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シスコ派遣記6~京都府とシスコの「スマートシティ」への挑戦~


2016年10月31日


本ブログも「働き方改革」をテーマに、はや6回目になりました。少しずつですが、ブログを通して、社内はもとより、企業や地方自治体の皆様からも、いろいろな反応をいただけるようになり、大変有り難く思っています。今回のブログでは、少しアプローチを変えて、ICT 活用という観点から、京都府とシスコが進める「スマートシティ」について簡単にご紹介したいと思います。

そもそも「スマートシティ」って

「スマートシティ」という言葉をどれくらいの方がご存じでしょうか。最近、よく「スマートなんとか」という言葉はよく耳にしますが、「スマートなシティって何?」というのが素朴な疑問ではないでしょうか。

「スマートシティ」とは、これといった定義はなく、「環境配慮型都市」と訳されるケースもあるものの、本来的には「ICT(情報通信技術)を活用して基礎インフラと生活インフラの両方を効率的に運営(=スマート化)することによって、人々の生活の質を高め、継続的な経済発展を目的とした新しい都市」と言えます。なかなかこれだけでスマートシティの全てを伝えることはできませんが、ざっくり言うと「ICT で人々の暮らしを豊かにすること」と言い換えることができるかと思います。

シスコの進める「Smart City Project」

今、世界の多くの都市は、cisco-dispatched-06-challenge-to-smart-city-fig01エネルギー消費の削減や交通システムの改善、安全性とセキュリティの確保、行政や日々の生活に関する情報伝達といった課題を解決して、都市サービスを向上させることが求められています。また、急激な都市化により、2050年には世界人口の 70%が都市部に集中すると言われており、都市のインフラ強化や住民の生活の質の向上は喫緊の課題となっています。

そのような中で、シスコは ICT を活用することで、これらの課題を解決するとともに、コストを抑えつつ、より効率的で充実したサービスを提供して住みよい街づくりを実現するため「スマートシティ プロジェクト」を展開しています。

~世界 25か国以上の 40を超えるグローバル実績~

シスコが支援するスマートシティ プロジェクト事例シスコの「スマートシティ プロジェクト」は世界の25か国以上の40を超える都市で展開されています。スマートシティの先進事例として有名なバルセロナ(スペイン)やアムステルダム(オランダ)、ハンブルグ(ドイツ)、ロンドン(イギリス)、シカゴ、ニューヨーク(アメリカ)などをはじめ、近年では、カンザスシティ(アメリカ)、バンガロール(インド)もスマートシティ プロジェクトに参画するなど、スマートシティの取組みが急速に拡大しています。

グローバルでスマ―トシティのソリューションを提供する企業には、Cisco、IBM、Intel、Silver Spring Networks、GE Lighting、Siemens などがありますが、2016年3月の Navigant Research のスマートシティ テクノロジー マーケットの調査によると、スマートシティの戦略と実践の視点から、シスコと IBM がグローバルでのリーダーに位置付けられています。

あらゆるものがICTで繋がり、暮らしをスマートに

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー  PART2』(1989年公開)を見たことがありますでしょうか。タイムマシンに乗って過去と未来(2015年)を行き来する SF 映画ですが、実は映画の世界で登場したモノや技術が現在において実現していることが分かっています。例えば、iPad のようなタブレット型デバイスや 3D映像、プロジェクション マッピング、グーグルグラスなどがそうです。他にも、ドローンやテレビ電話、人工知能、AR 技術、自動走行技術なども同じく映画の世界が実現している事例だそうです。

このように、数十年前まで SF 映画や小説、アニメ、漫画などで夢物語のように語られていた近未来の世界観が実現する時代に近づいてきました。まさにスマートシティはそのような世界観を集約したものであり、近未来都市をイメージした街づくりだと言えると考えます。

では、スマートシティが進むと具体的にどのようなことが可能になるのでしょうか。シスコのスマートシティプロジェクトの一つであるバルセロナの事例を挙げながらいくつかご紹介したいと思います。

バルセロナでは 2000年から 10年以上もスマートシティに取り組んでおり、主に Wi-Fi を都市の ICT の共通基盤として活用することにより、サービスや生活に変革をもたらし、新たなイノベーションを創出するとともに、産業の活性化や雇用の拡大という効果を生み出しています。

具体例として、1つ目は「スマート ライティング」と呼ばれる取組みです。街灯に設置したセンサーからそのエリアの交通量を読み取り、交通量に応じて街灯の明るさを自動で調整するというものであり、エネルギーの効率化に加え、電気代の削減にもつながるというものです。

2つ目は、「スマート パーキング」です。駐車場に設置したセンサーから空きスペースを感知し、空き状況をドライバーのスマートフォンに送信するというものであり、駐車場を探す時間の短縮や渋滞を緩和させるとともに、観光客の滞在時間増加による観光収入の増加をもたらすことができるというものです。

そして3つ目は、「スマートなゴミ収集管理」です。ゴミ箱内の温度と重量を検知することにより、ゴミ箱の満杯・空き状況を把握し、ゴミ収集車のドライバーに送信される仕組みになっています。これにより、ゴミ収集車が無駄に回ることがなくなり、作業時間の短縮や作業の効率化を図ることができ、ゴミ収集の経費節減にもつながっています。また、センサーにより、危険物を察知することもでき、安全面の向上にも貢献しています。

これら以外にも、環境センサーによる騒音、大気汚染のチェックや IPカメラによる不審者監視など、街中に張り巡らされた Wi-Fi を活用することで、あらゆるものが繋がり、スマートな暮らしを実現させるとともに、新たな価値を創造しています。

京都府スマートシティ プロジェクトがスタート

cisco-dispatched-06-challenge-to-smart-city-fig052015年5月、京都府とシスコは本格的にスマートシティプロジェクトを進めるため、 ICT 等を活用した地域づくり・スマートシティづくりに関する連携・協力協定を締結しました。これは、ICT の最新技術とノウハウを有するシスコと京都府が相互に連携・協働することにより、新たな社会システムとイノベーションを創出していくことを目指すものであり、地域の特性に応じて、地域が抱える多様な課題をスマートに解決していくというものです。シスコにとって、京都府とのプロジェクトは日本初のスマートシティの試みになります。

~ICT による京都周遊観光促進(スマート観光)実証プロジェクト~

「京都」と言えば、まず何が思い浮かぶでしょうか。清水寺、金閣寺、嵐山などの観光名所でしょうか。もちろん古都「京都」と呼ばれるだけあって、歴史的建造物や古い町並み、寺社仏閣といった観光名所は有名ですが、京都の魅力はそれだけではありません。京都には海や森、お茶といった知られざるもう一つの魅力があります。京都府としては、そういった京都市だけでない「もう一つの京都の魅力」を多くの観光客に感じてもらうため、京都の北部や南部といった地域へ観光客を積極的に呼び込み、周遊観光を促進する必要があります。

また、京都へ訪れる外国人観光客は年間300万人を超えており、外国人観光客の言語といった障害を解決し、世界観光都市の名に恥じない観光サービスを提供していく必要があります。

そのような課題を踏まえ、2016年5月、京都府とシスコ、精華町が共同して、JR京都駅に「デジタルサイネージ」 および「バーチャルコンシェルジュ」を整備し、ICT による京都周遊観光促進(スマート観光)実証プロジェクトを2か月に渡り実施しました。

(1) 多機能デジタルサイネージ
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京都駅 SUVACO 付近に設置したデジタル サイネージ(コネクテッド ツアリズム)は、良く街で見かける普通の電子掲示板ではなく、デジタル動画はもちろんのこと、それ以外にも多くの機能を搭載しています。まず、左の動画放映パネルで京都の魅力、イベント情報、見どころを紹介し、気になった情報や観光地を右のタッチパネルですぐに検索することができます。右のタッチパネルのことをインタラクティブサイネージと呼びますが、あるようでなかなかない仕組みではないでしょうか。スマートフォンやタブレットと同じように触れることができるため、だれでも操作が簡単であり、大画面で知りたい情報を知りたい時に検索できるため、非常に分かりやすく利便性の高い仕組みになっています。

さらに、特筆すべきは、「Spectee Localive」という仕組みで、伏見稲荷や宇治などの6エリアからインスタグラムなどの SNS 投稿された画像を自動(人工知能)でリアルタイムに収集し表示することができ、既存の観光情報だけでなく、観光客目線の隠れた京都の魅力を発信し、受け取ることができるという新たな観光案内の手段になっています。

このデジタル サイネージも日本語、英語、中国語の3か国語対応になっており、京都の玄関口として京都駅へ多く訪れる外国人観光客にとって、大変便利なツールです。私も何度か現地へ行きましたが、日本人よりも外国人の方が自然に触っていたような印象がありました。

(2) 多言語バーチャル コンシェルジュ
京都駅インフォメーション センターに設置されたバーチャル コンシェルジュは、いわゆる多言語観光案内ができるツールです。特に、年間 300万人以上の外国人観光客が訪れる京都にとって、外国語で観光案内ができるということは必要不可欠な要素です。このバーチャルコンシェルジュ(テレビ会議システム)では、画面を通して、外国語が喋れるコンシェルジュ スタッフに直接つながり、知りたい情報や観光地などへの行き方をリアルタイムで入手できます。これにより、外国人観光客にとってストレスなく安心して京都を観光することができます。

本プロジェクトは 2か月限定で行われましたが、デジタル サイネージについては、2か月間で計 25,000回、1日に平均 460回タッチされており、非常に多くの観光客に利用していただいたことが分かります。このような新しいツールは敬遠しがちですが、触れた人にとっては、品質の良さや利便性の高さを感じてもらえたのではないかと思います。

住んでよし、訪れてよしの京都を目指して

現在、京都府スマートシティプロジェクトは、けいはんな学研都市(精華町)を中心に実験ベースで行われていますが、今後、精華町でのスマート ライティングを皮切りに、府内市町村でもヘルスケア・教育・水資源管理・交通・橋梁・スタジアム・港湾管理といった様々な分野で ICT を活用した街づくりが展開されていく可能性があります。

京都府が進めるシスコとのチャレンジはまだまだ始まったばかりであり、街づくりというだけあって、そう簡単に短期間では実現しません。しかしながら、着実に前進しており、シスコの進める日本のスマートシティプロジェクト第1号として、大変期待されています。

先程紹介したとおり、京都には歴史や伝統文化、海、自然、お茶等、様々な魅力が凝縮されています。京都府でも「もう一つの京都」という位置づけで、「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」とカテゴリーに分けてそれぞれの魅力を発信すべく、様々な施策を展開しています。そのような京都が潜在的に持つ魅力と ICT の先端技術をうまく組み合わせ、さらなる京都の活性化を図るとともに、住民にとっても ICT を活用した暮らしやすさを享受できるようなスマートシティが実現することを期待しています。

次回のテーマは、「シスコ派遣記7~京都府職員に働き方アンケート実施!結果から見えたこと~」です。実験を通して、職員の皆様から新たな気づきや課題を与えてもらっています。そのような部分を中心にご紹介できたらと思います。

10月12日、シスコシステムズの鈴木みゆき社長が加藤勝信働き方改革担当大臣を表敬訪問しました。「シスコのワークスタイル変革」について、テクノロジーをどう活用し、どのような取り組みを行っているかをご紹介しました。その様子がシスコシステムズ公式 Facebook で紹介されています。ぜひ、ご覧ください。

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3 コメント

  1. 非常に便利そうな機能が搭載されていると見えますが、スマートフォン・タブレットと違いはよくわかりません

  2. 籾井さんのブログのおかげで「働き方改革」、私も馴染んできました。社会的に注目もされ、タイムリーなブログになってますね。
    今回のスマートシティも興味深く拝読しました。
    『急激な都市化による人口の都市部集中』は、時代の流れなんでしょうが、超高齢化社会への対応方法の一つような気もします。
    富山市のようなコンパクトシティの取組なんかがまさにそうですよね。
    スマートシティと聞くと観光振興やICTが想起されますが(私の勝手なイメージかもしれません)、ブログの後段にあるように、もっと大きく「街づくり」として考えると、いろんな社会問題の解決方法として、期待できるような気がします。

    • 籾井 隆宏

      古橋様
      コメントありがとうございます。そう言っていただけて有り難いです。是非、この機に何か変化を起こせたらと思っております。おっしゃるようにスマートシティといってもいろいろな捉え方があり、今回のパターンは自治体と組んでオフィシャルにICTを活用した街づくりを進めていくというところに意義があるのかと思います。一方でスマートシティと言っても、企業目線で考えたときに、ビジネスになるのかといった視点も重要であり、マネタイズモデルがないとの課題もあるようです。様々な課題はあるかと思いますが、夢のあるプロジェクトだと思っていますので、実現することを期待しています。