5G-シスコが考えるサービスプロバイダー E2E アーキテクチャ 第8章 5G のサービスユースケース(2)

第 8 章 5G のサービスユースケース(2)

昨今のデジタル技術の進化に伴い、多くの企業では競争力の維持・強化を図るためにデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。今回は、5G を活用して企業のデジタルトランスフォーメーションへに貢献するという観点でのサービスユースケースをご紹介します。

8.4 スマート ファクトリーと製造業に対するデジタル トランスフォーメーション

日本は、製造業が国の基幹産業であり、政府が進める Society 5.0 でも工場のスマート化は大きなテーマとして議論されています。単に高度なモノ作りにとどまらず、部品メーカーを結ぶサプライチェーンや、5G モジュールを組み込んで出荷した製品のライフサイクル全般を統括的に管理・運用することが考えられています。その結果、今後、サプライチェーンで利用が進むと考えられているブロックチェーンなど、さらなるデジタルトランスフォーメーションの進化に 5G のインフラを活用し、より柔軟に対応することが期待されています。本項ではスマート ファクトリーにおける 5G のメリットを述べるだけではなく、製造業、ここでは自動車製造企業にとって、5G がどれだけ企業のデジタルトランス フォーメーションに貢献できるかを見ていきます。

図 8-2 5G のスマート ファクトリーへの活用と製造業へのデジタル トランスフォーメーション推進

図 8-2 は、スマート ファクトリーへの活用および製造業へのデジタル トランスフォーメーション推進について示しています。右側が対象となる自動車製造ベンダーの企業ドメインになっており、一般的な IT 部署が管理するオフィスと OT(Operation Technology)部署が管理する工場のフィールドを示しています。また、左側がモバイル サービス事業者のドメインです。ここでは協業する自動車製造ベンダー向けのスライスを作成しており、5G では商品であるコネクテッド カーや従業員の接続サービスを提供しています。これら 2 つのドメインがどのように連携し、企業側のトランスフォーメーションが推進されるかを見ていきたいと思います。

8.4.1 エンタープライズドメイン

工場において 5G を活用したスマート ファクトリーの事例について見ていきましょう(総務省ではローカル 5G という形で、土地所有者もしくは委託事業者による工場内限定でのサービスが議論されています。本項ではローカル 5G により工場のスマート化を実施するケースを想定しています)。

工場における情報化は、OT と呼ばれ、オフィスにおける情報化である IT とは技術やオペレーションが異なる部分もあります。たとえば OT では通信の遅延の許容時間が非常に小さく、TSN(Time Sensitive Networking)といったミッション クリティカルな通信品質が求められます。また、機器のライフサイクルも IT 製品に比べると非常に長く、インフラの停止を極力行わないオペレーションが求められます。現在、工場内の生産ラインの工作機器は有線回線で固定されています。仮に、生産ラインを変更する場合は、工場の生産ラインをいったん停止させたあと工作機器を移動し、再度セットアップする必要がありました。工場内の無線化については以前から検討されていましたが、無線通信の遅延と信頼性が課題でした。アンライセンス帯域(2.4/5Ghz)の Wi-Fi では妨害電波に弱く、混信、ノイズによる干渉などが発生する可能性があるため、なかなか導入に踏み切れないのが現状でした。

一方、ライセンス帯域の 5G ではその課題は解消されます。工作機器に 5G モジュールを搭載し、複数の 5G 対応の高解像度位置センサーと連携した場合、工作機器の移動が容易で、遠隔操作で設置場所も制御できるため、生産ライン変更の際も停止時間を極力短くできる可能性があります。また、工場作業員のウェアラブル端末や、4K/8K の高解像度カメラの映像は、工場内で低遅延用にスライシングされた MEC の画像解析 AI により即座にフィードバックを送ることが可能になります。たとえば工場作業員が誤った作業をした場合、ウェアラブル端末が即座にアシスト メッセージを出して作業員の生産性を高める支援を行い、一方、工作機器は逐一正確な部品の状態を把握することで生産ラインの不良品率の低下が期待できます。

8.4.2 マルチドメイン

次に、サービスプロバイダドメインとエンタープライズドメインの連携を実現するためにシスコが提唱する マルチドメインの役割について見ていきます(図 8-2 参照)。シスコは製造業も含む一般的なエンタープライズ向けに、直感的なオペレーションを可能にする DNA-C(Digital Network Architecture-Center)のコンセプトを発表しました。これは、 IT 部署および OT 部署で利用する有線、および Wi-Fi から接続される PC、モバイル端末、および、すべての IoT デバイスに対して、端末レベルで認証を行い、ポリシー コントロール機能を提供します。これにより、ネットワークのセキュリティは高いレベルを保証される一方、直感的なポリシー適用を可能にし、IT 部署および OT 部署の運用コストの低減を実現しています。

図 8-3 企業ネットワークとモバイル網の融合

シスコは、エンタープライズ事業者がモバイル サービス事業者に対して、自社のネットワーク同様、5G 環境においてもモバイル端末の一貫したセキュリティ ポリシーの適用を求めている点を考慮し、API 連携を提唱しています。例えば、5G Coreのポリシー制御機能と DNA-C を API を介して連携させることにより、モバイル端末の位置情報と DNA-C からのポリシー情報を参照して、モバイル端末のコントロールを行うようなことが可能になります。(詳細は第 7 章参照)

企業では 、IT 部署および OT 部署が業務用モバイル端末に関するガイドラインを設定しているものの、厳格な適用は難しいのが実情です。DNA―Cを活用すれば、工場内では業務用モバイル端末に通話のみのアプリを許可するといったガイドライン遵守も可能になります。また、IT 部署では、製品稼動時に想定した場所(国)以外での利用を制限したり、完成品のセンサーの設置場所や製品のアクチュエータの状態をセキュリティを高めた状態でサポート部署にレポートすることにより、予兆交換をしたり、修理部品を事前に手配し円滑に修理を行うといった顧客満足度の向上にも貢献できる可能性があります。

8.5 まとめ

本章では 5G サービスのユースケースについて、スマートシティと スマートファクトリーについて具体的な事例を紹介しました。5G のアーキテクチャはモバイルサービス事業者にネットワーク インフラの柔軟性を提供すると同時に、MEC による低遅延通信やデータの分散処理を実現し、スマートシティを推進する自治体や、工場のスマート化を進める企業のデジタルトランスフォーメーションの推進をもたらすでしょう。

一方、5G がすべての IT および OT の問題を解決できるわけではないため、モバイルサービス事業者は、ユースケースの検討、導入を進める際に、顧客の既存ビジネスとネットワークを理解したうえで 5G の有効性を具体的なソリューションとして提案する必要性があります。

これを実現するには、多くの IT および OT、またデジタルトランスフォーメーションを熟知するソリューション パートナーが必要であり、シスコとシスコパートナーはその一角として参加し、活躍できることを期待しています。

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用語集

IT: Information Technology
OT: Operational Technology
MDM: Mobile Device Management
SDA: Software-Defined Access

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山田 欣樹

山田 欣樹

MANAGER SYSTEMS ENGINEER

2006年シスコシステムズ入社。

サービスプロバイダー事業に関するプリセールス部門にて、システムズエンジニアおよびマネージャーとして、大手通信キャリアの各種プロジェクトに従事。

CCIE#22519