cisco のパートナーシップ、および、WWDC での iOS 10 についての発表が DevNet と iOS の開発者にとってどのような意義があるのかについて、ここで紹介できることをとても嬉しく思っています。その中でも、iOS 10 にエンタープライズ向けのさまざまな機能が多数搭載されること、Apple とシスコが緊密に連携してシスコのネットワーク上で稼働する iOS デバイスのユーザ エクスペリエンスを最適化しているということは特筆すべきことです。
そして、DevNet が存在することで、iOS と DevNet の開発者がそれらを実現できているのです。みなさんは、DevNet の Apple API を今すぐ実際に使用することができます。この API を使用することで、Apple とシスコの製品の連携を強化して、新しい iOS 10 の機能を活用できるようになります。
DevNet と iOS の開発者にとってのこのパートナーシップの意義
Apple はモビリティ分野におけるグローバル リーダーです。また、iOS は最も先進的なモバイル オペレーティング システムであり、さまざまな企業が iOS をモバイル戦略の中心に据えています。一方、シスコはネットワーキングとコラボレーション分野のリーダーです。フォーチュン 500 の企業とグローバル 500 の企業のほぼすべてが、iOS デバイスとシスコのネットワークを利用しています。現在、Apple の開発者プログラムと Cisco DevNet では、エンタープライズ ネットワークでより効果的に機能する、優れたアプリケーションを開発できるツールを開発者に提供し、ネットワークや IT の管理者とオペレータが iOS デバイス、アプリケーション、データを自社のネットワークや IT 環境の一部としてシームレスに管理できるようにしています。
Apple とシスコは連携して、シスコ ネットワークにおける iOS ユーザのモバイル エクスペリエンスが最適化されるように、以下の 3 つのことを実施しています。
- Wi-Fi 接続の最適化:iPhone および iPad がシスコのワイヤレス ネットワークと通信する方法を最適化して、ユーザが最大限のネットワーク パフォーマンスを得られるようにしています。
- ビジネス上重要な iOS アプリケーションおよびデータ専用の「ファストレーン(高速レーン)」の設定:ネットワーク上を多くのアプリケーションやデータが移動していますが、ビジネスにとってそれらすべてが同じように重要というわけではありません。QoS を有効化して iOS ビジネス アプリケーションに優先順位を付けることで、ビジネスにとって最も重要なアプリケーションを分類して最優先し、それらにファストレーンを割り当てます。
- 音声とコラボレーションの統合ソリューション:iOS 10 を使用することで、Cisco Spark のような VoIP アプリケーションと iPhone を統合して、シームレスなコール エクスペリエンスを実現します。これで、従業員がエンタープライズ向けの音声サービスを自分の iPhone で利用できるようになります。
開発者にとっての意義、ネットワークと IT 管理者および IT オペレータにとっての意義
それでは、これまでに紹介した内容を、技術的な面から見てみましょう。
アプリケーションの開発者は、QoS を使用して iOS 10 内のさまざまなデータを区分することで、アプリケーションのネットワーク パフォーマンスを最適にすることができます。シスコのファストレーンでは、ファストレーン機能を搭載した iOS 10 デバイスの QoS マークをネットワークで識別し、iPhone または iPad からの優先順位の高いデータをネットワークのファストレーンで送信します。たとえば、リアルタイムの音声やビデオ データは、それほど緊急性のない Web ページ データと処理を区別することができます。このようにして、アプリケーションとネットワークのパフォーマンスを向上することが可能です。また、ファストレーンにより iOS デバイスとシスコの Wi-Fi ネットワークがお互いを素早く認識できるので、最適なワイヤレス パフォーマンスを実現することができます。
もう少し技術的に踏み込んで説明しましょう。QoS はこれまでにもすでに使用されていますが、ネットワーク上のユーザ、アプリケーション、デバイスに適用するのは、従来難しいとされていました。QoS サービス クラスの使用方法に一貫性がないためです。Apple は QoS のサービス クラスの数を 5 から 9 へと増やしました。これにより、開発者はアプリケーションで使用されるデータの各種クラスの指定と優先順位付けをさらに細かく行うことができるようになりました。また、QoS の 9 つのサービス クラスを利用することで、ワイヤレス アクセス ポイントとネットワーク ルータが使用する QoS の優先順位を、さらに適切にマッピングできるようになります。これらのクラスは、IETF の QoS サービス クラスの仕様に対応しているため、インターネットとの一貫性が確保されます。というのは、これらのクラスは、802.11 のアクセス カテゴリと IPv4/IPv6 ヘッダーの DSCP 設定と対応しているからです。
ネットワーク管理者および IT 管理者とオペレータは、モバイル デバイスの管理技術などの手法を利用してプロファイルをデバイスにプッシュすることで、自社の企業データ ネットワークに iOS デバイスをシームレスに統合することができます。プロファイルには、どのアプリケーションがビジネス関連のもので、アップストリームの QoS 処理を受けるはずのものかが指定されています。これらのプロファイルにより、ネットワーク オペレータはビジネス アプリケーションおよびデータの相対的な優先順位を把握して、ネットワークやアプリケーションのパフォーマンスを高めることができます。
Cisco Spark は、チームがコラボレーションするためのエンタープライズ ソリューションです。Cisco Spark には、エンタープライズ メッセージング、チーム ルーム、音声およびビデオ コールなどの機能が用意されています。Cisco Spark iOS アプリケーションは iOS とシームレスに統合されるため、ユーザはアドレス帳の連絡先をタップするだけで瞬時に VoIP コールを開始できます。サードパーティ製アプリケーションを起動する必要はありません。また、ロック画面の状態から直接コールに応答することができます。ヘッドセットを使用することも、コール ウェイティング機能を利用してコールを切り替えることもできます。Cisco Spark は、iOS 10 の新機能を使用して、iPhone および iPad で、Voice over IP コールや Video over IP コールを最高レベルのサービス品質で利用できるようにします。
iOS 10 SDK は現時点ではベータ版であり、Apple と緊密に連携して、開発者、IT 管理者、ネットワーク管理者、オペレータがすべての機能を利用できるように作業中です。シスコは今後新しいワイヤレス アクセス ポイントおよびネットワーキング デバイスをリリースし、既存のシスコ ネットワーキング デバイスに対しては、これらの機能を全面的に利用できるようにするためのソフトウェア アップデートを提供する予定です。ユーザにとっては、iPhone と iPad でエンタープライズ クラスの卓越したパフォーマンスが利用できるという意義があります。ネットワーク管理者、IT 管理者、およびオペレータにとっては、ネットワーク上のデバイス、データ、アプリケーションを管理しやすくなります。
DevNet の役割
DevNet は、開発者とイノベーションのためのシスコのプログラムです。DevNet では、開発者に対して、シスコのプラットフォームや API の開発に必要な学習およびコーディングのリソースが提供されています。
- DevNet の学習およびコーディング リソースは、http://developer.cisco.com で入手できます。
- DevNet のラーニング ラボは自分のペースで学習できる無料のラボで、コーディング基礎(REST、JSON、XML、Python)やネットワーク基礎に加えて、コラボレーションからソフトウェア定義型ネットワークに及ぶ、シスコの API の詳細を学習することができます。オープン ソースを利用することも可能です。ラーニング ラボの利用には登録が必要ですが、すべてのラーニング ラボは無料で利用できます。
- DevNet Sandbox は、開発者が実際のシスコのキット(稼働中のネットワークからコンタクト センターまで)でコードを開発するための場所です。実際のキットでコードを開発してみましょう。
- DevNet ラボでは、シスコや DevNet の開発者による DevNet イノベーションが紹介されています。既存のイノベーションを確認したり、自分のイノベーションを登録したりしましょう。
シスコの開発者は、本日発表されたインテリジェント ネットワーク サービスを利用して、企業のデジタル変革を支援することができます。現時点で使用可能な DevNet API をいくつか紹介します。
- コネクテッドモバイルエクスペリエンス(CMX):開発者が、以下のような方法でシスコの Wi-Fi アクセス ポイントを使用して、「iOS と親和性が高い」屋内ロケーションサービスを構築できるようにします。シスコのアクセス ポイントの機能:
- プライバシーを確保するために、iOS のローカルで管理される MAC アドレスをネイティブで除外します。
- CleanAir で iBeacons を検出して CMX 画面に表示し、API 経由でデータにアクセスします。
- 高パフォーマンスの屋内ロケーション サービスを提供します。シスコのハイパーロケーション機能については、iOS デバイスを使用して広範な試験が行われました。
- Cisco Spark for Developers:Cisco Spark for Developers を利用することで、全世界の開発者がチーム コラボレーション機能を使用できるようになります。今後リリースされる予定の iOS 用 SDK により、Apple の開発者は、人気の高いモバイル アプリケーションで Cisco Spark サービスを使用できるようになります。ベータ版へのアクセスを要求して、ベータ版の改良にご協力ください。サインアップしてベータ版にアクセスする。
- Tropo は、音声およびメッセージング用のクラウド API です。Tropo API を使用して、iPhone や iPad のモバイル アプリケーションで機能する、音声およびテキストベースの便利なアプリケーション(クリックツーコールや二要素認証など)を開発しましょう。
- Cisco Instant Connect SDK:エンタープライズ向けのプッシュ ツー トーク(PTT)ソリューションで、グループと個人両方のコミュニケーションおよびコラボレーションをサポートします。
Apple とシスコの連携:企業は、新しい働き方を採用するにあたって、従業員が使い慣れたデバイスで卓越したユーザ エクスペリエンスを実現できるようにすることで安心感を与えることができます。
終わりに
私たちは、企業のモバイル エクスペリエンスをまったく新たなレベルに引き上げるために、ラボで Apple との連携作業を進めています。そして、この取り組みに iOS と DevNet の開発者によるエコシステムが加わったことをとても嬉しく思っています。今後数ヵ月の間に、さらなる進展についてお知らせする予定です。
シスコと Apple の API と SDK をぜひ使ってみてください。
使用した結果や、サポートが必要な事項などをお知らせください。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
この記事は、ネットワーク エクスペリエンス VP & CTO である Susie Wee によるブログ「Apple and Cisco DevNet: What’s in it for Developers」(2016/6/13)の抄訳です。