この記事は、シスコ フェローであり、コラボレーション ビジネスの CTO でもある Jonathan Rosenberg によるブログ「The Four Dimensions of Open」(2015/8/27)を意訳したものです。
先週は、著作権使用料無料の次世代ビデオ コーデックを作成する取り組みであるプロジェクト Thor についてご紹介しました。この記事に対してたくさんの反響が寄せられたことをうれしく思います。一方、何かをオープンにするとはどういう意味かについて、かなり混乱が見られたのも確かです。ここではそのような混乱を解消し、オープンであることの 4 つの特性について説明します。次の 4 つです。
特性 1:「オープン ソース」という意味でのオープン
オープンの 1 番目の特性は、テクノロジーをオープン ソース形式で使用できるかどうかです。オープン ソースの場合は、通常、ソース コードが入手可能で、それに関連するライセンスの中でコード所有者は、コードが他のプロジェクトで無償で使用、配布、変更されることを許可します。シスコは、通常 BSD ライセンスを使用します。オープン ソース ライセンスは実際には著作権について述べていることに注意してください。つまり、そのコードを他のプロジェクトに含めて配布できるかどうかを規定しています。本当にすべてが無料かどうかは、次の特性になります。
特性 2:「無償」という意味でのオープン
オープンの 2 番目の特性は、無料でそのテクノロジーを使用できるかどうかです。あるコードの中で、特許取得済みのものが実装されている場合には、興味深い状況になります。この場合、特許所有者に対して著作権使用料を支払う必要がありますから、このテクノロジーの使用は無料とは言えないでしょう。コードがオープン ソースであっても(特性 1)、無償ではない(特性 2)ということは十分にあり得ます。この代表的な例が x264 です。これはオープン ソース プロジェクトです(実際、GPL ライセンスの下で使用できます)が、H.264 は特許取得済みテクノロジーを採用しているので、これを使って商用製品を出荷するすべての企業は特許所有者(この場合、MPEG-LA コンソーシアム)に特許ライセンス料を支払う必要があります。ちなみに、x264 に付属する GPL ライセンスでは商用製品そのもののコードをオープン ソース化するよう求めていますが、それは別の話になります。
特性 3:「標準」という意味でのオープン
オープンの 3 番目の特性は、標準開発組織(SDO)によってテクノロジーが開発されたかどうかです。SDO によってテクノロジーが開発された場合、多くの利点があります。テクノロジーの変更管理と所有権は 1 つの営利団体の手を離れて、コミュニティの所有物になります。SDO にはさまざまな組織からの代表が参加できるため、多くのニーズが満たされます。また SDO はコミュニティからレビューを受けることが可能で、さまざまな場所にいるエキスパートたちがテクノロジーを調査してその機能を検証できます。通常、SDO には変更、バグ修正、ドキュメンテーション、承認を扱う確立されたプロセスがあるため、生成されるテクノロジーは安定性と成熟性を備えています。このため、テクノロジーの採用/実装が容易になります。特に、いったん実装したら変更が難しい場所(ハードウェアなど)ではそう言えます。これらの原理のほとんどが Open Stand で説明されています。
特性 4:「公開されている」という意味でのオープン
オープンの最後の特性は、テクノロジーがドキュメント化され、そのドキュメンテーションに誰でもアクセスできる形で配布されているかどうかです。API はしばしば、このカテゴリに属します。多くの点で、これは 4 つの中で最も弱い特性です。
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あるテクノロジーにこれら 4 つの特性のどれか 1 つまたは複数が欠けているというだけで、そのテクノロジーが「悪い」ということにはなりません。実際、多くのテクノロジーはこれらの特性をすべて備えていなくても、「オープン」という通称で呼ばれています。その一例が Facebook グラフ API です。このテクノロジーは特性 2 および 4 に基づいて「オープン」と見なされます。つまり「無償」という意味でのオープン、「公開されている」という意味でのオープンです。しかし業界標準ではなく、オープン ソースとして入手可能でもありません。Facebook グラフにアクセスするための SDK(コード)は「無償」という意味でオープンですが、Facebook はソース コードを提供していないため、「オープン ソース」という意味でオープンではありません。さらに、Facebook API は確かに「標準」という意味でオープンではありません。それでも、これは明らかに有用で貴重なテクノロジーです。
別の例として、シスコのルータ実装 BGP(ボーダー ゲートウェイ プロトコル)があります。
BGP は、「公開されている」および「標準」という意味でオープン テクノロジーです。しかし、シスコのルータ実装は有料であり、そのコードをオープン ソース化していません。したがって「無償」、「オープン ソース」という意味でオープンではありません。しかしこれも貴重なテクノロジーです。
音声およびビデオのコーデックは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアの広範な製品におよぶ、最も複雑に深く実装されるテクノロジーの代表例です。したがって、ビデオと音声のコーデックは究極的に 4 つの特性すべてを必要とするとシスコは考え、それを実現させるために積極的に投資しています。