5G-シスコが考えるサービスプロバイダー E2E アーキテクチャ 第6章 5G 時代に考える エンドツーエンド オートメーション(1)

第 6 章 5G 時代に考える エンドツーエンド オートメーション(1)

これまでの章では、主に 5G におけるネットワーク インフラの技術やアーキテクチャの変遷について見てきました。それを踏まえて、本章のテーマである「エンドツーエンド オートメーション(自動化)」について考えます。そもそも自動化とは何でしょうか。なぜ 5G では自動化が必要と考えられているのでしょうか。あらためて 5G のアーキテクチャの変革を振り返りながら、その理由を考えてみましょう。

なお、本章ではオートメーション、自動化、オーケストレーションの用語を同じ意味で用います。

 

6.1 5G システム アーキテクチャの変革のおさらい

図 6-1 に、これまでの章で見てきた 5G でのシステム アーキテクチャの変革の全体像を示しました。各セクションで見たポイントを整理してみます。

  • テレコム クラウド基盤の登場
    • 仮想ネットワークファンクション(VNF)やクラウド ネイティブ ファンクション(CNF)の登場により、ネットワークのコアからエッジまで様々な場所にテレコム クラウド基盤が構築されます(第 4 章)。仮想・コンテナのフォーマットでデプロイされる VNF や CNF を動作させるための x86 サーバが多数配備されることになり、それを効率的に収容し管理するための広帯域・低遅延なデータセンター ファブリックが必要となります。
  • エッジの変革
    • エッジは特に大きく変革します。基地局のソフトウェア機能が分解(ディスアグリゲーション)され仮想化した vRAN がエッジ DC で動作します(第 1 章)。また、モバイル エッジ コンピューティング(Mobile Edge Computing; MEC)のユースケースでは、モバイルのユーザ プレーン ファンクション(User Plane Function; UPF)や低遅延を要求する仮想・コンテナアプリケーションが展開されるようになります(第 3 章第 4 章)。
  • トランスポートネットワークの変革
    • エッジ DC の数の増大に伴って、エッジ DC 同士、およびエッジ DC とセンター DC をつなぐトランスポート ネットワークの重要性が増すことになります。さまざまなサービスが拠点をまたがって分散配置されるようになり、一貫した SLA や通信ポリシーの提供のためにエンドツーエンド ネットワーク スライスの提供が求められます(第 5 章)。
  • エンドツーエンド スライシング
    • エンドツーエンド ネットワーク スライスで一貫した SLA を実現するためには、5G のコアおよび無線区間の通信ポリシーとトランスポート ネットワーク上での通信ポリシー、データセンター ファブリック上の通信ポリシーがエンド ツー エンドで一貫したものになる必要があります。これは、コントロールプレーン、データプレーン、マネジメントプレーンのすべての設定を統一的に制御しなければ実現できません。

 

図 6-1 5G システム アーキテクチャの変革の全体像

 

こうしたポイントを踏まえて、本章のテーマであるエンドツーエンド オーケストレーションの必要性を考えてみましょう。

 

6.2 変革から浮かび上がる運用上の課題

上で述べたようなインフラ側の変化から、次に挙げるように、従来のネットワーク インフラ運用になかった課題が浮かび上がってきます。

  • システム管理者が扱うレイヤの数とコンポーネントの数が激増します
    • ネットワーク ファンクション本体の管理に加え、VNF が動く仮想レイヤ、CNF が動くコンテナ レイヤ、コンテナ OS を載せる物理サーバ レイヤ、それを収容する DC ファブリック レイヤ、さらにトランスポート ネットワークまでを、一貫したポリシーで管理しなければなりません。
  • それぞれのレイヤの技術を理解し構築・運用・トラブルシュートできる人材が必要になります
    • 運用コストを急に増やせない場合、従来よりもはるかに多くのコンポーネントを少人数で管理することになります。
  • レイヤが増えることから、複数のレイヤ間で一貫した通信の設定を行うことが重要になります
    • 例えば、仮想レイヤと物理ファブリック、トランスポートの間での整合的な VLAN 設定やVRF設定、ルーティング設定などが挙げられます。
  • 通信の信頼性を担保、監視する仕組み (=アシュアランス)が必要になります
    • ネットワーク ファンクションがディスアグリゲーションされ、マイクロサービスとして展開されるということは、従来は専用ハードウェア内部で行われていた通信がイーサネットや IP の通信として外部化されることを意味します。その通信を運ぶファブリックの設計や、通信の信頼性を担保、監視する仕組みが必要とされるでしょう。

 

これらの課題には個別にアプローチする必要がありますが、共通しているのは、人には扱いきれない複雑性の増加とデバイス数の増大、それに起因する運用上のヒューマン エラーのリスクだと言えるでしょう。そこで、5G では自動化によってこうした課題にアプローチすることが不可欠と考えられているわけです。

 

6.3 自動化のゴールは「クローズド ループ」

では、自動化を実現するために何が必要なのでしょうか。

自動化の究極的なゴールは、これまで人が行ってきた作業を人の手を経ずに行うことと言えるでしょう。

従来のネットワーク オペレーションでは、人がネットワーク機器からさまざまなログやデータを取得して蓄積し、ツールを使って分析・可視化していました。そこから人が問題の兆候を見つけ出し、対処法を判断します。そして、人がサービスや機器に対して必要な変更を施します。データの収集から始まるこうした一連の作業を「クローズド ループ」と呼んでいます[1]。図 6-2 に、クローズド ループを構成する 4 つの大きな機能コンポーネントを示します。

図 6-2 ネットワーク自動化のクローズド ループ

 

自動化とは、人間ではなくプログラム(ソフトウェアや AI と読み替えてもいいでしょう)に、このクローズド ループの各機能を実行させることと言えるでしょう。

これを実現するためには、既存のネットワーク管理基盤にどのような要素を追加する必要があるでしょうか。図 6-2 をもとに、データを収集・分析する視点(図の 1、2、3)と、サービスおよびデバイスのライフサイクル管理(図の4)の視点のそれぞれから考えてみましょう。

  • データの収集・統合・保存・分析 (Assurance; アシュアランス)
    • ネットワークの各レイヤごとに、統計データやログを収集する仕組みが必要です。従来と異なるのは、人と違いプログラムが理解できる構造化データが出力されることが求められる点です。また、各レイヤの正確な状態を判定するためには、従来よりも高精度のデータを収集する必要もあります。これにはストリーミング テレメトリ[2] と呼ばれる技術が用いられます。
    • 大量のデータを処理し、必要なアプリケーションにフィードするためのコレクターおよびデータ プラットフォームが必要になります。
    • 複数のレイヤから収集されるデータを関連付け(コリレーション)して、問題の原因を推定する分析エンジンが必要になります。データが膨大な量になるため、こうした関連づけを人が行うことは困難です。そこで、近年の機械学習(Machine Learning; ML)や人工知能(Artificial Intelligence; AI)の助けを借りて、データから有意義な情報の抽出を行うことが必要になってきます[3]。
  • サービス デバイスの設定とライフサイクル管理 (Provisioning; プロビジョニング)
    • 5G のシステムではネットワーク ファンクションは仮想化・コンテナ化されています。そのため、VNF・CNF の配置・起動・停止・削除等のライフサイクルを管理する仕組みが必要になります。ETSI(欧州電気通信標準化機構)[4] で定義された MANOスタックでは NFVO/VNFM のコンポーネントがこれにあたります
    • プログラムが設定を投入・変更・削除できるようにするために、各デバイスは自身のデバイス モデルを公開し API 経由で制御できることが求められるでしょう。また、管理コンポーネント同士が API 経由で連携できる仕組みも実装される必要があります。たとえば分析アプリケーションが問題を検知したら、プロビジョニングを担うオーケストレーションの API を叩いてネットワークの変更を行うことなどが考えられます。
    • エンドツーエンドでサービスを展開する場合、複数のドメインの複数のレイヤにまたがって整合的な設定を投入する必要があります。こうしたサービス単位の設定の抽象化を実現するためのオーケストレーション エンジンが必要になります

 

このようにプログラムにクローズド ループを実現させるという大きなゴールから検討を始めることで、必要となるアシュアランスおよびプロビジョニング用の管理コンポーネントをもれなく整理し、その要件を適切に特定していくことができます。ここに挙げたのは一般的な例に過ぎませんが、ユーザの事情に合わせた最適な自動化ソフトウェア スタックを選定するにあたっても参考となれば幸いです。

 

まとめ

今回は、5G に向けてのインフラ アーキテクチャの変革トレンドから、運用上の課題が浮かび上がり、その解決には自動化が必要であることを見てきました。第 2 回では、5G で求められるエンド ツー エンド オーケストレーションの視点から、その要件やメリットについて考察します。

 

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参考文献

[1] Cisco Crosswork Network Automation: https://www.cisco.com/c/en/us/products/cloud-systems-management/crosswork-network-automation/index.html

[2] Telemetry: http://www.openconfig.net/projects/telemetry/

[3] Cisco Crosswork Situation Manager https://www.cisco.com/c/en/us/products/collateral/cloud-systems-management/crosswork-network-automation/datasheet-c78-740229.html
[4] ETSI https://www.etsi.org/

 

用語集

NF: Network Function. ルータやモバイルコアなどネットワーク装置

VNF: Virtual Network Function. 仮想化された NF

CNF: Cloud Native Function または Container Network Function. コンテナ化された NF

UPF: User Plane Function. 5G のモバイルコアの NFの1つ

SLA: Service Level Agreement. ここではユーザ企業と通信事業者の間で交わされるサービスレベルを合意した契約

VRF: Virtual Routing and Forwarding. ルータの仮想ルーティングテーブル

MANO: Management and Orchestration. ETSI NFVで定義された管理ソフトウェア群

NFVO: NFV Orchestrator. ETSI NFVで定義された管理ソフトウェアコンポーネントの1つ

VNFM: Virtual Network Function Manager. ETSI NFVで定義された管理ソフトウェアコンポーネントの1つ

 

 

佐々木 俊輔

2008 年にシスコ入社。

サービスプロバイダー担当のアカウント SE として7年間、モバイルネットワーク、データセンター、法人ネットワークなど様々なお客様・部署へのプリセールス活動に従事。その後、シスコの買収した製品群に合わせてNFV / SDN / Automation 領域での知識を活かした経験を積み、サービスプロバイダ部門全般を担当するアーキテクトとして活動中。

学生時代は地球惑星物理学を専攻、物理現象のコンピュータモデリングとシミュレーションに取り組む。

最近の趣味はロードバイク。